「陛下、中々鋭いところをついていらっしゃいますな。私も今回の件は今朝知ったところですからな。早急にどうするか皇帝陛下とも相談せねばなりますまい」
フエルディナントはそう言うに留めた。
「そうは言っても宰相よりも先にまず我々に見せにここまでお越しいただけたのだ。期待しておりますぞ」
お父様はフェルディナントに微笑みかけた。
「私が頷くのは簡単だが、それで納得頂けるのですか?」
フェルディナントが疑い深そうに見てきた。
「そのお言葉だけで十分でございますよ。よろしくお願いします」
お父様はフェルディナントに軽く頭を下げたのだ。
「できる限りのことはさせていただきましょう。カーラ様。いざという時は私をお頼りください」
そう言うとフェルディナントは去って行ったのだ。
「サウス帝国はこちらについてくれますかな」
「皇子は有力だが皇帝までとなるとどうであろう。早めに手を打つ必要があろう」
騎士団長にお父様が答えていた。
「カーラ。儂は騎士団長と今後のことを話し合わねばならない」
お父様に暗にお前は部屋に帰れと言われたのだ。
「判りました」
これ以上私も相談することはないので、お暇することにした。
「しばらくは部屋にこもっているのじゃぞ」
私が去る間際にお父様が念をおしてくれた。
「判りました」
私はサーヤと騎士達を連れて部屋に帰った。
「姫様、フェルディナント様がいらっしゃっていましたが、白い騎士様の事をご存じでしたか?」
人払いして早速サーヤが聞いてきた。
「フェルディナント様は白い騎士様については知っていなさそうだったわ」
「そうなのですか? 私はてっきり、白い騎士様はフェルディナント様の手のものだと思ったのですが」
「フェルディナント様の所にはころちゃんが白い騎士様からの手紙を持っていったそうなのよ」
「なんと、あの子犬がですか」
サーヤは目を大きく見開いていた。
「と言うことはやはりころちゃんは白い騎士様の使い魔か何かと言うことでございますね」
サーヤは確信していた。
そこは私もそうとしかもう思えなかった。
「でも、ころちゃんはもともと怪我していたと思うのだけれど、あの怪我もわざとだというの?」
私はサーヤに聞いていた。
「うーん、そこはよく判りませんね。医者に見てもらいましたから本当に怪我しておりましたし、自分の使い魔をわざと傷つけるのもどうかと思いますし」
「そうよね。私に近づけるためにそうしたとしても、白い騎士様の行動は一貫して私を助けようとしてくれることだし、わざわざ傷つけた子犬を私の前に置いて私の元におくというのもどうかと思うのよね」
私が言うと
「白い騎士様は昔姫様が世話した方という線は考えられませんか」
サーヤが聞いてきたけれど、
「でも、そんな覚えはないわ。サーヤも白い騎士様を見たでしょう。とても凜々しい方で、相当な身分のある方だと思ったんだけど」
私は白い騎士様を思い返していた。
あの凜々しい顔立ちそれに凄まじい剣さばきはただ者では無かった。小国の王子か大国の剣聖という感じだった。
「しかし、そのような高貴な方なら、顔を見れば判るとのでは無いかと思うのですが」
サーヤが言ってくれた。確かにその通りだ。私はますます判らなくなった。
「そうだ。自分の使い魔のころちゃんが誰かに傷つけられたのを私が助けたから、私を助けようとしてくれているのかもしれないわ」
私は思いついたのだ。そうすればころちゃんが怪我していたのも白い騎士様が私を助けようとしてくれているのも理解できる。
「さようでございますね。それなら確かにつじつまは合います」
サーヤも頷いてくれたのだ。
「白い騎士様もそうですが、それよりも姫様。宰相の反乱に対して陛下達はどのようにされるおつもりですか?」
サーヤが質問してきた。
「私の前では口を濁しておられたけれど、色々と手を打ってはおられるようよ。詳しくは判らないけれど」
私は考えながら話した。
「まあ、考えたところで私どもでは出来ることはございませんけれど、宰相閣下が反乱を起こすと言うことはいきなり兵士をこの王宮に向けてくるんでしょうか?」
サーヤが聞いてきた。
宰相は多くの兵士を抱えているはずだが、この王宮の騎士達もある程度いるので、攻められてもすぐにこの王宮が落ちると言うことはないだろう。
「攻めてこられてもある程度の時間は守り通せると思うけれど」
私が言うと
「それだけで攻め取れないと知れば奥様の実家のノース帝国から兵を借りるのでは無いですか?」
サーヤが心配そうに言い出した。
確かにその可能性はある。
ノース帝国との国境からここまでは1週間ほどだ。さすがに帝国軍が攻め込んできたらこのモルガン王国など一溜まりも無いだろう。
私は暗澹たる気分になってきた。
「まあ、姫様。そうならないように、今陛下と騎士団長が色々と考えていただいていると思いますから、私達は陛下達を信頼して、ここで大人しくしているしかございませんね」
サーヤの言うことに私は頷くしか出来なかった。