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第20話 ころちゃん視点 破落戸どもから逃げ出せませんでした

俺はその夜に必死に首輪を取ろうとしたが、俺の力ではびくともしなかった。

俺は必死に首輪を引っ張ってみたが、首がしまっただけだった。首輪も紐もびくともしなかった。

首輪は革製で引っ張ると首が締め付けられた。

抜けようと逆に引っ張っても首輪から首は抜けられなかった。

今度は紐を結びつけられている所を取ろうとしたのだが、紐は大きな机に結びつけられていて、机自体がびくともしなかった。


「おい、犬ころ、暴れているんじゃない」

ベイルが起き上がって注意してきた。

「ベイル、可哀相だから離してやったらどうだ」

ブルーノがとても良いことを言ってくれた。

私は必死に首で頷いたのだが、ベイルは腕組みして仁王立ちしたままだ。


「まあ、首輪はしておいた方が良いだろう。いずれこの犬も大きくなるんだから」

ベイルは俺を離してくれそうに無かった。

「仕方が無い。今日も一緒に寝るか」

そう言ってベイルは俺を抱きしめてくれたのだ。

「キャンキャン!」

俺は男と抱き合う趣味は無い!

と叫んだのだが、犬語をベイルが判ってくれるはずはなかった。俺は太い腕に抱きつかれて、布団の中に入れられたのだ。無精ひげが当たって痛い。


「クィーン!」

カーラ! 助けて、俺は叫んだのだ。


その夜は最悪だった。

男に抱きしめられて寝るなんて本当に嫌だ。

早くカーラに知らせなくてはいけないのに、こんな男に抱かれて寝ているしかないなんて……

でも、この力強い男の腕の中ではどうしようもなかった。

俺は逃げ出せなかった。


翌朝、破落戸どもは二人の男を借りた住まいに行かせたのだ。

俺はその男達について行きたいと

「ワンワン」

吠えたのだが、

「おう、お前も外に行きたいのか」

「でも、連れて行ってやるわけにはいかないからな」

二人の男達は俺様の頭を撫でて出て行った。


なんでも、襲撃の予定日は2日後だそうだ。

なんとしてもそれまでにこの地を脱出しなければ。

俺は焦っていた。


でも、首輪は頑丈で紐もなかなか千切れなかった。

仕方なしに俺は紐を噛んでみた。


「おい、犬ころ、何しているんだ」

ベイルが首輪の紐をみて驚いた。

歯形を付けて徐々にかみ切ろうとしたのだ。

どうやらそれをベイルに見つかったみたいだ。

俺は青くなった。


「俺も首輪から離してやりたいのはやまやまなんだがな」

ベイルはそう言ってくれた。

「ワンワン」

そこで離してくれと俺は訴えたが、ベイルは無視してくれたのだ。


「おい、誰か鎖の紐をもらってきてくれ」

「へい」

弟分が出て行ったんだけど、ちょっと待て! さすがに鎖ではかみ切れないぞ。

俺は焦った。

最悪ここで獣人化を解いて人間に戻るかとも思ったが、それはギリギリまで待った方が良いだろう。

俺が獣人だというのは知られない方が良い。

俺は我慢することにした。


弟分が鎖の紐を持ってきてくれた。


ベイルは俺にそれを付けたのだ。


「クイーーーーン」

俺は絶望して鳴いた。


これでますます逃げ出しにくくなった。

その夜も俺はベイルに抱かれて最悪だった。



翌日この小屋において行かれたら、破落戸どももほとんどいなくなるはずだ。そうすれば誰もみていないときに人間に戻って逃げだそうと俺は思った。

もう女人の肌に触れずに3日以上経っているから元に戻りたいと思うときに戻れるはずだ。

俺はそう期待していた。


「ベイル、犬ころはどうするんだ?」

ブルーノが聞いてくれた。

「そうだな、番犬として連れて行くか」

何やら雲行きが怪しくなってきた。


俺はそのまま、ベイル達と一緒に隠れ家に行くことになったのだ。

みんなバラバラで行く中で、俺はベイルに鎖をひかれてとぼとぼと歩いていた。


「あれ、ころちゃんじゃないの!」

女の声がした。

俺はその方向を見るとなんと王宮の侍女がいたのだ。


「ワンワン」

俺は吠えた。

王女のカーラが危ないから気を付けろって叫んだのだ。

でも、そんなのは通用するわけはない。


「何だ、おめえは」

侍女をみたブルーノが凄んでくれた。

「えっ」

侍女はびっくりしたみたいだ。

このくそおやじ、何を言いやがる。

俺は思わずブルーノに怒りのあまり噛みつきそうになった。


「おい、お嬢さんになんてことを言うんだ」

ベイルがブルーノの頭を叩いてくれた。

「痛いな!」

「目立つな!」

ベイルが注意する。


「そらまあそうだけど」

ブルーノが頭を押さえて文句を言う。

「お嬢さん。俺の犬に何か用かい?」

ベイルが精一杯愛想良く言ったつもりだと思うのだが、見た目はお前の方が怖いぞ!


「ヒィィィィ」

侍女は更におびえてしまった。

「いえ、知っている犬に似ていたものですから」

「ワンワン」

俺を連れて帰ってくれ!

俺は必死に吠えたのに、

「すみません。違ったみたいです」

侍女は後ずさったのだ。

「おい、お嬢さん」

「すみません。間違いでした」

ベイルから逃げるように踵を返すと侍女は必死に逃げ出した。


「おめえの方が怖いってよ」

ブルーノが面白がつて言うが、

「貴様が最初に怖がらせたからだ」

ベイルはそう言うとブルーノを思いっきり叩いていた。


「何しやがる!」

ブルーノが怒ったが、

「今の王宮の侍女だったぞ」

ベイルが怒って言った。

「そうだったか?」

ブルーノは知らないようだ。

「まあ、俺らのことは判らないと思うが、できる限り事を起こすまでは目立たないようにしろよ!」

ベイルはブルーノにそう言うと、俺を連れて隠れ家に入って行っていったのだ。



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