私はお父様が出来ればフェルディナント様を連れて王都を案内するようにと、今までと180度逆の指示を受けて戸惑っていた。
今まではアレイダがフェルディナント様と婚約するのだから、できるだけフェルディナントには近づくなとお父様からは散々言われていたのだ。それがどうして180度変わるんだろう?
「姫様。フエルディナント様はサウス帝国の第四王子殿下です。この国の宰相の娘であるアレイダと婚約を結ぶことが出来るのならば、王位継承権第一位の王女殿下である姫様と婚約を結ぶことも出来るはずです。
というか、普通は王子殿下の相手は姫様であるべきです。姫様と婚約すれば王配としてこの国の国王陛下と変わらない実権を握れるのですから」
サーヤが説明してくれた。
「それは判るけれど、今まで言われていたことと真逆のことなのよ」
「陛下も今までは宰相に気を使われていたのです。しかし、今回、破落戸どもの証言や証拠から宰相が姫様を攫って自分の息子の物にしようとしたことは明らかです。寛容な陛下も目を覚まされたのではないですか?」
「それは確かにそうかもしれないけれど……」
「それに、サウス帝国としてもノース帝国とのつながりの深いアレイダよりも関係のない姫様と婚約した方が自国のうまみが大きいと思います」
サーヤは更に言ってくれた。
「確かにそれは言えるけれど」
サウス帝国は今までノース帝国との繋がりが大きかったこのモルガン王国の王配となればノース帝国に成り代わってこの王国で力は大きくなるだろう。交通の要衝に立つこのモルガン帝国での発言力の強化は通商関係でサウス帝国に大きな恩恵をもたらす可能性もあった。
「それにフェルディナント様にとっても配偶者を選ぶならば、わがままなアレイダよりも、心優しくて控えめな姫様の方が良いと思われたのだと思いますよ」
「そうかしら。アレイダの方が胸も豊満だし、殿方も好まれるのではないかと思うけれど」
私はサーヤの言葉を否定したけれど、
「私が殿下なら絶対にアレイダではなくて姫様を選びますね」
サーヤはそう言ってくれた。しかし、騎士様命の私にとってそれはとても迷惑な事何だけど。
でも、サーヤにとってもどこの馬の骨か判らない白い騎士様よりも、サウス帝国の皇子様であるフェルディナント様と私がうまくいく方が嬉しいみたいだった。
「どうしよう?」
私は途方に暮れたのだ。
今まで私はフェルディナント様からできる限り離れようとしていた。そうするようにお父様も周りも望んでいたからだ。でも、今度は反対にできるだけ親しくなれって言うんだけど、私には私を助けてくれた白い騎士様がいるのだ。出会う前なら、フエルディナント様でも良いと我慢できたかもしれないが、今は私の心の仲には白い騎士様しかいない。
あの倒れそうになった私を抱きしめてくれた力強い腕、私を暴漢から守ってくれた剣術、終わった後で名も名乗らず去って行ったあの慎ましさ。どれをとっても私の好みにぴったりの相手だった。
本来、私はこの国の王位継承者で、基本的に私の相手はこの国に利する者でなければならない。
その観点から言うとサウス帝国の皇子であるフェルディナントは確かにベストな選択かもしれない。
宰相がノース帝国をバックに無茶を言ってきても、こちらはサウス帝国の力を借りることが出来るのだから。ノース帝国とサウス帝国は力は拮抗している。フェルディナントと婚約すれば今まで圧倒的に不利だった宰相との力関係も均衡が保てることになるかもしれない。
お父様としてもそれは願ったり叶ったりだろう。
私は白い騎士様を諦めて、フエルディナントと婚約した方が良いんだろうか?
「はああああ」
私はベットの中で盛大にため息をついた。
「クウーーーー」
ベッドの中でため息をつく私の顔をころちゃんがペロペロ舐めてくれた。
「ころちゃん、どうしよう?」
私はころちゃんに悩みを打ち明けた。
ころちゃんは一生懸命に私の話を聞いてくれたように見えた。
「ウーーーー」
そして、私の悩みを聞いたころちゃんは憤ってくれたのだ。それは、お父様に対してかもしれないし、横から急に出てきたフェルディナントに対してかも知れなかった。
「わんわん」
そして、私に吠えてくれた。
私はそれが私に対するエールを送ってくれたように聞こえたのだ。
「そうよね。まだ諦めるには早いわよね」
私はころちゃんに頷いたのだ。
「ころちゃん。私は白い騎士様にまた会えるかしら?」
「わんわん」
ころちゃんが頷いてくれた。
「ありがとうころちゃん。でも、白い騎士様とお会いしても、白い騎士様は私の事なんてなんとも思っていないわよね」
「くうううう」
私が諦めて言うところちゃんははっきりと首を振ってくれたのだ。
「えっ、私にもまだ可能性があるの?」
「わん!」
ころちゃんが頷いてくれたのだンだけど本当だろうか?
まあ、でも、それよりも前にフェルディナント様を王都に案内する件だ。それはとても憂鬱だった。
「どうしよう?」
私は胸の中のころちゃんを見つめた。
「わん」
ころちゃんが吠えてくれた。それは私に任してくれといつているように聞こえたのだ。
「ころちゃんに任せるって、ひょっとしてころちゃんは私についてきてくれるの?」
私が聞くと
「わんわん」
ころちゃんは尻尾を振って頷いてくれたのだ。
そうだ、ころちゃんと一緒にいれば良いかもしれない。
まあ、ないと思うけれど、ころちゃんがいればフェルディナントも積極的にアプローチはしづらいはずだ。何かあってもころちゃんが助けてくれるはずだ。
私はフェルディナントとの王都の案内にころちゃんを連れて行くことにしたのだ。