「早速、焼き肉にしようぜ」
ブルーノの奴が言ってくれた。
俺は流石にやばいと思った。
いくら逃げようとしてもガシッとベイルに掴まれているのだ。コイツラなら本当に俺を殺して食べかねない!
「キャィーーーーン」
俺は泣くしか出来なかった。
ベイルは震えている俺を見ると
「何を言っている。ブルーノ。こんな子犬食っても肉なんてほとんどないぞ」
俺はこくこく頷いた。
俺自信そんなことしか出来ない自分が本当に恥ずかしかった。
獣化がこんな小さな子犬じゃなくて、ドラゴンやサラマンダーなら、いや、せめて大人の犬ならこんな奴らから逃げ出してやるのに……子犬では尻尾を振るしか出来なかった。俺は俺をこんな姿にしてくれた神を呪ったのだ。
人間だったらこんな破落戸ども一刀両断してやったのに!
なのに、子犬では震えることしか出来なかった。
「そうか、じゃあ一刀のもと切り捨てるか」
ブルーノが刀に手を伸ばしてくれた。
俺は目を見開いた。
「バカいえ。ガマガエル坊っちゃんじゃないんだぞ。お前こんな子犬を斬り捨ててみろ。娼館の女どもになんて言われるか判ったものじゃないぞ」
「うーん、あいつらは野蛮! とか言いそうだな」
ブルーノの一言に惚れは少しほっとした。
すぐに殺されることはないみたいだ。
これなら隙を見て逃げ出せばいいと思ったのだ。
「じゃあどうするんだ? 兵士たちに差し出すか」
「そんな訳無いだろう。それこそ殺されてしまうぞ。それを誰かが娼館のミアちゃんに、ブルーノが兵士に可愛い子犬を差し出して殺させていたぞ、とか言ってみろ。あっという間にブルーノの人気も地に落ちるぞ」
「いや、それはよくないな」
こいつらは余程単細胞らしかった。娼館の女どもにもてるかどうかで価値観が決まるらしい。
まあ、そう言うことなら俺は殺されることもないだろう。
俺は安心しきったのだ。
「じゃあその犬はどうするんだ?」
「そうだな。俺がとりあえず飼い主になるか」
まあ、この中の兄貴分のベイルなら、俺が虐められることはないだろう。と俺が何気に思った時だ。
「なあ、犬ころ!」
俺はベイルに抱きしめられたのだ。
「キャィーーーーン」
俺は悲鳴をあげた。
何が嬉しくて男に抱きしめられないといけないのだ。
鳥肌が立った。
コリーに抱きしめられた時はカーラに悪いと思ったが、男は論外だった。コリーの方が百倍ましだ。
俺はコリーから逃げ出したことを後悔した。
「おお、そんなに嬉しいか」
何をトチ狂ったのかベイルは嬉しそうに俺に頬ずりしてくれた。
ギャーーーー止めてくれ。男とこんな事はやりたくない!
俺はあがいたが、俺の微力な力ではどうしようもなかった。
「おい、なんかその犬ころ泣き叫んでいないか」
ブルーノが言ってくれた。
「何を言う。喜んでいるんだよ」
そう言うとベイルは俺の体をゴシゴシしてくれた。
「そうか、どう見ても嫌がっているように見えるが」
「キャィーーーーン」
俺はブルーノの言葉に頷いたのに、
「お前の気の所為だ」
ベイルは俺を抱いてもふもふすることを止めてくれなかった。
女だったら、許せたのに、男なんて本当に最悪だった!
俺を離してくれた時は俺はもう死にそうになっていた。
何が嬉しくて男のやつに抱きしめられないといけなのだ。
これも俺が子犬だからだ。本当に神は最悪な試練を俺に与えてくれた。
ただ、コリーの所にいた時よりは飯は豪勢になった。
それに量もたくさんベイルは与えてくれた。
「おい、ブルーノ、もう少し肉を取ってくれ」
甲斐甲斐しくベイルは俺の世話をしてくれたのだ。
「ま、まだ食べるのかよ。その子犬。その体で食べ過ぎじゃねえか?」
ブルーノもそうは言いつつも俺に肉を与えてくれた。
コリーの時は厨房からくすねてきたからか量が少なかったのだ。それに比べけば、今朝「量が少ないか」と心配していたコックの兄ちゃんたちの心遣いもあって、量が大幅に増えていた。
俺はそれをむしゃむしゃと食べた。
食事の量は獣人は子犬になっても成人のそれとそんなに変わらないのだ。
そこはとても不便だった。
さて、飯も食ったし、取り敢えず今日は疲れたし寝るかと俺が思った時だ。
「おい、犬ころ。風呂に行くぞ」
俺はベイルに抱きかかえられたのだ。
「キャィーーーーン」
俺は悲鳴を上げたが、
「おおそんなに嬉しいのか」
勘違いしたベイルが俺に頬ずりしてきたのだ。
もう止めてくれ!
「おい、ベイル、その犬ころ嫌がっていないか?」
ブルーノが言ってくれた。
そうだ! 嫌だ!
俺は必死に叫んだのに、
「いや、喜んでいるだろう!」
ベイルは全く気づいてくれなかった。
そのまま、男た土地と一緒に風呂の中に連れて行かれたのだ。
それは兵士用の大浴場だった。
何が嬉しくて、男に体を洗われなければいけないんだ!
これならコリーに洗われたほうが1000倍はましだ!
俺は必死に逃げ出そうとしたが、むんずと捕まえたベイルの握力の前に逃げられるわけもなかった。
カーラやコリーのように俺に気を使ってくれるわけもなく、ベイルにお湯を大量にぶっかけられて、俺はあと少しで溺れ死んでしまうところだった……
俺は死ぬほどコリーのところから逃げ出したことを後悔したのだった。