その日も、必死にころちゃんを探したが、ころちゃんは見つからなかった。
やはりころちゃんは隠れて城下に降りたんだろうか?
城下で獣や大人の犬や人間に攻撃されて私が拾った時みたいに大怪我をしているんではなかろうか?
私はとても心配だった。
なんとかして城下に探しに行くようにしないと……
でも、お父様や騎士団長が許してくれるとは到底思えなかった。
私がどうにかして城下に探索に出られるように考えていた時だ。
「姫様。国王陛下がお呼びだそうですよ」
私の侍女のサーヤが知らせてくれた。
文官が呼びに来たそうだ。
私は急いで支度をして、父の執務室に向かった。
先頭に騎士が歩いてくれて、その後ろに私と少し後ろにサーヤが付いて、最後に騎士二人が歩いてくれた。
大国では普通かもしれないが、小国では王宮内の移動に3人もの騎士を王女につけるのは絶対に多い。それだけ宰相の力が大きくなって、王宮内の移動も危険になったとお父様と騎士団長が判断しているということだ。
小国ではこれだけの騎士をつけるのも結構大変なのだ。
お父様の執務室に着くとお父様の文官が扉を開けてくれた。
「おお、カーラよ。待っていたぞ」
お父様は私が入ってくると即座に執務を止めて、立ち上がって私を迎えてくれた。
「お父様、お呼びと伺い、参りました」
私が礼をすると
「まあ、座ってくれ」
お父様は私に椅子を勧めてくれた。
お父様の侍女のレイナがお茶を入れてくれる。
紅茶は遠方のアッサムのお茶でとても香りが良かった。
その香ばしい香りを楽しみつつ、一口口に含む。
「美味しい!」
私はにこりとした。
「今日は姫様のお好きないちごのショートケーキにしました」
私を見て嬉しそうに言うレイナに
「ありがとう」
礼を言うと、私は一口フォークで切って口に入れる。
口に含むと全てがとろりと溶けてしまいそうな美味しさだった。さすが、王宮のシェフのケーキはいつもとても美味しいのだ。
「今日はカーラに大切な話があるのだ」
私がご機嫌になったタイミングを見てお父様が話しだした。
大切な話ってなんだろう?
私がお父様の方を見ると
「お前ももう16歳だ。そろそろ、カーラの配偶者を決めねばなるまい」
お父様が話しだした。それは前々から言われていたことだ。
「でも、色々な面を考えるとお相手はとても難航していると、お父様からはお伺いしていたと思うのですが」
私が言うと
「そうなのじゃが、実はの。宰相から申し出があったのじゃ」
お父様が私の顔色を伺いながら言ってきた。
「宰相閣下ですか?」
私はこの前に宰相からはころちゃんを始末するように言われていたので、良い印象は持っていなかった。
「宰相の息子のベンヤミンはどうじゃ」
「えっ、ベンヤミン様ですか」
私は真っ青になった。
皆からカエル公子と呼ばれている男だ。
私は生理的にあの男だけは嫌だった。
「だってベンヤミン様はカエルを」
「カーラ、人の見た目で判断してはならん」
お父様がいきなり怒り出した。
「えっ、お父様、私は見た目で判断しているわけでは」
「今、カエルと申しただろが」
「だって、ベンヤミン様はカエルを」
「ええい、あの公子がカエル公子と呼ばれているのは知っておるわ。しかし、その方の口からカエル公子という名が出るとは思わなかったぞ」
お父様がいきり立って立ち上がったのだ。
「もう、良い! まさか、カーラが人を見た目で判断しているとは思わなんだわ」
「えっ、お父様」
私は慌てたが、
「すぐに部屋に帰って反省せよ。サーヤ、すぐにカーラを連れて行け」
私は唖然とした。
お父様は何を言っているのだ?
私は見た目で判断しているわけではない。
「しかし、陛下」
「ええい、さっさと連れて行かんか」
お父様は聞く耳を持たなかった。
私は部屋から追い出されてサーヤらに連れられて自分の部屋に連れて行かれたのだ。
私はお父様にこのようにきつく言われたのは初めてだったので、驚いて泣き出していた。
「姫様、大丈夫でございますよ。陛下も何という酷いことをなさるのでしょう。宰相の息子を配偶者にしろなんて! 姫様がいつも小さくなっているのはあの宰相一族が大きな顔をしているからではありませんか。そんな姫様の配偶者にあの宰相の息子を持ってくるなど許せるものではありません」
サーヤの声に騎士たちは皆頷いてくれるんだけど、
「それに近隣諸国一の美貌を誇る姫様のお相手が、あのガマガエルのような見た目の息子ではあまりにも不釣り合いです。このサーヤ、絶対に許しませんからね。だから姫様もご安心なさいませ」
サーヤは慰めてくれたんだけど、
「サーヤ、人は見た目でとやかく言うことではないわ」
私はサーヤに言ったのだ。
「えっ、でも、姫様もカエル公子は嫌だとおっしゃられたではございませんか」
サーヤが私に反論してきたんだけど、
「私が嫌なのは見た目じゃなくて、あのベンヤミン様はカエルをポケットの中に持っているのよ。昔一緒に遊んでいた時に出してくれて、私はカエルだけはダメなの。だから絶対に嫌なの」
私は身震いして言った。
そうだ。いろんな生き物がいるが私は爬虫類が苦手なのだ。あのネバネバした肌が嫌なのだ。
「えっ、カエル公子はカエルを飼っているのですか?」
「そうよ。かわいいから触っていいぞっていうんだもの。だからそれ以来ベンヤミン様とは絶対に遊んでいないでしょ」
私は怒っていったのだ。
カエルをさわれという貴公子とだけは一緒にいられなかった。
「えっ、姫様、いくら何でもこの年になってポケットにカエルを飼ってはいないと思いますが」
「そんなのわからないじゃない。カエルを出されたら私、気を失わない自身はないわ」
私が言い切った。
サーヤは少し逡巡していたが、
「左様でございますね。まあ、理由が何であれ、私から陛下にしかとお伝えいたしますから、ご安心ください」
サーヤは言ってくれたけれど、宰相がゴリ押ししてきたらお父様では反対できないのではないかしら。
私はとても不安になった。
その日は心配のあまり私はほとんど寝れなかったのだ。