私は最初にフェルディナントを大聖堂に案内しようと予定していた。
そこは私も何回か行ったことがあって、自信があったからだ。
大聖堂の前について、ころちゃんを抱いたまま、フェルディナントに下ろしてもらう。フェルディナントは私を見てにこりとしていたのに、次の瞬間私の腕の中のころちゃんと目が合って目つきが厳しくなっていた。というか一人と一匹でにらみ合っているんだけど……
「これはこれはカーラ様となんとサウス帝国のフェルディナント様ではありませんか。お二人でこの大聖堂にお参り頂けるとはこれほど嬉しいことはございません」
二人でお忍びで来ているはずが、大司教自ら出迎えに来てくれるというのもどうかなと思ったのだが、護衛の配置とかで教会にも連絡がいつていたのだろう。
結局私とフェルディナントは大司教に大聖堂の中を案内してもらうことになったのだ。
「この大聖堂は500年前に時の国王陛下が建てられた石造建築でこの国最古の建物になります……」
大司教はとても詳しく大聖堂のことを説明してくれたのだ。
ころちゃんは途中からつまらなそうにして、私の胸の中で寝てくれた。
「今日はどうもありがとうございました」
大司教に最後の挨拶をすると現金な物で
「わんわん」
ところちゃんは急に元気に起きてくれたのだ。
とても熱心に大司教は大聖堂の中を案内してくれたので、もうお昼時になってしまっていた。
昼食はフェルディナントがサウス帝国の料理を食べさせたいとのことで、わざわざ予約してくれていた。
サウス帝国のカリーという物を食べてほしいとのことで、私はその料理を食べたことがなかったのでどんな物なんだろうと私は興味津々で案内してもらった。
レストランは明るい白い建物だった。
「殿下ようこそお越し下さいました」
オーナー自らが迎えてくれた。彼らにしてみれば異国の地で営業しているところに自国の第四皇子が来訪する機会などめったにないのだろう。従業員総出のお出迎えだった。
そのまま中に案内されると、オーナーは2階の個室に案内してくれた。
「辛さはいかがなさいますか?」
オーナーが聞いてくれたけれど、私にはよく判らなかった。
「カーラ様は香辛料とかはよく食されますか?」
フェルディナントに聞かれて
「あまり食べないですね。辛いものにはあまり慣れていないかも知れません」
「そうですか。ならば辛さは普通が宜しいかと。私は辛めでよろしく頼む」
「承知いたしました」
オーナーが引っ込んでいった。
ころちゃん用には全く別メニューで犬用の食事をとってくれた。
「フェルディナント様。すみません。本来犬用なんてそのような物はないですよね」
私が謝ると
「いや、まあ、カーラ様のご要望に応えるのもエスコートしている私の勤めですから」
フェルディナントは笑って言ってくれたが、結構無理させたみたいだった。
しばらくすると私達の周りに濃い色のスープとナムというパンが出てきた。何でもこのナムをカリーという濃いスープにつけて食べるのだという。サウス帝国の有名な料理だそうで、私も郷には入れば郷に従えで食べてみることにした。
ナムをちぎってスープにつけて食べてみる。
「あっ、美味しい」
少しピリッとしたが、カリーをつけたナムは美味しかった。
「そうですか。カーラ様に喜んでもらえて嬉しいです」
満面の笑顔を浮かべてフェルデイナントが喜んでくれた。
私の食べるのを見て、なんかころちゃんもほしそうに見ているけれど、香辛料は犬には良くないはずだ。
「ころちゃんはだめだからね」
私が言うと
「クーン」
ところちゃんは残念そうに鳴いてくれた。
「おなか壊したらだめだから」
私が言うと仕方がなさそうに自分の料理に口をつけて食べ出した。
「いつもそうやつて一緒に食べているのですか?」
フェルディナントが聞いてきた。
「そうですね。父もいろいろと忙しいので、一人で食べる時は一緒に食べる時が多いです」
「そうですか? 一人で食べる食事は味気なくはないですか?」
「まあ、そうですね。ただ私にはころちゃんがいますし、侍女のサーヤとかもおりますから、どちらかというと賑やかかと」
「そうですか。それはとてもうらやましいですね。私の場合は一人で食べる食事はわびしくて」
フェルディナントはさみしそうに呟いた。
一人の食事は確かにわびしいかもしれない。
「もし宜しければ……」
「わんわん」
私が一緒に食事をしましょうかと誘おうとしたら、いきなりころちゃんが吠えだしたのだ。
そして、私の膝の上に乗って顔を舐めだしたんだけど、
「ころちゃん、ちゃんとお座りして食べなさい」
私はころちゃんを注意しないといけなかった。
「辛さはどうですか? 辛かったですか?」
少し心配してフェルデイナントが聞いてくれた。
「いえ、もう少し、辛くてもいけたかも知れません」
「そうですか。もし良ければ辛口も一口食べてみますか?」
そう言ってスプーンを変えてフェルデイナントが一口分すくって、スプーンを私の口元に持つて来てくれた。私は何も考えずにそれを口に含もうとした瞬間だ。
ガブっところちゃんが横から飛び出してきて、そのフェルディナントが差し出したスプーンをくちに入れてくれたのだ。
「えっ、ころちゃん大丈夫?」
私が慌ててスプーンから離すと
「キャイーーーン」
ころちゃんが苦しそうに鳴きだした。
私は必死に口に残ったカレーを吐き出させて水を飲ませた。
本当に大変だった。
もう、なんでころちゃんはカレーなんて食べたんだろう!
私はころちゃんにこの後めっと叱ったのだ。