私はころちゃんをそれからも探したが、ころちゃんの手がかりはなかなか出てこなかった。
騎士達も侍女達も一生懸命に探してくれたが、見つからなかったのだ。
後は王宮内で誰かに捕まったか、そうか誰かに連れて行かれたとしか考えられなかった。
私は毎日起きた時にころちゃんが帰ってきているのでは無いかと思って部屋の中を探すのだが、いつもいないと判ってがっかりしたするのだった。
外回りする騎士達や使用人達にもいろいろ探してもらったのだったが、なかなか目撃情報が無かった。
そんな時だ。下町の見回りから帰ってきた騎士が夜中に南の方にとぼとぼ歩いていた白い子犬を見たと見回りの兵士が言っていたという情報を持ってきてくれたのだ。
「その子犬はどちらの方に行ったのかしら」
私は慌てて聞くと、
「さあ、兵士もあんな小さい犬がこんな時間にどこに行くのだろうかと不思議に思ったそうですが、ちょうど酔っ払いの世話をしていたそうで、その間に子犬はいなくなったと申していました」
騎士の言葉を聞いて私はがっかりした。
でも、全く情報が無かった中で一抹の情報が得られたのだ。私はその騎士にお礼を言って、できる限りの情報をまた集めてくれるようにお願いした。
でも、本当にころちゃんは王宮の外に出たんだろうか?
あんな子犬が王宮の外に出るなんて私には信じられなかった。
そして、庭でころちゃんを探している時だ。
「まあ、王女殿下とあろう方が何をしていらっしゃるのですか」
私は声をかけられて顔を上げた。
そこにはまたゴテゴテとファッションお化けのような格好をしたアレイダが立っていたのだ。
何でこの女は用も無いのに王宮に来るのだろう。
私は本当に会いたくなかった。
「少し、捜し物をしておりますの」
私が誤魔化すと、
「まあ、まだあの子犬をお探しですの? あまりに食事か合わなくて逃げ出したのではありませんか。最近の犬は畜生にもかかわらず食事も贅沢になってきているという話ですわよ」
いかにも周りから聞いてきたかのようにアレイダは言ってくれたが、母親が犬嫌いで、家でも飼っていないはずなのに、どこでそんな情報を仕入れられるというのだろう?
私は信じられなかったし、王宮の食事が貧しいわけは無いではないか!
「そのようなことは無いと存じますわ」
「さようでございますか。まあ、殿下が毎日そんな地味な格好をしていらっしゃるから、犬の餌も満足にあげられないのかと存じましたわ」
アレイダは何か言ってくれた。
私の侍女のサーヤが歯を食いしばって耐えているのが見えた。私もころちゃんを探して時には這いつくばったりするので、汚れても良い格好をしているのだ。ファッションお化けに言われたくない。
「そういえば、殿下が私のお兄様を袖にしたと聞きましたけど、本当ですの」
「別に袖にはしておりませんわ。まだ、そのようなことを考えるのは早いと思っただけで」
アレイダの尖った声に私は答えた。
別にアレイダの兄に含むところは無いが……いや、ある。
ポケットに蛙を持つのだけはやめてほしい。
でも、アレイダは平気なんだろうか?
私が妹だったら絶対に兄にはそんな癖はやめさせる。
でも、アレイダは平気なのかもしれない。
だから、他人に心ないことを平然と言えるのかもしれない。
私は思わず考えてしまった。
「まあ、殿下がそう思われている間に、世の中の有望な男性はどんどん婚約者を見つけていくのですわ。
殿下もご自身の美貌にかこつけていろいろとえり好みしていらっしゃると、気づいたら相手がいなくなってしまっても知りませんわよ。
私のお兄様は我が家を継ぐのは確実ですのに、お兄様以上の男が殿下の前に現れるとはなかなか思えませんけれど」
アレイダは嫌みを言って笑ってくれたのだ。
私の後ろでサーヤや騎士達が我慢しているのが判ったので、私は早急にアレイダから離れようとした。
「そういえばお兄様が館で白い子犬に襲われたと申しておりましたけれど、まさか、殿下の犬ではありませんわよね」
アレイダが私を見て言い出した。
「白い子犬が、現れたのですか」
私は驚いてアレイダに迫った。
「ええ、私もよくは知りませんけれど、お兄様の鼻にかみついたそうです」
アレイダは私の勢いに驚いて思わず少し下がってくれた。
なんか随分元気な子犬みたいだ。
「でも、宰相閣下のお家はここから馬車でも30分くらいかかりますわよね」
「まあ、それは」
「姫様。いくらころちゃんでもその距離を歩いて行くのは無理でございますよ」
「そうよね」
私は横から言ってきたサーヤの言葉に頷かざるを得なかった。
そして、アレイダらと別れた後だ。
私は息せき切って部屋に入ってきたメイドのフェナを見たのだ。
「どうしたのです、フェナ。そんなに急いで」
サーヤがたしなめた。
「申し訳ありません。姫様。ころちゃんとおぼしき子犬を見ました」
「何ですって! どこにいたの?」
私は思わず聞いていた。
城下に買い物に出たフェナは孤児院のそばで、白い子犬を見たのだそうだ。
すぐに声をかけようとしたが、その子犬は首輪をして、その紐を厳つい男が握っていたいうのだ。
どうしよう。ころちゃんはその厳つい男に捕まってしまったのだろうか。
「その男はどこの誰でしたの?」
「それが、よく判らなくて。とりあえず、姫様に報告しようと慌てて帰ってきたのです」
「ありがとう。フェナ。また、判ったことがあれば教えてね」
私はそうお礼を言うとフェナを下がらせた。
とりあえず、今度孤児院に行くついでにいろいろ調べてみようと私は思ったのだった。