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第35話 サウス帝国の皇子に町を案内しようとしたらころちゃんがいきなり皇子に噛みつきました

さて、案内当日、私はしなくても良いのに、これでもかとサーヤに着飾らされて準備させられた。

今回は一応お忍びということで裕福な町娘という感じで来てほしいと言われていたので、そういう装いになっているはずだ。

やたら化粧に時間がかかっていたんだけど、私は化粧はあまり好きではない。後で洗ったりして取るのが大変だから。

「まあ、姫様はお肌もきれいですし、元がお綺麗ですから要らないと言えばそうなんですが、これも貴族のたしなみでございますからね」

サーヤはそう言ってくれたけれど、今回は町娘という設定なんだけど……これでいいのかと思わないでもなかった。


ころちゃんは首輪をかけられるのをとても嫌がったが、

「ころちゃん。私と一緒に行ってくれるんでしょう? そのためにはさすがに首輪をつけないといけないのよ。お願い!」

そう言ってころちゃんの顔にキスしたら、真っ赤になって素直に首輪をつけてくれた。

私はほっとした。


そして、私はころちゃんを抱っこして待ち合わせの王宮の馬車乗り場まで歩いたのだ。

今日の私の護衛は一応、町の人に変装して結構な数の騎士が配置されているはずだ。

騎士団長とフェルディナントの間でいろいろ打ち合わせがされたはずだった。


「カーラ嬢」

私を見かけてフエルディナントは歩いてきたが、私の胸に抱かれているころちゃんを見て目が見開かれた。


「その犬も一緒なんですか?」

フェルディナントは少し驚いた表情をしたが、

「申し訳ありません。ころちゃんはやっと見つかったので、一時も離れたくなくて」

私は取り上げられないようにぎゅっところちゃんを抱きしめた。サーヤにもいい顔をされなかったのだが、白い騎士のためにもころちゃんを置いていく訳にはいかないのだ。

私にとって一番良い選択肢は、フェルディナントが私と仲良くなって友人として私達王家の味方をしてくれるようになるのがベストだった。

「そんなのは無理でございますよ」

サーヤには一顧だにしてもらえなかったが、やりようによっては出来るはずだ。そのためのころちゃんだった。

「わん」

私の思いにころちゃんも吠えてくれた。


「別に取り上げたりしませんよ。子犬を抱っこしているカーラ様もきれいですし」

さらりと褒めてくれるフェルディナントはさすが王族だ。女性を褒めるのになれている。

そういったことに対しての免疫のない私は少し顔を赤くしてしまった。


「この犬は『ころちゃん』というのですか」

フェルディナントがそう言いながらころちゃんの頭を撫でようとしてころちゃんが手を避けるんだけど、私に抱かれている限り避けきれない。撫でられていやだったのか撫でるフェルディナントのなんと手をがぶりと噛んでくれたのだ。

「痛い!」

思わずフェルディナントはころちゃんから手を離して飛びすさってくれた。


「わんわん」

ころちゃんが吠える。

「噛んじゃ、だめでしょう。ころちゃん」

私がころちゃんを注意すると

「うー」

ところちゃんがしゅんとしてくれた。


「大丈夫ですか? フェルディナント様」

私が慌てて、フェルディナントを心配そうに見ると、

「いや、こんなのは大丈夫ですよ。噛まれたと言ってもたかだか子犬ですからね。全然大丈夫です」

フェルディナントは笑ってくれたが、その目はころちゃんを睨み付けているんだけど……

もう、ころちゃんったら、何も噛むことはないじゃない!

私はそう思ってころちゃんを睨み付けたけれど、ころちゃんは私に尻尾を振ってくれるんだけど、全然懲りていない!


「でも、何でしたら治療した方が。子犬とは言え噛まれたのならば医者に診てもらった方が良いのではないですか?」

私が心配して言うと

「いえ、歯形がついたくらいですから問題ないですよ。あ、でも、カーラ様が治療して頂けるのならば治りが早いかも」

喜んでフェルディナントは言ってくれるんだけど……

「でも、ここには治療の薬とかないですし、一端王宮に帰りましょうか」

私がそう言うと

「それには及びますまい。カーラ様が患部にキスして頂けたらそれだけで直りそうなんですけど」

「えっ、キスですか?」

私はフェルディナントの言葉に真っ赤になって固まってしまった。

「わんわん!」

ころちゃんが怒ってフェルディナントに吠えるんだけど、どうしよう?

私が途方に暮れると

「冗談ですよ。カーラ様。言ってみただけです」

フェルディナントは笑ってくれた。

「冗談なんですね」

私はほっとして言うと

「本気だって言ったらキスしてくれますか」

「えっ?」

その言葉にまた私が固まると


「いや、本当に冗談ですから。それに、カーラ様の愛犬の歯形は私の勲章ですからね」

フェルディナントは笑って訳のわからないことを言ってくれたが、よく見ると歯形はついているが血も出ていないし、問題ないみたいだった。

「では、カーラ様、参りましょうか?」

フェルディナントが自分の用意した馬車の前に案内してくれた。紋章も何も入っていないお忍び用の馬車みたいだった。

「わんわん」

「ころちゃん静かに!」

叫んでいるころちゃんに注意するところちゃんが静かになってくれた。

馬車に乗せてもらう時に、ころちゃんとフェルディナントの目が合ってお互いを睨み付けているんだけど。

この二人というか、一匹と一人うまくやっていけるんだろうか?

今日の事が私はとても心配になってきたのだった。



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