私はころちゃんを探しに行くのに、どうしようか考えた。
普通に外に探しに行くのを申請したのでは、この前と同じで絶対に却下される。
でも、一応その犬がちゃんところちゃんかどうか確認したいのだ。
そして、確認したら世話してくれた人にちゃんとお礼が言いたい。
たとえ相手がどんな人でも私の大切なころちゃんを世話してくれた人だ。犬を飼う人に悪い人はいないはずだ。
「姫様。姫様はお城しか知らないからそんな風におっしゃるのです。基本的にお城にいる人間は宰相一族を除けばいい人しかいませんから、姫様が間違われるのも仕方がありませんが、世の中には宰相一族のような者もいるのです。その男が、アレイダ様みたいな性格だったらどうするのですか?」
サーヤにそう言われて私は躊躇した。
確かにそんな性格だったら嫌だ。
でも、アレイダは犬嫌いな宰相婦人の娘なのだ。性格の悪い宰相夫妻は絶対に犬は飼わないだろうから、娘のアレイダも飼わないはずだ。だから私の言うことは正しいはずなのだ。
私がそう主張するとサーヤは肩をすくめてくれた。
これはお手上げだと言ってくれるんだけど、絶対に私は正しいはずだ。
フェナも私がそう言うと
「ええええ! あの男がいい人ですか? まあ、1万倍よく考えたらそうかもしれませんけれど」
なんかとても否定的なんだけど……
でも、人に良くしてもらったら、お礼を言うのは当たり前だ。そうするように亡くなったお母様からも言われていたし、私はお礼をしなければならないと思っていた。
でも、その前にどうやって王宮を出るかだ。
「それはカーラ様。孤児院に行くついでに寄るのが一番良いのではありませんか」
フェナの言うとおりだ。それもできる限り早く行かねばなるまい。私はサーヤに頼むことにした。
「私が行くのですか?」
サーヤは嫌そうに言ってくれたが、
「お願い、サーヤ。サーヤだけが頼みの綱なの」
私が拝むと、
「仕方が無いですね」
と渋々父のところに行ってくれたのだ。
そして、サーヤは物の見事に父の許可を取ってきてくれたのだ。
なんでも、「陛下、姫様を部屋に閉じ込めるだけでは思い詰められる可能性があります。思い詰めて何かされるよりも、少しは気分転換に孤児院にでも、慰問に行っていただいた方が良いのではありませんか?」
と言ってくれたのだ。
父も私を部屋に閉じ込めていると言う弱みもあったみたいで、あっさりと許可してくれたそうだ。
それも護衛を10名もつけてくれた。
翌日、お昼を食べてすぐに私たちは孤児院に向かった。
侍女はサーヤとフェナ。それに護衛の騎士が10名という大所帯だった。
私たちは裏門からいつものように孤児院に向かった。
その途中でフェナが声をかけてくれた。
この大通りの角から三軒目の北側の家ですと。
私はチラリと見たが、長屋はどの家も同じように見えてよく判らなかった。
まあ、良い、帰り際に寄れば良いのだから。
私達は先に孤児院に行ったのだ。
今日は騎士が多いので、孤児院の騎士志望の子供達は大喜びで騎士達に稽古をつけてもらっていた。
私は女の子達に絵本を読んであげたのだ。
そして、孤児院で2時間くらい慰問をした後で私たちは孤児院を後にした。
今度はフェナを先頭に歩く。
そして、先程の大通りの角を曲がった。
「こちらです」
フェナの案内で長屋の前に立った。
でも、中から物音もしない。
ころちゃんの声も聞こえるかと思ったけれど、聞こえなかった。
「お留守じゃ無いの?」
私はがっかりした。
「かもしれませんわね」
サーヤが頷いてくれたときだ。
「わんわんわんわん」
家の中から犬の鳴き声がしたのだ。
「こ、ころちゃん!」
私はその声に慌てて長屋の扉に駆け寄ったのだ。
「姫様、いけません」
サーヤが止めようとしたが、私はそのまま扉を思い切って開けていた。
「きゃ!」
私は思わず悲鳴を上げていた。
開けたところには男の人たちがたくさん立っていたのだ。
私はびっくりした。
この人達、何しているんだろう?
「な、なにを叫んでくれているんだ。人の家の扉をいきなり開けてきたのはお嬢さんだぜ」
男が文句を言ってくれた。
確かにその通りだった。
でも、私はそれどころでは無かった。
「ころちゃん!」
そう、奥には夢にまで見たころちゃんが紐に繋がれているのを私は見てしまったのだった。
そして、そのまま、入っていこうとして、男達に阻まれたのだった。
「ちょっとお嬢ちゃん。何を人の家に入ろうとしてくれるんだ」
「す、すみません。そのころちゃんに用があるんです」
「わんわん!」
ころちゃんは私を見て必死に吠えてくれていた。
私は強引に更に中に入ろうとして、男達に捕まってしまった。
「ベイル。これはとんだ火に入る夏の虫じゃ無いか?」
男の一人が言ってくれた。
私を捕まえた男は少し考えたが……
「ちょっと離して下さい」
私がその男に言うと、
「貴方たち、お嬢様に何をするのです」
サーヤの声が聞こえる。
「そうだな」
厳つい男はそう言うといきなり扉を閉めてくれたのだ。
「おい、ちょっと待て」
「何をするんだ!」
ドンドン扉が叩かれる。
私は男に抱きかかえられていた。
「家に入ったのは謝ります。離して下さい」
私が改めて言うと、
「お姫様。それは無理だ。俺たちはお姫様をあるところに連れてこいって言われているんだ。それで出ていこうとしたらお姫様が入ってきたんだ」
「何ですって?」
私は叫び声を上げていた。
「まさか、お姫様が自ら捕るためにここに来てくれるなんて 思ってもいなかったぜ」
男達が笑ってくれたのだ。
私は誰かは知らないが、誘拐犯のアジトに自ら入ってしまったことをこの時に初めて理解して蒼白になった。