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第3話☆学校


第3話☆学校



「巧~、宿題写させて」

クラスメイトが巧に群がった。

「はいこれ」

「サンキュ」

「自分で解かないと自分の力にはならないぜ」

「わーってる」

ありゃ絶対わかっとらんな。いつものようにみんなで宿題丸写ししている。

数学の宿題のプリント。昨日寝る前に解いて、それから仮想世界にダイブしていた。

でも、朝の英語の小テストはさんざんだった。英単語のスペルをちゃんと暗記していたつもりだったのに、仮想世界での出来事で塗り替えられて、頭から抜け落ちていた。


「よう、巧。現実じゃ優等生でも仮想世界では使えないやつ」

休み時間。パーティのメンバーの一人だったクラスメイトのテツが声をかけてきた。

「僕はまだあきらめたわけじゃないぜ」

ひゅー、とテツは口笛を吹いた。

「根性あるじゃん」

「根性だけはあるんだ」

「ところでさ、仮想世界ではなるべく単独行動しないようにお達しが出てたぜ」

「なんで?」

「変なのが出るってさ」

「変なの?」

「いわゆる地縛霊みたいなのがうろついてるらしい。つかまるなよ」

両手の親指と人差し指を立てて、銃を撃つしぐさでおどかされた。

「地縛霊?」

真っ先に織音のことが思い浮かんだが、すぐに、そんなことないだろう、と思い直した。


「僕、宝探しの商品、何をもらおうかな」

「お前まだ決めてないの?」

テツが意外そうに言った。

「うーん」

無理もない。いろんなものであふれかえっている現代。100均にいけばある程度のものが揃うし、オート化が進んで便利な世の中。手を延ばせばすぐに届く範囲になんでもある。

「悩め悩め!」

「うっせー」

平和な日常に笑い声があった。

「みんな、あれが欲しい、これが欲しい、って先に決まった目標があるからやっていけるんだと思うぜ。お前も早く欲しいものみつかるといいな」

「そっか、サンキュ。……、で、お前は何が欲しいの?」

「マウンテンバイク。赤いやつな」

「へえー」

かっこいいかもしれない、と巧は思った。

「いいな。僕も欲しいかもしれない」

「そうか?……でもこっちじゃ高価すぎて俺の手に入らんのよ。うちびんぼーだし」

「それで宝探し?」

「ザッツライト!」


お昼はサンドイッチとパックコーヒー牛乳。しばし味覚を堪能する。食べ物がおいしい。

「悩み事がないってことかな?このままじゃ、太っちゃうかもな」

巧は苦笑する。

同じ教室で、女子のグループがきゃっきゃ言って、はしゃぎながらお弁当を食べている。

「平和だなぁ」

しみじみと思った。


「ちょっと、松永君!」

よく話しかけてくる女子生徒が巧に声をかけた。

「なに?ゆいちゃん」

「今度の試験大丈夫なの?」

「なんで?」

「仮想世界で宝探ししてるって聞いたから。それで勉強がおろそかになって順位が落ちたらどうするの?」

「別にかまわないけど」

「こっちはおおいにかまうのよ!学年トトカルチョで誰が首位になるかみんなで賭けてるんだから!」

頭のいい奴は自分に賭けて、そうでないやつは頭のいい奴にオッズを予想してそれぞれ賭ける。教師には内緒。知られたら大問題だ。

「僕のことは、今回はあんまりあてにしないで」

巧はそう言った。本当に今回は自信がなかった。

「えー」

ひとしきりぶうぶう言って彼女は立ち去った。


午後は、学校集会で、みんな講堂に集められて教師たちの話があった。

「最近、巷で宝探しとかいうのが流行っているらしいが、仮想空間に滞在する時間帯は人が眠っている間だと聞く。睡眠時間というのはとても大切なもので、眠らないと気が狂うともいう。少しでも不調を感じたら、ただちに仮想世界に行くのをやめなさい」

大人たちは心配していた。

「仮想空間は、ここ数年で進歩していていろんな機能が備わっているそうだが、安全面は実証されていない。20年ほど前に仮想空間に入って、魂が還ってこなかった女子生徒がいたそうだ。そんな風にきみたちがならないことを願っている」


「どう思う?」

「さっきの話?」

「うん」

「話半分に聞いときゃ大丈夫だろ」

「そうか?」

校舎の渡り廊下で生徒たちが話していた。

巧は、そこまで心配しなくて大丈夫かな、と根拠なく思った。


帰宅後すぐに夕食をとり、宿題と今日の教科の復習をした。

巧はこっちの世界でもある程度居場所というか、存在理由をつくっておきたかった。じゃなきゃ、自分も地縛霊みたいに仮想世界にさまようんじゃないかと不安だった。


「お兄ちゃん、ちょっといい?」

妹の由美子が巧の部屋のドアをノックした。巧は高校二年だが、妹の由美子は別の高校の一年生だ。

「おう。どうした?」

「最近、仮想世界にばっかり行ってるみたいでしょ?無理してないかって、お母さんが心配してたよ」

「お前は心配しとらんの?」

「私も心配だよ!」

「ははは。そっか。じゃあ、そのうち一度くらいお前も来てみろよ。案内してやるから」

「やだ」

「なんで?」

「なんか怖いもん」

「大丈夫。いつでも待ってるぜ」

「もう。勝手にして」

「うん。勝手にする」

由美子はむくれて自分の部屋に戻っていった。


「今夜も冒険だ。楽しまなくちゃな」

巧はベッドに入ってから、いろいろ考えていたが、やがて睡魔に襲われた。

眠りに入ると仮想世界から誘いがかかり、そのままログインした。



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