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第10話 私の子犬がいなくなりました

私は腕の中の暖かい何かが無いのに気づいた。

ギュッと抱き締めて、あれっ? 居ない!

「ころちゃん?」

私は白い子犬を呼んだ。

どこにいるんだろう?

「ころちゃん!」

もう一度呼んでも返事がない。

いつもはワンってすぐ鳴いて私のところに尻尾を振って直ぐに駆けつけてくれるはずなのに?

今日はどうしたんだろう?

私は少し慌てた。


「姫様、お目覚めですか?」

物音を聞き付けて、サーヤが入ってきた。

「サーヤ、ころちゃんが居ないの!」

私が慌てて言うと、

「ちょっと散歩にでも行ったのでしょう。直ぐに帰ってきますよ。それよりも早くお着替え下さい」

「でも、ころちゃんが」

「姫様、寝巻きのままではころちゃんを探しには行けませんよ」

私の心配を流して、サーヤはそう言ってくれた。

確かに、寝巻きのままでは外に探しに行けない。

私は仕方なしにサーヤに任せて、着替えた。


そして、朝食を食べるのもそこそこにころちゃんを探しに出たのだ。

騎士の皆にも協力してもらって、部屋の中や建物の周りを探したのだ。


でも居なかった。

変ね?

私は焦りだした。

いつもは朝には必ず私の胸の中にいたのだ。

それがいないばかりか、周りを探してもいない。何かあったんだろうか?

私はとても心配になった。


「どうしましょう、サーヤ? これだけ探してもいないということは、獣か何かに襲われたのかも知れないわ」

私が心配して言うと、

「姫様、王宮のの中には獣などおりませんよ」

即座にサーヤが否定してくれたが、

「でも、二度と姿を宰相らの前に見せるなって言われたのに、ころちゃんは宰相の所に行ったのかも知れないわ」

私が心配して言うと、

「それはないと思いますけど、あの子犬は見た目よりは賢いと思います。よく人の言うことを聞いてくれますし、人の言葉が判るのではないかと、不思議に思った程ですもの。危険なところには近付かないと思いますよ」

「そうは言ってもころちゃんは最初に待ってと言っても飛び出して、宰相夫人に吠えたじゃない!」

私は言うが

「まあ、子犬ですからそこは仕方がないかと」

サーヤが呆れて言ってくれるけど

「じゃあ、何処に行くか判らないじゃない。宰相の所に迷って行ったかもしれないわ」

私が心配して言うと、

「それとなく、様子を探って参りましょうか?」

騎士の一人がそう言ってくれたので私はお願いした。


「それとなく周りの者に聞いてみましたが、宰相の部屋の近辺では何も起こっていないかと」

「周りの者にも聞いてみましたがころちゃんを見たものはないとのことでした」

騎士さん達が聞いて来てくれた。

ひと安心したけれど、ころちゃんは何処に行ったんだろう?

私達はもう一度ころちゃんが隠れそうなところを必死に探した。


でも、ころちゃんは何処にも居なかったのだ。


ころちゃんの事を調べるうちにころちゃんは時々夜に出歩いていたことが判ったのだ。


どうやって出たんだろう?


扉も全て閉めていたし、騎士たちも私の部屋の周りを警戒していたのに……

あんなに小さな子犬が一匹でウロウロしていたなんて信じられなかった。

特にころちゃんは小さいからまあ騎士たちが見落としたと言えば仕方がない面もあるとは思うが、私の部屋は特に宰相の権力が大きくなるにつれて、警戒が厳しくなっていたはずなのだ。それを抜け出していたなんて信じられなかった。


ころちゃんは時々、夜に厨房や、騎士の訓練所に時たま出没しておやつをもらったりしていたらしい。


そのくせ朝には必ず、私の胸の中で寝ていたのだ。

やはり、誰かに害されたりしたんだろうか?

そうか新しい住処でも見つけたんだろうか?


アレイダの侍女のコリーがころちゃんをとても物欲しそうに見ていたのは知っているけれど、主の母親が犬嫌いなのだ。

母親は次にころちゃんを見た時は処分すると言い切ったのだ。娘の侍女が飼える訳はなかった。それに、アレイダ自身が昨日は早く帰ったはずなのだ。だから、コリーがころちゃんを拐える訳はないのだ。

私はその午後からサリーと騎士たちと一緒にころちゃんの行きそうなところを必死に探したが、ころちゃんは見つからなかった。


「ころちゃん、どこに行ったんだろう」

夕食時も私は上の空だった。

「姫様。食事が進んでおりませんよ」

サリーが注意してくれたが、ころちゃんがお腹をへらして苦しんでいるのではないかと想像すると食事が手につかなかった。


辛い時、悲しい時にころちゃんを抱きしめてもふもふして癒やされたのだ。

その癒やしのころちゃんがいなくなって私はとても心配した。

その夜だ。私はベッドの中でなかなか寝付かれなかった。

いつもはころちゃんの暖かさともふもふに癒やされてすぐに寝ていたのだ。

今はそのころちゃんがいないのだ。

それに夜になるとどこかでころちゃんがひもじい思いをしているのではないかととても心配になってきた。

大きな野犬や騎士たちに傷つけられたり、殺されたりしたのかもしれない。

私は明け方まで悶々としていたのだ。


その夜、私は夢を見た。

ころちゃんは誰かに捕まって檻の中に閉じ込められていたのだ。

私を見て、

「わんわん」

吠えてきたが、私がいくら手を伸ばしてもころちゃんにはさわれなかった。

「ころちゃん! ころちゃん!」

私が必死に手を差し伸べたのに、届かない。

「クウーン! クウーン!」

ころちゃんも哭いてくれた。

そして、檻がどんどん離れていくのだ。


「ころちゃん!」

私は大声を上げて自分の声に驚いて、起きたのだ。


そこは朝日が差し込む私の部屋だった。


私の腕の中にはころちゃんはいなかった。

1日明けてもころちゃんは帰ってきていなかったのだ。

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