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第6話

 砂項が居候している家に到着すると、詩稀の笑顔が迎えてくれた。

 どうやら、先客がいたようで、二人は戸惑ったが、砂項自身が入るように言ってきた。

 リビングのソファで、ビールを飲む男は、眉が太く、鋭い目つきをして、態度があからさまにでかかった。

 刑事と聞き、二人は納得したが、男はそれがどこか気にくわなかったらしい表情を浮かべる。

「続けてください」

 彩葉は、二人の男に言うと、詩稀の近くの部屋の隅に座った。

 詩稀は、鶴を折っていたいたところだった。

「あら、折り紙なら、あたしも得意よ?」

 彩葉は横から言った。

 陽香は勝手にキッチンの冷蔵庫を漁って、コークをその場で飲んでいた。

「これはねぇ、ただの鶴とは違うんだよー」

 むふふと、こもった笑いをして、詩稀は彩葉を上目使いにみる。

 そういえば、初めて来たとき、砂項が不思議な鶴を広げていた。

 まさかねと、否定して、彩葉は詩稀の作業に見入っていた。

「……で、まぁ、ヤサも会社もわかった。あとは、逮捕するだけだな」

 御刳は悪い笑みを浮かべていた。

「んー、まぁそっちとしては妥当だけど……」

「おや、占い師としては、不満か」

 御刳は砂項を占い師と呼ぶが、呼ぶほうも呼ばれたほうも、気にしてはいない。

「いや、そちらが動くなら、俺も動くけども、どっちにしろ、変な様子を見せたら、その池尋亨昭という人物が危ないんじゃ無いかとね」

 さすがに、彩葉は何の話をしているのか、気になった。陽香も興味があるらしく、どこかで口を挟もうと隙をうかがっている様子だった。

「人数はどれぐらい用意出来てるんだい?」

「俺を含めたて、四人」

「なんでそんなにすくないんだよ……」

「てめぇのせいだよ、占い師。ホンモンがいるんだろう? バスの事件ももう事故扱いだよ」

「まてよ、相手は希代の殺人鬼だよ!?」

「しるか!」

 御刳は面倒くさそうに吐き捨てた。

「あのぅ、希代の殺人鬼って?」

 ようやく陽香が話に入ろうとした。

「おうよ、嬢ちゃん。ドール・メーカーだよ、メディアで噂の」

 メディアでは、夜一人で歩いていると遭遇する、お化けとして扱われていた。

「あたし達、あたしと彩葉、襲われた事あるんですけど……?」

「……なんだと?」

「今、言ってたバスの事件、あたしらが襲われて、必死に逃げてたんです」

 御刳が呆れた顔をした。

「なんで警察に届けなかったんだよ!」

「その時は、必死で……。それに信用してくれましたか?」

 御刳は大きく息を吐いた。

「信用されなかっただろうな、多分。そこの嬢ちゃんも一緒となりゃぁなぁ」

 チラリと、彩葉に視線をやる。

「とにかくだ。逮捕状は取った。裏も取った。そして、上やらの態度はこれだ。奴は六人殺してるのが判明している。射殺してやっても、文句はでないだろう」

 御刳は再び、笑みを見せた。

 確実に捕まえるより、殺す気満々のものだ。

「色々大変だなぁ」

 呑気に砂項は他人事丸出しで言った。

「なんだ、おまえも当事者の一人だぞ。これが終わったら、ゆっくりと話を聞くことになる」

「使いっ走りに話すことなんてないよ」

 その言葉に、一瞬御繰の表情が固まった。

「……どういう意味だよ? 誰がつかいっぱだって?」

 彼は軽く凄んで見せた。

 砂項は嗤った。

「おまえだよ、御繰。どうせ、小林興業辺りに命令されて動いたんでしょ? 四人ってのも、あそこと繋がりがある連中だと思ってるんだけどねぇ」

 御繰が表情を消した。

 静寂の中、彼はゆっくりとビールを飲む。

「で?」

 訊いたかたちが肯定している反応になっていた。

 砂項は面倒くさげに首を振った。

「どうもないよ。俺に興味が無い事だからね。ただ、話が聞きたいというなら、おまえ経由でどっかに行くんじゃなく、行動を把握して命令を出している人物じゃなきゃ駄目だって言いたいんだよ」

「……あぁ、なるほどねぇ……。まぁそれなら、お膳立てはしておくよ。ただ、関係者としての参考話しは提出させてもらうぜ」

「それなら、かまわないんだけどねぇ」

 その時、砂項の携帯が鳴った。

 着信相手は、凪佐だった。

 砂項は、その場で携帯を耳に当てた。

「もしもし? 凪佐さん?」

『ああ、砂項、大変よ。昨日、御殿場の祠がドール・メーカーに燃やされたわ」

「……何だそれ?自爆行為じゃないのか?」『それが、何故か彼に影響は無かった。多分、どこかに仮の社を作っているんだと思う。いずれにしても、今の奴は自由よ、気をつけて』

「わかった。ありがとう」

 通話内容は漏れていて、全員に聞こえていた。

「あの、それは一体、どういう……」

 陽香が黙ってられないという風に訊いていた。

「……さて、ドール・メーカーがどう行動取るつもりなのか、俺にもわからないなぁ……とりあえず、殺人鬼のほうを先にやって貰おう」

「やって貰おう、じゃねぇよ。おまえも来るんだよ」

「は?」

 御繰の言葉に、砂項は間抜けな声をだした。

「だから、おまえも一緒に来るんだ」

「おれの専門じゃないよ? 行くのはいいけど、なにすればいいのさ?」

「チャカか、刀、好きなものを貸してやるよ」

「あー、そりゃだめだよー、御繰さん。砂項ってば、運動神経まるで駄目なんだから」

 詩稀がゲラゲラと小馬鹿にした笑い声をあげる。

「あー、でもまぁ、いくわー」

 何か考えて、砂項は脇を見た。

 うっすらと、侍の姿が浮き上がり、うなづいてくる。

 どっちにしろ、殺人鬼のドール・メーカーは、彩葉と陽香を襲っているのだ。

 詩稀をもだ。

 放っていて良い存在ではない。

「ならホラ」

 御繰が、持ってきた鞄からリヴォルバー拳銃を一丁取り出して、砂項の目の前のテーブルに置いた。

 シリンダーの弾を確認した砂項は、ズボンのポケットに入れた。

「あの、あたし達は……」

 彩葉は事態の進み具合に困惑しているようだった。

「ここで待ってればいい。詩稀もな。この子を見ててやってくれ」

 彩葉は固い表情になってうなづいた。

「よし、狩りだぜ、砂項。行こうか」

 御繰は立ち上がった。

「今からか!?」

「そうだよ。ほら、行くぞ」

 御繰は砂項を引っ張るように、家を出た。



「人のいる気配はないですねぇ」

 部下が、アパートの一階にある一室の前で電気メーターを調べつつも、言った。

「ああ、空振りとか無しにしようぜ?」

 御刳は苛立っているようだった。

 二階に上る階段に座り、砂項は時計をみる。

 十時十七分。

「どうします? 中に入ってみますか?」

「馬鹿野郎、ガラ取らなきゃ意味ねぇだろうが!」

 御刳は携帯を取り出した。

 一人、通り向こうに行って、誰かと話している。

 通話を終え、携帯をポケットにしまいながら御刳は苦い表情でもどってきた。

「奴の居場所がわかったぞ。ただ、この人数じゃ、ちょっと面倒だ」

「どこにいるんだい?」

 砂項はなんとはなしに口に出していた。

「イサカ重工って廃工場で、今、紅蓮からの分派、神浄鬼って連中が囲ってる。以前、襲撃を仕掛けたが、見事に撃退されたとさ」

「なんすかそれ……。で、どうするんです?」

 部下たちは困惑げだった。

「……しょうが無いから、正面からいったらどうさ?」

 呑気そうな口調で、砂項は提案する。

「おまえな……沸いたか? いやもう枯れたか。やれるわけねぇだろうが」

「俺が、ドール・メーカーに話があるって、一人で行って、その間、あんたらは勝手にやってれば良い」

 御刳が片方の口角を皮肉げにつり上げた。

「ほー。それは面白いな。言っとくが、おまえの死体の回収なんかしてる暇はねぇぞ、こっちは」

「かまわないよ。あとでちょっと一人、呼んできていいか?」

「どうぞ、ご随意に」

 彼等は、のろのろとしかし、殺気だたせて車に分乗した。



 イカサ重工の跡地は広く、一台に乗って一周りしてみると、所々に明かりがついて、確かに人がいる様子だった。

「ったく、違法占拠だろうが。誰か、通報しろってよ」

 一人、御刳が苛立ちを見せる。

「落ち着けよ。そんなんじゃ、弾もあたならないんじゃないのかい?」

 同じ後部座席の砂項が言うと、御刳はにやりとして、スーツで腰の裏に隠れているベルトをまくってくってみせる。

 そこには、ドスが一本と、手榴弾、拳銃がずらりとぶら下がっていた。 

「別にチャカだけでやろうって訳でもねぇしなぁ」

 むしろ余裕だと言いたげだった。

 車は一端、廃工場から通り三つ分、離れた。

 そこで、砂項は下りて、携帯で相手を呼び出す。

 何やら騒がしかったようだが、話はついたようだった。

 彼等は三十分ほど待たされた。

 やってきたのは、タンクトップにハーフパンツ姿で腰にポーチバックを提げた少女だった。

「なんだよ、詩稀じゃねぇか」

 御刳が複雑な表情で、彼女を迎えた。

「おい、砂項! おまえ鬼畜か!? これから殺るか殺られるかってところに、この子連れ出すなんてよ」

 結局、彼も心配し出したらしい。

「いいのー、御刳さん! あたしだって役にたつんだから、黙って見ててよー!」

「おまえ……何しに行くのか、自覚あるのかよ!?」

「大丈夫、あたし達は、そんな派手な切った張ったはしないから。ほら、あたしがいるもの。ね?」

 御刳はまだ何か言いたそうだったが、砂項に向けた視線には殺気があった。

「おまえ、もし……」

「あー、はいはい、わかってるって。ちゃんと守るから」

「当たり前だ! もし、詩稀になにかあったら、死体になっても、八つ裂きにしてやるからな!」

「へーへー……」

 砂項はそれ以上相手にしないように、背を向けて歩き出した。

 向かう先は、イサカ重工跡地である。

 彼の横には肩に頭が届くかどうかの詩稀が楽しげについてきていた。

「詩稀、伊左衛門は?」

「ああ、あの二人に付いててもらってるよ?」

「ならいい」

 砂項は、うなづいた。

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