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第25話 ころちゃん視点 王女を傷物にする計画は破落戸どもが断りました

俺は長屋で首輪をつけて飼われていた。


逃げようにも中々その機会が無かったのだ。


まあ、寝ているときに変身して首輪を引きちぎっても良かったのだが、俺が子犬だと破落戸達に知られるのを恐れたのだ。

それにカーラを襲う実働部隊がこいつらなんだから、襲う直前に人間に戻れば良いだろうと考えていた。

下手にその前に逃げ出して、肝心のカーラの危機にその場にいないなんて馬鹿なことにはなりたくなかった。


でも、中々襲撃の時が定まらなかった。

この長屋に来ればすぐに襲撃するのかと俺はその時のために身構えていたのだが、どうやらそれは違ったらしい。


「おい、ベイル、いつまでこんな長屋で閉塞しているんだ」

ブルーノが翌日には飽きてきたらしい。


「まあ、もう少し待て。中々王女が王宮を出てこないらしい」

「しかし、こんな狭い長屋で10人も過ごすのは大変だぞ」

確かにそうだ。今でも所狭しと男達が座っている。

本当にむさ苦しかった。


「仕方ないだろう。もう少しの辛抱だ、まあ、あんまり外をうろうろするのもなんだが、とりあえず、夜は半分は屋敷に戻すか」

「そうしてくれ。ここでは夜も満足に寝れないからな」

昨日は10人がなんとか寝たが、3人は土間に降りて寝るしか無かったのだ。

俺は犬だから土間で寝て何も問題はなかったが、男達はやれ寝違えただとか、夜中に蹴飛ばされただとか、朝起きてブツブツ言っていた。


その夜は俺はベイルに連れられて5人の男と一緒に屋敷に帰った。



屋敷に帰ると偉そうな男が早速やってきた。


「ベイル。困ったことになった」

「どうしたんです、侍従さん?」

頭をかいている侍従にベイルが聞いていた。


「実はお嬢様が王女殿下の行いに切れられてだな」

「お嬢様がカーラ殿下に怒っているのはいつものことではないですか」

侍従は困った顔をしていた。

その年上の侍従にベイルが敬語で話していて俺はその事に驚いた。


「そうなのだがな、何でも、お嬢様が婚約しようとしているフェルディナント殿下に王女殿下が懸想されたらしい」

「女の戦いですか? でも、気の強いお嬢様が負けるわけはないでしょう」

ベイルが呆れて言っていた。そうだ。あの娘がカーラに遠慮なんてするわけはない。

「それがだな。フェルディナント殿下の方が王女殿下に興味があるようなのだ」

「まあ、お嬢様は中々気がお強いですからな。男としてはおとなしい王女殿下の方を好きになるのもよく判りますぜ」

ベイルが頷くと

「ベイル、めったなことを申すでないわ。我々はそのお嬢様に仕えているのだからな」

侍従が注意してきた。

「まあ、それはそうですが……で、何をしろと言われたんです?」

ベイルが侍従をみた。


「お嬢様は怒って言い出すと中々その案を中々引っ込めようとはされんのだ」

侍従は頭を抱えていた。

「何をおっしゃっているので?」

「王女殿下をその方らで襲って散々に慰み者にしてからベンヤミン様の所に連れてこいとおっしゃるのだ」

俺はその侍従の言葉に瞬時に殺気を覚えた。

破落戸にカーラを襲わせるなど、絶対に許せないことだ。そんなことをしようものなら、俺は全員をぶった斬らずにはいられないだろう。

尤もそうする前に全員を皆殺しにしない自信はなかったが……


「いや、侍従さん。それをベンヤミン様は許されるのですか?」

驚いてベイルは聞いていた。

「王女を慰み者にした全員を処刑せよとか言われるのはご免ですぜ」

「そこなのだ。閣下も最初はお嬢様のおっしゃるようにそうおっしゃっていらっしゃっていたが、いつ変わるとも限らん」

「でしょう。ここまで連れてくるのは構いませんが、全国に指名手配されるのだけは勘弁して下さいよ」

「そうじゃな」

「それに、もし、そのフェルディナント様とか言う御仁がその事について怒りだしたらサウス帝国からも指名手配されることになるんです。さすがにそんなことは承服は出来ませんぜ」

ベイルは自分の意見を主張をしてくれた。

思ったよりも理知的で俺は助かった。

さすがにこいつを問答無用で斬り殺すというのも、俺は嫌だった。少し、世話されて情が移ってきたらしい。


「しかし、ベイル、儂も命令されたことは断るのも難しいのだ」

侍従が顔をしかめて言うが、

「侍従さん、しかし、王女殿下を破落戸共に襲わせたのが、閣下だとばれればまずいでしょう。それよりは婚約を断られて思いあまったベンヤミン様が攫われたという方が、まだ、同情の余地はございますよ。そのフェルディナント様も納得されやすいのではありませんか?」

「うーん、そうじゃな」

侍従が考え込んだ。


「サウス帝国と事は交えたくはないでしょう?」

「判った儂から再度申し上げてみる」

いくらノース帝国がついているとはいえ、サウス帝国の皇子の機嫌を損ねるのはまずいと思ったらしい。

侍従はそう言うと、屋敷に帰っていった。


「ベイル。よく断ってくれた。俺はこの国にいられたくはなりたくない」

「しかし、俺達が、王女を攫うのは同じだぞ」

「同じ攫うにしても婚約を断られた宰相の息子が横恋慕して王女を攫う手伝いをするだけだ。後は宰相の息子の責任でやってもらえば良いだろう。俺達が王女殿下を攫って傷物になんてした日には、下手したらカエル坊ちゃまに殺されかねないからな。トカゲの尻尾切りで俺達だけが罪をかぶらされたら、俺達は始末されるしかないからな」

ブルーノは首を振って言い訳した。

破落戸どももちゃんと考えて生きているんだ。

俺は感心してそれを聞いていた。


カーラが攫われたときにはこいつらを斬り捨てようと思っていたが、まあ、峰打ちでも良いかと俺は心を切り替えていた。


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