私はころちゃんの夢を見て飛び起きた。
ころちゃんが檻に入れられて運ばれていったのだ。
私はいくら手を伸ばしても届かなかった。
本当に最悪だった。
手の届かなかったころちゃんのことを想うと、涙が後から後から流れてきたのだ。
「姫様、どうされたのですか?」
朝の準備をしに来たサーヤは驚き慌てていた。
「サーヤ! ころちゃんが檻に入れられて遠くに連れていかれたの!」
私はそう言うと泣き出した。
「まあまあ、姫様、大丈夫ですよ。ころちゃんは必ず帰って参りますから」
サーヤはそう言って私を抱き締めてなぐさめてくれたが、その必ず帰ってくるという根拠は何処にあるんだろう?
夢の中でころちゃんは檻に囚われていたのだ。そんなのあんな子犬が逃げ出せるわけはないのに!
私はサーヤの言葉には納得できなかったが、サーヤに抱いてもらえると、母に抱かれたことを想い出して、何故か、涙が止まったから不思議だ。
母の抱っこは無敵だった。小さい頃に泣き虫だった私は良く母に抱っこして慰めてもらっていたのだ。
まあ、母がいない時はサーヤが抱いて慰めてくれたし、その延長みたいな感じなのだ。
でも、早く、ころちゃんを探さいないと!
食事を取り終わると、その日も私は王宮の中をころちゃんを探そうとした。
今日も騎士さん達とサーヤ、庭師の爺やらが率先して手伝ってくれた。
侍女たちも手分けしてころちゃんを見ていないか王宮内をくまなく聞いてくれるそうだ。
私達は早速手分けして部屋の外て探し出したのだ。
でも、半日かけて探してもころちゃんは何処にも居なかった。
「ああら、何処の庭師かと思ったら、カーラ王女殿下ではございませんか? このような所で何をしていらっしゃるのですか?」
嫌味な声に振り返ると、そこには一番会いたくないアレイダがいたのだ。
「これはアレイダ嬢、ごきげんよう」
私は慌てて、立ち上がって挨拶した。
アレイダも挨拶を返してくれた。
「ごきげんよう。カーラ様。何か探し物ですの? 皆様必死にゴミじゃなくて、物を動かして探していらっしゃいますけれど……何か大切な物を無くされたんですの?」
そこで顔がにこりと笑ってくれた。私の一番嫌いな笑みだ。
「もっとも殿下にしたら宝物でも私にしたら大したものでは無い気もしますが。安い物でしたらお譲りしましてよ」
アレイダはそういつて笑ってくれたのだ。
「な、なんだと!」
「殿下に対する狼藉、許すマジ」
そのアレイダの言葉に騎士達がいきり立つが、私は手で制した。
「いえいえ、アレイダ嬢が仰るように、大したものではありませんわ」
私は精一杯、見栄を張って答えたのだ。
「ひょっとして、子犬がいなくなったのですか?」
コリーが聞いてきた。
「えっ、なぜあなたがそれを?」
私は取り繕うのを止めて思わず認めてしまった。
そして、まじまじとコリーを見た。
「いや、あの、皆さんが子犬が隠れそうな物陰を「ころちゃん! 何処にいるの?」と呼んで探していらっしゃいましたから」
私突っ込まれて、しどろもどろでコリーが答えてくれた。
でもその目が泳いでいるのを私は見逃さなかった。
「コリーさん、何かご存じですの?」
私は慌てて、コリーに近付いた。
「いえ、私は何も」
コリーは否定したが、目の逸らし方が絶対に怪しい。
「コリーさん、何か知っているなら教えて」
私は掴みかからんばかりに、コリーに近付いた。
「いえ、私は知っていることは」
「嘘おっしゃらないで! その顔は何かを絶対に知っているはずよ」
私が決めつけて言うと
「ちょっと王女殿下、我が家の侍女に何を言ってくれるんですか? 何も知らないって言っているじゃないですか?」
横からアレイダが文句を言ってきた。
「でも、コリーさんの動きが挙動不審よ」
「いえ、私は殿下の犬によく似た子犬を市場近くで見ただけで」
必死にコリーは言い訳した。
「えっ、市場ってどこの市場?」
私が畳み掛けると
「それは、ええええっと、中央市場です」
少し逡巡してコリーが話してくれた。
「中央市場ってそれは孤児院の近くよね?」
「そ、そうですわ」
「殿下、いい加減離して下さい」
アレイダが近づいてきて、強引にコリーを引き離してくれた。
「本当にいくら王女殿下でも、強引すぎますわ」
「本当にですわ」
「そんなに大切だったら首輪に繋いでおけばよろしかったのに」
「放し飼いにされるからよ」
「だから逃げられるのですわ」
女たちは好き勝手なことを言ってくれた。
確かにそうだ。首輪をつければよかったのだ。
「でも、あんな小さい子犬に首輪をつけるなんて、野蛮なことは出来ませんわ」
私は思わず大きな呟いていた。
「「えっ」」
アレイダと取り巻きたちは一瞬私の言葉に固まってしまった。
「や、野蛮ですって、カーラ様、あなた、私が野蛮だっておっしゃるの」
アレイダは私の言葉にきっとして睨んできた。
「そうは申しておりませんけれど、あのような小さい子犬に首輪をつけるなんてとても可哀想だなと」
私は曖昧に頷くと
「まあ、可哀想なんて言っているから逃げられるのではありませんか」
その言葉は私にぐさりと突き刺さった。
そうかも知れない。
首輪をして繋いでいたら逃げ出すことは出来なかったはずだ。
「まあ、今後は考えられたほうがよろしくてよ。
まあ、皆様、時間がありませんわ」
そう言うと勝ち誇ったようにアレイダ達は去っていったのだ。
「姫様大丈夫ですか?」
後ろからサーヤが声をかけてきた。
「あいも変わらず野蛮な女たちでございますね」
サーヤが私が思わずもらした言葉を使っていってくれたんだけど、それはまずいだろう。また、父に知られたら注意されるかもしれない。
「サーヤ、野蛮は言いすぎよ。私の言葉が過ぎたわ」
私は注意した。
「でも、ころちゃんは市場まで逃げたと思う?」
私がサーヤに聞くと、
「それはないと思いますよ。それに姫様が王宮を出るのは無理ですからね」
サーヤの言葉に後ろの騎士さんたちも頷いてくれるんだけど、私はすぐにでも王宮の外にころちゃんを探しに行きたかった。