翌朝、私は目覚めた。
私の横には相変わらずころちゃんはいなかった。
寝ているうちに帰って来るかと期待していたのに……
ころちゃんはちゃんと生活できているんだろうか?
雨露を凌げているんだろうか?
ちゃんとお腹いっぱい食べられているんだろうか?
私はとても心配だった。
外を見ると今日は空も私の心の中のようにどんよりしていた。
そう言えば昨日は泣きながら寝てしまった。
父は宰相の息子と結婚しろと言っていたけれど、あのカエル公子と結婚するのは生理的に絶対に無理だった。
私は本当に変えるとかトカゲとか爬虫類はだめなのだ。
サーヤはいくら宰相の息子がカエルが好きでも大人になってまでポケットの中に持っていないと言っていたけれど、そんなの判らないではない! いきなり目の前に飛び出してきたら、気絶しない自信はなかった。
だから宰相の息子は私の相手にはなり得なかったのだ。
「おはようございます」
そこにサーヤが入ってきた。
「おはよう」
私が挨拶をすると
「今日のお召し物はどうされますか?」
私の目に隈が出来ているのは確実なのに、サーヤはその話はしてこなかった。
確実に私と視線を合わせないようにしているし、とても不自然だ。
あの後、サーヤは父と喧々諤々やってくれてうまくいかなかったに違いない。
私はがっかりした。
ころちゃんの居所もわからない上に、私の婚約の問題が出て来てもう八方塞がりだった。
朝食は二人して静かな朝食だった。
時たま、サーヤが私の方を心配そうに見ているんだけど、私が視線を向けるとすぐに避けるのだ。
余程腹に据えかねているんだろうか?
「サーヤ、お父様と話してくれたの?」
仕方無しに私は話を振ってみた。
「姫様。私は陛下につくづく失望しました」
サーヤは肩をすくめてくれたのだ。
「なんて言われたの?」
私が聞くと
「陛下はこの国が大国に挟まれた大変厳しい環境にあることをあげられて、宰相の息子と結婚して王配として迎えれば、国としても安定すると申されたのです。
本当に腑抜けになられました!」
サーヤは怒りのあまり思わず机の上を叩いてくれていたのだ。
「私、お妃様がお亡くなりになる時に『娘の姫様のことをくれぐれもよろしく頼む』と言われていたことを忘れられたのですかと言ったのです。
そうしたら陛下は娘の将来を託すには、地盤の一番しっかりした宰相の息子と結婚するのが最適だと申されたのでございますよ。本当に何が安定なんですか?
私、姫様が泣いておられましたと申したのです。
そうしたら陛下ときたら『まだ、カーラは見た目で判断しているのか』申されたので、
『女というものは配偶者の見た目も気にするのなのです。陛下はお亡くなりになった後で天国でお妃様に会われた時になんと言い訳なさるおつもりですか?』
そう、私が申し上げたら黙ってしまわれました。
自分でも絶対に姫様の相手としては宰相の息子はふさわしくないと思われているのでございますよ。なのに、国の安定のために姫様の幸せを捨てさせようとするなんて、最低ではありませんか」
サーヤが憤ってくれたが、国の安定のためと言われると私はなんとも言えなかった。
国のためには私は自分の好き嫌いは言ってはいけないのかもしれない。
その場合は毎日気絶するかもしれないけれど……
その日も王宮の中をころちゃんを探したのだった。
王宮の皆はいつもと比べてもとても皆親切で、同情的だった。
「姫様、これでも食べて元気になられませ」
と言って厨房では焼き立てのクッキーを料理長がくれたり、
「姫様。お気を確かに。我ら騎士一同どんな事があっても姫様をお守りいたします」
訓練場に行けば騎士団長からは言われた。
どうやら、父が私に宰相の息子と結婚したらどうかと言ったことが皆に伝わっているみたいで、皆憤ってくれているみたいだった。
しかし、私はこの国モルガン王国の次期女王なのだ。
自分の好みなどこだわって、国を滅ぼすわけにも行かなかった。
私が半ば諦めていると、その日の午後、また父から呼び出しがあったのだ。
「姫様、どんな事があってもお断りください」
サーヤたちの応援の元、私は父のもとに向かった。
しかし、私の心の中ではこの国のためには我儘を言ってはいけないと半ば諦めていたのだ。
「姫、昨日の話だが」
父が言い出してくれた。
私は自分の気持ちをほとんど諦めて、父が言うことをそのまま頷こうと思っていた。
私の我儘で宰相と争いになって、下手して反乱など起こされたら多くの騎士たちが死ぬのだ。
私はそれは嫌だった。
私一人が諦めることによって、皆が死なないならそれが一番良かった。
「私も早急に事を運びすぎたようだ。
周りからも姫の婚約は早いのではないかと言われたのでな。
もう少し、じっくりと考えてみよ」
と父は予想外のことを言ってくれたのだ。
「宜しいのですか?」
私が驚いて聞くと、
「よいよい。宰相が急き立てるものだから急いだほうが良いかと思ったのだが、私とそなたの母の妃が結婚したのも妃が20の時であった。その方はまだ16だ。それまでにじっくりと考えるが良い」
父は笑って言ってくれた。
「それにこの国の近隣はノース帝国以外にもサウス帝国やセントラル王国もある。東には獣人国もあるしの。姫の相手は世界各地から探してみようと思ったのだ。その中には姫の気に入る者も出てまいろう」
「判りました」
私はほっとした。
やはりいくら国のためでも、生理的に合わない宰相の息子との結婚は嫌だったのだ。
でも、この父の決断が私を危険な目に遭わすことになるなんて私は想像だにしていなかったのだ。