それから私は毎日ころちゃんの面倒を見た。
ころちゃんは賢くてトイレも一回で覚えたし、なんか好き嫌いなく食べているんだけど、子犬の食事つてこんなの良いの? 言うくらい普通に食べている。
本来ならば、母乳とか飲んでいるときだと思うのに!
普通に肉とかも平気で食べている。
犬用の食事よりも私と一緒の食事を取りたがるんだけど……
「うーん、ころちゃん可愛い!」
私はころチャンを抱っこしてもふもふしている。
本当にころちゃんは癒やされるのだ。
何故か胸に抱くと赤くなっているような気がするんだけど、気の所為だと思う。
そんな私はころちゃんをお散歩にだした。
「ころちゃん、そんなに走っちゃダメよ!」
久々のお外でころちゃんははしゃぎまわったのだ。
私は必死に追いかけたが、ころちゃんはどんどん走っていった。
「ころちゃん、やっと捕まえたわ」
私がやっところちゃんを捕まえると、
「まあ、王女殿下。何をしていらっしゃるの? また、地味な服を着られて」
アレイダの呆れた声がした。
やってしまった。ころちゃんが勝手に走っていくから、前からアレイダ達がやってくるのに気づかなかったのだ。
アレイダは目の覚めるような真っ赤な生地に金ピカのラインが入ったとても派手な衣装を着ていた。
私はそれを見て思わず目が点になってしまった。
あなたの派手な衣装に比べたら誰でも地味よ!
思わず口に出してしまいそうだった。
「ゲッ」
「すげえ」
私の後ろの護衛騎士たちが私に代わって呟いているけど。
「そうでしょう。アレイダ様は素晴らしいのです」
なんかその声を褒めている声と聞き違えて、取り巻きの一人がヨイショしていたけれど……
今日は昨日とは違って私は普通の水色のドレスを着ていたのだ。どう見ても私のほうがまともだと思うんたけど……
「ところで何なのですか、その小さいものは?」
アレイダが聞いていた。
「可愛いでしょ。ころちゃんというのですわ」
私が自慢していってやった。
そう、ころちゃんは可愛いのだ。
「なんか小さすぎて、すぐに死んでしまいそうですわね」
アレイダがムッとすることを言ってくれた。
さすがの穏便な私も思わず言い返しそうになった。
「キャンキャン」
ころちゃんが私の代わりに抗議してくれたから、私は黙っていたけれど……
「ボールみたいにコロコロ転がしたら面白そうだからころちゃんですか?」
アレイダが変なことを聞いてきた。
「そんな訳無いでしょう。アレイダ様は子犬を見たことがないのですか?」
思わず私が聞くと、
「えっ、この小さいのが犬なんですか」
驚いてアレイダはころちゃんを二度見した。
本当に見たことが無かったみたいだ。
少し近づいてきたので、私はまた、わがまま言われて取られたら嫌だから、さっところちゃんを腕の中に隠したのだった。
「まあ、王女殿下。隠されるなんて、大人気ありませんわ。気にせずとも取ったりしませんわよ」
アレイダは笑ってくれたが、そんな事は判らない。
アレイダの侍女のコリーがずいっと前に出てきたのだから。コリーは触りたくて仕方がないように顔をしているし。
「アレイダ。まだ、こんな所にいましたの? お父様がお呼びですよ」
私は後ろから来た人物を見てげんなりした。
ドーラ・レーネン元皇女。ノース帝国の側室の娘で、現宰相の妻だ。彼女はキンキラキンの緑色の蛍光色のドレスを着ていた。見ていて本当に眩しい!
「ああら、これはカーラ王女殿下ではございませんか?」
嫌味なことは娘以上だ。
「あまりにも地味なので、いらっしゃることが判りませんでしたわ」
早速嫌味を言ってくれた。
いやいや、あなた達二人のクリスマス色コンビに比べたら、皆、地味になるわよ!
私はそう言いたかった。
「本当にノース帝国でしたら、その地味な安物の衣装は男爵令嬢が着るものでしてよ」
確かに帝国の皇女殿下の衣装に比べたら安物かもしれないが、この衣装は動きやすくて良いのだ。
と言うか、一国の王女を帝国の男爵家と比べるな!いくらなんでもそれはないはずだ。
最も帝国は広大な領土を持つているから下手したら大きな男爵家だったら、この国以上の領地を持つ男爵家がいるかもしれない?
まあ、それはないと思うけれど、そもそも、そんなに帝国の自慢がしたければ、こんなちっぽけな国の宰相の妻なんかにならなければ良かったのに! 選ばなければ帝国貴族に嫁げただろう。
私のことを帝国の男爵以下だというのならば、その部下の宰相はそれ以下のはずだ。
私の素直な疑問だ。
絶対に口が裂けても言えないけれど……
「あら、その手に抱えているものは何なんですか」
ドーラが目ざとく見つけて覗いてきた。
「わんわん!」
いきなりころちゃんが吠えてくれたのだ。
吠えるのも可愛いと私は思ったのに!
「キャーーーー!」
ドーラは驚いて、その場に尻もちを付いてしまったのだ。
「えっ?」
私は驚いてしまった。
そんなに驚くようなことだったろうか?
「ま、まあ、あなたよくも帝国の元皇女の私に犬をけしかけましたわね」
こめかみを引きつらせながらドーラが怒ってきた。
「わんわん!」
「キャーーーー、もう近づけないで」
私の腕の中でころちゃんがまた可愛く吠えてくれた。
ドーラが必死に後ずさっていくんだけど、何故に?
吠えているころちゃんもとても可愛いのに!
私達はアレイダも含めて唖然とドーラを見ていた。
「カーラ王女、覚えていなさいよ!」
遠くから叫んで
「わんわん!」
ころちゃんに吠えられて慌てて逃げていったのだ。
「ちょっとお母様」
慌ててアレイダとその取り巻きも追いかけていった。
「ドーラ様は何に驚かれたのかしら。ころちゃんはこんなに可愛いのに?」
私がサーヤに聞くと、サーヤは肩をすくめてくれた。
「まあ、とてもいい気味に見えましたけど」
サーヤの後ろの騎士たちも頷いていた。
その点は私も否定しなかった。
でも、ドーラがこのことを黙っているわけはなかったのだ。