第4話☆県庁の管轄
仮想世界の宿屋で目覚めると、部屋の配置が変わっていた。
「これが噂のシャッフル機能か」
一階だった部屋が三階になっていた。眺めのいい宿屋の窓から外を見ると、街の配置も変わっていた。
「毎回これじゃ、自分がどこにいるのかマッピングしとかないと迷子になっちまう」
それでパーティの仲間たちは時間がないない言ってたんだな、と合点がいった。
「そりゃ、僕みたいな足手まといは置いていきたくなるよ」
うんうん、とうなずく。
「わかったところで、今日はぐずぐずしてられないぞ。対策をたてなきゃ」
ステータス画面を呼び出して、地図を見る。用事のありそうなところだけ場所を頭に叩き込む。
「そうだなぁ、僕はパーティから追いだされたから、自分で路銀集めしなきゃ。みんな最初は王様に謁見してお金もらってたよな。行ってみっか」
立派な城の門の前までたどりつくと、果たして門番から足止めをくらった。
「通してください!お願いします」
「一人では通せない決まりだ」
「なんで?」
「二人以上でパーティを組んでから出直して来い」
「そんなぁ」
ぼっちじゃ、相手にされない。信用がない。
巧は、とぼとぼと、引き返す。
新しくパーティを立ち上げるか、他のパーティに入れてもらうか。どっちも巧には、あてがなかった。
ギルドに寄って求人情報を見る。掲示板に羊皮紙に書かれた求人内容がピンで留めてある。
薬草集めは毎回需要がある。怪我や病気を治すポーション作りに欠かせないアイテムだから。でも半日薬草を集めて、夜に安全な宿屋に泊まると、ほとんど手元にお金が残らない。毎回その繰り返しじゃ、いつまでたってもらちがあかない。
「良い条件の仕事か、仲間探しか?」
腕を組んでうーん、とうなる。
「それか、モンスターの討伐?」
自分の強さには自信がなかった。せいぜい雑魚を偶然みつけて倒してコインにかえるくらいが関の山だ。下手すると怪我の治療で、ばか高い薬買って治したりとか……。
「ええい、下手な考え休むに似たり!行動あるのみ!」
叫んで、周囲の目に赤面する。
「仕事、仕事。割のいい仕事は……」
なぜか、『探し人』、というのに目が留まった。どんな内容かは委細面談とある。
壁に貼ってある羊皮紙をひっぺがしてギルドのお姉さんのところへ持ってゆく。
「ああ、この案件は、アルトさんの家を訪ねてください」
「アルトさん?」
「はい。今日も街の中央部に家があります」
「今日も?」
「行ってみたらわかりますよ」
「わかりました。ではよろしく」
紹介状をもらって、アルトさんの家まで行った。
「なんか、お役所みたいな建物だなぁ」
ちょっと気おくれしながら門をくぐった。ギルドのお姉さんの口ぶりだと、いつも街の中央にある、つまり、重要な建物だということらしい。
「こんにちは。ギルドの紹介で探し人のお仕事の件でうかがいましたー」
「やあ、よく来たね。見たところ普通の高校生くらいかな?」
事務服姿の男性が出迎えた。
「ここ、ほんとにアルトさんの家で間違いないですか?」
どう見ても、現実世界のお役所のような感じだった。
「まあ、実際はK県の県庁の管轄なんだけどね、便宜上仮想世界では『アルトさんの家』で通ってる」
「はあ」
「そこの椅子へどうぞ」
「あ、はい」
ソファを勧められて巧はそこに座った。スプリングが効いている。
「さっそく要件に入ろう。女の子を一人探して欲しい。写真と目撃情報は提供できるから、彼女の居場所を特定して、うちの捜査員を案内して欲しいんだ」
「これ、おりねちゃん……」
資料の写真を見て、巧は息をのんだ。
「知ってるの?ていうかどこで会ったの?」
「ダンジョンの入り口付近で」
「よく無事だったね」
「どういう意味ですか?」
巧は聞き返した。
「彼女は、たちが悪くてね、人をかどわかそうとしたり、あんまりいいことをしないんだ」
「僕にはそんな風にはちっとも」
むしろ助けてくれたぞ、と巧は思った。
「前金で500。うまくいったらさらに500追加」
思っていたより破格の値段だった。それだけ本気で仕事を依頼したいということだろう。
「うまくいったらって、どういう意味ですか?」
「彼女は20年前から現実世界に戻っていない。心配されている関係者も大勢いるし、どうにか連れ戻したいんだ」
「うーん」
「どうかしたかい?」
「もし、なにか事情があっておりねちゃんが拒否したら?」
「彼女に拒否する権利はない」
「……」
ちょっとその言い方に反感を覚えた。
「反対する理由でもあるのかね?」
「いいえ」
「じゃあ、きまりだ」
じゃら、とコインが積まれた。とりあえず巧はそれが欲しかった。
「でも、僕が案内できるのはダンジョンの入り口までですよ」
「君一人で先に歩いて行って、他の者はこっそりついてゆく。彼女が現れたら、あとはみんなにまかせて」
「うーん……」
なんとなく気が進まなかったが、言われたとおりにすることにした。
県警からの助っ人も呼んであった。巧にしてみれば、女の子一人におおげさだなあ、という感じだった。