紅に染まった戦場に
燃える大地に立つ第3騎士団は、目の前の敵が圧倒的な力を持っていることを痛感した。
熱風が肌を焼き、酸のような唾液が辺りを腐食させていく。兵士たちは皆、手足が震え、第3騎士団を率いる団長も冷や汗を隠しきれない
「人間50年……、下天のうちをくらぶれば……」
第3騎士団の団長であるハジュン・ド・レイは目を閉じ、ゆっくりと槍を振る。槍はすでに刃が欠けており、これ以上は戦えぬと
「ゆめまぼろしのーーー、ごとくうううなりーーー」
ハジュン団長は粘るのはここまでと理解する。熱くなっていた頭を詩を読むことでゆっくりと冷やしていく。ハジュンは騎乗している馬の腹に蹴りを入れ、
「カッツエ!」
「はっ! ここに!」
第3騎士団長の補佐官であるカッツエ・マルベールは馬上から降りて、
彼の
「
カッツエは、ハジュンの言葉を聞いた瞬間、心臓が冷たく凍りつくのを感じた。
「是非も無し!」
「ただちに、この地で粘る者たちを集め直せ! 自分は先に退く!」
ハジュンは苦虫を噛み潰したような苦渋の顔に満ちていた。その顔をカッツエに見せずに、すぐさま馬を走らせた。みるみるうちにカッツエから距離が離れていく。
「ハジュン団長、ご無事で!」
カッツエはハジュンを見送った後、残った兵士たちに号令をかける。
「皆の者! 団長が退く時間を稼ぐぞ!」
兵士たちは「逝くときは一緒です!」とカッツエにそう答える。カッツエは彼らの忠誠心に涙が出そうであった。
第3騎士団の団長に「この場に残れ」と言われてしまったのに、それでも気丈に振舞う兵士たち。カッツエはその者たちをひとりでも多く救いたいと思った。
だが、
「まずはひとつ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべた
すると
「続けてふたつ!」
カッツエは
「ぶげろああああ!」
カッツエは異変を感じ、すぐさま蒼いマントを翻して胃液が醸し出す匂いをガードする。
「ぐぬぬぬ。しぶとい!」
固まってしまったカッツエに対して、別の
「おおおおお!」
カッツエは目を見開いた。「間に合わぬ!」とそう思ったときであった。
その
「なぬ!?」
その
その爪は黒く焦げた地面を掘り返す。さらには前のめりに
「もらったあああ!」
カッツエはしめたとばかりに
カッツエは身体全体で呼吸をした。あと何体倒せば、敵は引いてくれるのだと思ってしまう。そんな息も絶え絶えのカッツエに対して、ヒューーー! と感心の色を示す口笛を吹く優男が音も無く現れた。
「さっすが亀割りカッツエ殿ッス!」
「レオンかっ! 何故ここにおる!」
「いやあ、うちの隊長が撤退命令を『撤退援護』と勘違いしたみたいで……。まあお叱りはあとで受けるッス!」
レオンがその場で跳躍してみせる。後ろから
レオンは後ろも見ずにそれを躱してみせる。
しかし、次の瞬間にはその
「不意打ちとはなかなかに知恵が回るッスね。でも、軽業師の後ろを取れるとは思わないことッス!」
レオンは上空へと跳躍すると、空中で一回転してみせた。さらには自分の背中側から襲ってきた
そしてすかさず
「脳みその足りないお前らに刃をごちそうしてやるッス」
突き刺さっただけの
「ぶげろぉぉぉ……」
いくら図体がでかかろうが、脳みそを破壊されれば生物はその動きを止めてしまう。
しかし、
「うおっと! 片方の頭をつぶしてもダメっすか!」
身体をひねり、近くにあった燃え残った木の幹に体当たりをする。
レオンは体勢を崩す。
「よっころせ!」
さらにはそこを支点として身体を大きく振り回した。
「とどめは任せろ!」
カッツエが
「ヒューーー!」
レオンが勢いを保ったまま両手を離す。大道芸人もほれ込むような空中3回転を決めて着地してみせる。
レオンのすごいところは空中で回転している最中に
「ナイス連携ッス。カッツエ殿、まだまだ元気じゃないッスか!」
「抜かせ! 年寄りに楽をさせんかっ!」
レオンに軽口を叩かれたカッツエが呼吸を整えていた。彼の顔には疲労が色濃く映っている。
顎にたくわえた自慢の虎髯もところどころ焼け焦げていた。顔が煤で真っ黒になりつつあった。そんなカッツエがレオンにそう返事をしたのも納得出来る。
「んじゃ、この場は俺がなんとかするッス。この借りは酒場で返してもらうとするッス」
あくまでもレオンは軽口を止めなかった。だがその声は震えていた。いつもの余裕が少し欠け始めていた。レオンの変化にこの戦場の苛烈さを物語っていた。
「うむ。必ずこの死地を生き延びようぞ。貸しっぱなしにするでないぞ!」
カッツエはこの場はレオンに任せたとばかりに兵士をまとめはじめる。身体に傷を負っていない兵士など、誰一人いない状態であった。
各々で肩を貸しつつ、カッツエの後に続く兵士たちでった。
「カッツエさんこそ、約束を違えないでくださいよ……」
カッツエが激を飛ばしながら、兵士たちと共に下がっていく。カッツエを見送りながら、レオンはひとり奮闘していた。
「喰らいやがれッス!
レオンが着地しようとしたところを口から生える牙で貫いてやろうと別の
レオンはさらに身を翻して、その牙を両手で掴んでみせる。
「うへぇ、いやな感触っス!」
ヌルっとした嫌な感触を手で感じ取る。レオンは手をわざとすべらせて、
「しっかしすげえ数ッスね……。こりゃさすがに俺っちでも捌ききれないっスわ」
レオンは右手を懐に入れる。残りの
カッツエとその周りを固める兵士たちを取り囲む
いつもひょうひょうとしているレオンはさすがに汗が額から流れ出していた。
嫌でも緊張感で身体が硬くなってきてしまう。
この残された2本の