な、なんでこうなった!
私は今、カーラ王女の胸にぎゅっと抱きしめられている。
それもお風呂の中でだ。
もう、恥ずかしさで死んでしまいたい……
私はマクシム・セリアン。東方にある、獣人の国セリアン王国の王子だった。
獣人は普段は人間なのだが何らかの拍子に獣化する。
熊や獅子、虎とか人それぞれだ。
俺の場合は犬だった。それも可愛い子犬なのだ。
最初に獣化した時に、子犬だと知った俺は唖然とした。
周りも呆然としたのだ。
王子が獣になると子犬になるなんて、王女なら良かったかもしれないが、王子が子犬ではシャレにもならなかった。
父や母もがっかりした。
俺は体が大きくなったら立派な成獣の犬になるかと淡い期待をしたが、子犬のままだった。
家臣たちの表情には諦めに似た感情が現れていた。
「まあ、陛下。獣化しなければ、立派な王子殿下ですから」
宰相の言葉が全てだった。
獣化したら子犬になる俺に対して、異母兄はなんと虎だったのだ。
子犬と虎では見た目では勝負にならなかった。
家臣たちの中には獣化したら虎になる異母兄を次期王に勧めるものも多かった。
異母兄の家臣たちは折に触れて子犬の俺を馬鹿にしてきた。
片や可愛い子犬、もう片方はいかつい虎、どちらが王にふさわしいかは、見た目だけで決まってしまうだろう。
と家臣たちは皆に言いふらした。
俺の母は正妻だったが、異母兄を生んだ母は側室だった。普通は正妻の子供の俺のほうが王位は近くなるはずが、獣化した姿が子犬だったせいで、兄の方が王にはふさわしいと思った者も多かった。
俺はこのハンディを乗り越えるために必死に剣術の稽古をしたのだ。
毎日毎日、血豆だらけになりながら、必死に稽古をした。
そして、俺が成人を迎える頃には俺の剣に勝てる獣人はほとんどいなくなった。
俺はこれで王になれると思ったのだ。
そんな時だ。俺は異母兄とともに国境地帯に視察に出たのだ。
俺達は国境地帯を見て回った。とある川沿いの小さな町に寄った時だ。
俺が側近たちと少数で街を歩いているとそこで俺達はいきなり賊に襲われたのだ。
俺は剣を抜こうとして、剣がおもちゃの剣にすり替えられているのに気づいた。
そして、そこにいるはずの一人の側近がいなくなっていたのだ。
俺は側近に裏切られたのに気づいた。
俺の護衛たちは俺を必死に守ろうとしたが、多勢に無勢、あっという間に斬り倒されてしまった。
俺は斬りかかる賊から逃げたが、多勢に無勢、剣もなくては勝負にならなかった。
あっという間に傷だらけになって、急流の川の傍に追い詰められた。
そして、そこに巨大な虎が現れた。
それは異母兄が獣化した姿だった。
俺は異母兄に嵌められたのを知ったのだ。
襲いかかってくる虎相手に俺は抵抗はした。しかし、素手で虎に対抗できるわけはなかった。鋭い爪で切り裂かれ、腕に噛みつかれたのだ。
俺は必死に殴りかかったが、獣化した異母兄に勝てるわけもなかった。
俺は異母兄の隙を付いてなんとか川に飛び込むのが精一杯だった。
異母兄は追いかけてこなかった。
でも、川の流れは早く、激しかった。
俺はいつの間にか気を失っていた。
私は気づいたら岸に打ち上げられていた。
どこかの異国の街の中みたいだった。
それがどこか判らなかったが、生きているのは理解できた。
体は子犬になっていたが……
もう体中傷だらけで、生きているのが不思議なくらいだった。
俺は岸から離れて、なんとか木陰で休もうとした。
まあ、傷は重いが、獣人は生命力だけはあるので、じっとしていれば、傷もいずれ治るはずだった。
でも、俺はやられた護衛や、裏切った異母兄や側近のことを考えると辛かった。
じっと心と体の痛みに耐えている時に、この国のカーラ王女に拾われたのだ。
王女は王宮に俺を連れて行ってくれた。
そこで癒やし魔術をかけてくれて、半死半生だった俺はなんとか体は元気になったのだ。
そして、傷が治った俺は、泥まみれだったのか王女とその侍女にそのまま風呂に入れられたのだった。
大きくなって初めて女の子人に風呂に入れられたのだ。
俺は必死に逃げようとしたが、子犬の俺では王女から逃げられずに、真っ赤になって抱かれるしか無かった。
王女は俺を可愛がってくれた。
異母兄と側近に裏切られた俺は心に大きな傷を負っていたが、王女の優しさと、温かい肌のぬくもりに癒されだのだ。決していやらしい意味ではない!
俺は王女に抱きしめられて精神的にも体力的にも疲れ切った体を癒やされて十分な休息をとったのだった。