ドーラをころちゃんが吠えて追い返してくれて、私達はせいせいしていた。
「ころちゃん、良くやってくれたわ」
私はころちゃんに抱きついて、ころちゃんは真っ赤になってくれたのだ。
でも、それはよくなかった!
お父様に呼び出されたのだ!
「お待たせいたしました」
私がお父様の前に出ると、そこには怒り顔の宰相夫妻と戸惑った顔のアレイダがいた。
「カーラや。宰相夫人がおっしゃるのだが、お前が日頃の恨みを晴らすために、獰猛な犬を宰相婦人に突っかからせたというのは本当なのか?」
お父様が呆れて私を見てきた。
「獰猛な犬ですか?」
私がお父様を慌てて見るとお父様と宰相夫妻は大きく頷いた。特にドーラは目を怒らせて私を見るんだけど、
「あのう、ころちゃんはこれくらいの小さな子犬なんですけど」
私が両手で囲って大きさを示すと
「「「えっ?」」」
お父様も宰相も驚いて夫人を見るんだけど……
「何を言われるのですか? そこまで小さくはありませんわ。 これくらいはありましたわよ」
夫人が両手で少し大きめを形つくるが
「気象の激しいドーベルマンかなにかをけしかけられたのじゃないのか?」
宰相が驚いてドーラに聞いてきた。
「いえ、こんな小さな子犬ですわ」
私が再度、言い切った。
「そうですわよね。アレイダ様」
「え、ええ、もう少し大きかったかもしれませんけれど」
しどろもどろにアレイダは答えた。
お父様は呆れた顔をしているが、
「とりあえず、陛下、犬の大小ではありませんわ。この宰相の妻の私が犬風情に吠えられましたのよ!」
眦を決してドーラは言うが、
「まあ、それはそうだが」
宰相はトーンダウンしていた。
「あなた、私が犬が嫌いなのをご存知でしょ。王女殿下は私が犬嫌いなことを知っていてこのような事をして私に恥をかかせてくれたのです」
ドーラは目を吊り上げていた。
「宰相婦人。申し訳ありませんでした。私、夫人が犬嫌いだということは存じ上げなかったのです」
「まあ、何ていうことでございましょう。そのようなことをおつしゃられて。陰で驚いた私を見て笑っていらっしゃったのね」
ニヤリとドーラは笑ってくれた。
「えっ、いえ、そんな事は」
私は否定した。確かに皆笑っていたけれど、ここは誤魔化さないと。でも、うまく誤魔化せなかったかもしれない。
「陛下。驚いた私は腰を打ち付けて、せっかく着ていた衣装も汚れてしまったのです。この上はその無礼な犬を処分していただきたいわ」
「えっ、そんな事は出来ません」
私はドーラの言葉に蒼白になった。
あんな可愛いらしいころちゃんを殺すなんて出来ない。それはドーラの姿がおかしかったから後で皆で笑いはしたのは悪かったけれど、殺すなんてあんまりだ。
「何ですって! その犬は私に吠えかかってきて、私はこけさせて泥まみれにされたのに、その犬を処分しないとおっしゃるの? 陛下それは陛下のお考えもそうなんですか?」
更にドーラは傘に着て怒り出したんだけど……
「いや、夫人、カーラの対応も悪かったかもしれないが、そのような世間知らずの小さな子犬を殺すのはいかがなものか思うが」
父も抵抗してくれた。
「なんかですって。陛下。私はあんな怖い目にあったのは初めてです。この上は父に言って父から話してもらいますわ」
「そんな」
私はもう真っ青になっていた。
ノース帝国の皇帝はドーラのわがままをよく聞くと聞いていた。娘が蔑ろにされたと聞いたら、本当に処分を言い出しかねなかった。帝国の皇帝に言われたことを我が国では跳ね返すことなど出来なかった。
もう私は涙目になっていた。
「はっはっはっは」
その後ろで笑う男がいた。
「フェルナンド殿」
流石に笑い出した男を宰相が注意した。
「いやあ、宰相、それと夫人、申し訳ない」
男は笑うのを止めて謝った。この方は今遊びに来ているサウス帝国の第四皇子のフェルナンドだったと思う。
「しかし、こんな小さな子犬に吠えかけられたくらいで、その子犬を殺せというのもどうかと思いますよ。実際にその子犬の首を届けられたら、皇帝陛下も驚かれますでしょう。下手したら興ざめなさるかもしれません。ここは、カーラ王女殿下が夫人に謝られて、二度と夫人の前に子犬を出さないと約束されれば良いのではありませんか」
フェルナンドはころちゃんを殺さない方向で話してくれた。
「いや、しかし」
ドーラは更に言い募ろうとしたが、
「まあ、お母様。ここはフェルナンド殿下のお顔をお立てするということでよろしいではありませんか」
アレイダもそう言ってくれた。
「……」
「レーネン夫人。申し訳あませんでした。二度と子犬は夫人に近づけないようにしますので、ここはお許しください」
私が頭を下げたのだ。
王女が臣下の妻に頭を下げるのもどうかとは思うが、一応夫人は側室腹とは言え帝国の元皇女だし、ころちゃんが殺されないのならそれで良しとすするしか無かった。
「まあ、仕方がありませんわ。今後気をつけて頂けるのなら、私はその謝罪をお受けいたします」
ドーラが頷いてくれて私はほっとしたのだ。
宰相婦人も」