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第26話 ころちゃん視点 カーラが扉を開けて人攫いのアジトに自分から入ってきました

その日の夜に、カーラが翌日午後に孤児院を訪問するという連絡が入った。

王宮内にも宰相のスパイがいるようだ。


今回は王宮も警戒していて、なんとカーラの護衛の騎士も10名もいるそうだ。


「どうするんだ、ベイル? 騎士の数がこちらの数と同じじゃないか? まともにやったらこちらも結構な被害が出るぞ」

ブルーノが危機感を持って聞いてきた。


「そこは少し工夫がいるだろう」

ベイルはそう言うと、ブルーノらに説明を始めた。


カーラ達が孤児院から帰る途中で、暴れ馬を王女の隊列に突入させて、騎士がそちらに気を取られている間に、カーラを攫うというのだ。


「そのようにうまくいくのか?」

疑い深そうにブルーノが聞いた。


ベイルによると基本は王女の一行は騎士3人が先行して歩き、そして、王女と侍女、その後ろに7人が続くというのだ。


その王女に向けて暴れ馬を突入させて騎士達が必死に馬を止めようとしている間に、別の馬車を王女の傍につけて王女を攫うというのだ。


「それは確かに王女の隊列は混乱するとは思うが、それでうまく王女を攫えるのか?」

「まあ、なんとかなるだろう。少なくとも多くの騎士が暴れ馬を押さえるのに精一杯なのだ。俺達が現れたところで相手に出来るのは3人くらいだ。暴れ馬の手配は別の者がやってくれている。どうしようもないときは、騎士達の中にいるスパイがこちらに寝返ってくれる」

「騎士の中にもスパイを入れているのか」

「そうだ。トマスという騎士が宰相が送り込んだスパイだ。そいつが、うまく立ち回ってくれるさ」

ベイルは楽観して言ってくれた。

「俺達はじゃあどうすればいいんだ?」

「丁度この長屋の傍の交差点で反対側から馬が暴れ出して行列に突入する。それを合図に扉を開けて一斉に騎士達に斬りかかるんだ。そこにやってきた馬車に王女を放り込めば良いだろう」

「なるほど」

「それまでは扉の中で待っていれば良いだろう」

「判った。まあ、なんとかなるだろう」

ベイルの言葉にトマスは頷いた。


なんと、騎士の中にまで宰相のスパイがいるそうだ。

俺は暗澹たる思いになった。

皆の話すのを聞くところによると、カーラの味方の国王派はあまり多くはいないみたいだ。貴族達の多くは日和見派だ。

強い方につくみたいだ。

まあ、宰相派よりはましだが……

まだ宰相派は少ないが、これでカーラが宰相の息子の嫁にされれば宰相派はドンドン増えるだろう。

何しろこの国の跡継ぎはカーラなのだから。

カーラと宰相の子供がこの国を継ぐのだ。

宰相の力が強まるのは当然だろう。

それはなんとしても防がねばならなかった。というか、カーラを攫わせるつもりは毛頭なかったが……

今回はいかにこのカーラ誘拐を防ぐか救うかだ。


今後も何があるかは判らないから、また、この破落戸達の中にスパイとして潜入する可能性もあった。出来れば俺が人間に戻るところは見られたくない。

できる限り変身するのは見えないところでやろうと俺は思った。


まあ、当然ながら、カーラの安全が第一ではある。最悪は見られても仕方がないが、出来たら見られないようにした方が良いだろう。そして、戻るにしても直前が良いだろう。

どのタイミングで戻るかだ。

俺は俺なりに必死に考えたのだ。



翌日、早朝に俺はベイルとブルーのらに連れられて長屋に戻った。


そこで再度打ち合わせが行われた。

騎士の裏切り者のトマスは青い髪の色に赤い目をしているそうだ。

まあ、俺が最後に斬り捨てれば良いだろう。そうか、騎士団に突き出すかだ。


破落戸達は3人が馬車に乗って行くということで、ブルーノがその馬車を指揮することになった。


ベイルを含めて残りの7人はここに待機することになる。

馬車は長屋の裏に止めていて、王女が孤児院から出る頃に動き出して、ぐるっと回ってこちらとは反対側に止めておくそうだ。

俺は奥のかまどの傍に縄でくくりつけられることになった。

最悪入り口の所からは見えずに隠れて変身出来るスペースはある。直前に誰も見えないように変身すれば良いだろう。


俺は破落戸達が表に出たところで変身して、後ろから破落戸達に襲いかかってこいつらを峰打ちにするつもりだった。

そして、カーラを助ける。

うまくいけば馬車の3人も峰打ちにして拘束させるつもりだ。

その上で、裏切り者の騎士を捕まえれば良いだろう。


「王女が孤児院から帰るみたいだ」

偵察に行っていた破落戸が帰ってきた。

既にブルーノらは馬車で出ていった。

ここには6人しかいない。

1人は屋根に隠れて見ているのだ。

「兄貴、王女がこちらに曲がって来ました」

「何だと?」

「しっ」

破落戸どもは驚いたが、手に剣を構えた。


「お留守じゃ無いの?」

カーラの声がすぐ傍で聞こえた。

なぜここに来る?

俺は驚いた。


「わんわんわんわん」

ここから離れろ。

俺は剣を構えるベイル達を見て、思わず叫んでいたのだ。


「しっ」

ベイルが俺を見て合図をするが俺は鳴き止まなかった。


それが失敗だった。


「こ、ころちゃん!」

カーラの声とともに慌てて長屋の扉に駆け寄る音がした。


「姫様、いけません」

サーヤの声がして、扉が開けられたのだ。

そこには久しぶりにお目にかかるカーラの驚いた顔が合った。



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