俺は川からなんとか上がった。
ほんの小さな小川でも、子犬が川から這い上がるのは結構大変だった。
俺は体を乾かすために体を振った。
水しぶきが飛ぶ。
きついソースの匂いは大分ましになったが、まだ、完全には消えていなかった。
俺はしばらく、その場で倒れていた。鼻が曲がりそうなのは少しましになったが、まだ治っていない。
本当に大変だった。
俺は気分的にはこのまま寝ていたかった。
しかし、いつまでも寝ている訳にはいかない。
俺は頭を振って起き上がると一路王宮に向かったのだ。
そこから王宮までは結構な距離があった。
しかし、あとノース帝国軍が来るまで5日しか無いのだ。
急がなくては!
俺は必死に走った。
しかし、今朝の朝食しか食べていない俺は、力があまり残っていなかった。
それでも、何としても早く行かねばなるまい。
俺は無理してよろよろとよろけながらもなんとか走ったのだ。
でも、このままではまずい。
このまま走って行っても果たして王宮の中に入れるだろうか?
門の前までは行けても門番を突破するのは難しそうだ。
俺はどうしようかと悩んだ。
そんな俺の目の前に孤児院が見えてきた。
孤児院なら、ご飯を食べさせてくれるかもしれない。それはとても良い考えに思えた。
でも、破落戸の小屋の時みたいに捕まって首輪をされたら嫌だ。
俺がどうしようかと悩んでいた時だ。
「こ、ころちゃん!」
そこには確かフェナという王宮のメイドがいたのだ。
お使いか何かで孤児院に来ていたのだろう。
「どうしたの? カーラ様が心配しているわよ」
「クウーーン」
俺は心配してきたフェナに泣き込んでみた。
「えっ、おなかが空いたの?」
フェナは俺がおなかが減っているのを理解してくれた。
「院長先生、済みません。簡単なご飯か何か、この犬に与えてくださいませんか?」
フェナは俺がおなかを空かしているのを院長に話をしてくれたのだ。
「はいはい、こんな感じでいいのかい?」
院長が残りご飯と魚を出してくれた。
「わん!」
俺は喜んでご飯にありついたのだ。
「あっ、子犬だ」
俺を見かけて子供達が寄ってきた。
でも、俺はご飯を食べるのに必死だった。
「可愛い」
子供達は遠目に俺を見ていたが、俺は食うのに必死だった。
そして、なんとか食べきっておなかをいっぱいにした。
「わんわん!」
俺はおなかがいっぱいになるとやっと周りを見て吠えたのだ。
そして、それまで食べるのを見てくれていた子供達にもみくちゃにされてしまった。
その後、俺様はフェナがこのまま王宮に帰るのに、同行したのだ。
フェナに抱えてもらえて、王宮の裏門に向かった。
フェナなら、門もフリーパスのはずだった。
久しぶりの王宮が見えてきた。
でも、そこではたと俺様は考えたのだ。
どうやって俺が知った情報をカーラらに伝えようかと?
俺が調べてきた事をきちんと話せれば一番良いが、俺は今は獣化していて人間の言葉は話せない。
人に戻るには後2日くらい女人断ちをしないといけない。抱きかかえられるくらいはいいが、一緒に風呂に入る苫田人間に戻れなくなる。また、カーラには抱きつかれたら、もう厳しいと思う。
このままカーラの所に連れて帰ってくれてカーラに抱きつかれたら、また、人間に戻れなくなる。
それでは大変まずい。
人間に戻れないなら、子犬として文字を書いて情報を伝えると言う方法もあるが、何故犬が文字を書けるかということを説明しなければならなくなる。それには俺が獣医人だとばらすしか無いだろう。
でも、まだ俺が獣人だとはカーラには話したくない。例えばらしたとしても、それを信じてもらえるかどうかは判らない。
特に今は筆談しか出来ないのであれば、伝えるのはとても大変だ。
筆談と言っても人間ではなくて、俺は1字書くにも今の子犬の状態ではとても大変なのだ。
文章を一文書くのに一時間もかかっていては説明することも出来ないでは無いか!
でも、今の状態では、文字を書く以外に俺はどうやって伝えたら良いかよく判らなかった。
フェナが門番に合図して、中に入ってくれた。
このまま一緒に行けばカーラの所に連れて行かれる。
仕方が無い。
俺はフェナから飛び降りることにしたのだ。
「わん!」
俺は一声吠えて、フェナに礼を言うと、一気にフェナの腕の中から飛び降りたのだ。
「あっ、ころちゃん!」
慌ててフェナが追ってきた。
でも、王宮の中は俺も散々歩き回ったので、よく判っている。
俺は本館の場所までかけたのだ。
「ころちゃん待って!」
フェナが追いかけてきた。
でも、俺はぐんぐん駆けて行ったのだ。
「こ、ころちゃん!」
俺はその時、前方に驚いて俺を見つめるカーラを見つけたのだ。
俺は急ブレーキをかけた。
カーラがこちらに走ってくる。
俺は懐かしいカーラを見て心が迷った。
このままカーラの胸の中に飛び込みたい。
でも、カーラを守るためには人間に戻らないと無理だ。
仕方が無かった。
俺はカーラからも逃げ出したのだ。
「ころちゃん!」
カーラの俺を呼ぶ声がした。
俺は自分の心を振り切って逃げていったのだ。