サイガ村の住民は第10機動部隊の面々に勇気をもらっている最中であった。
村の復興を第10機動部隊が手伝っている。
家が破壊されて落ち込んでいる村人がいれば、声をかけて励ます。廃材の運搬の手伝いを買って出る。怪我をした村人がいれば精力的に治療を
恐怖に支配された村人たちであったが、彼らから徐々に活力をもらい始めていた。
その中でも特に活躍したのがレオンであった。
「よーーーし、子供たち。おれっちがすごいもん、見せてやるッス!」
レオンは子供たちを集める。その子供たちの前で大道芸をやってみせる。その中でも1番に子供たちが注目したのは綱渡りであった。
「さあ、お代はけっこう! おれっちの華麗なる技を見てくれッス!」
レオンは物見
ピンとロープを張るのではなくゆらゆらと揺れるようにある程度、わざとたるませた。ゆらゆらと揺れるロープの道をレオンが恐る恐る渡る。
「うおぉぉぉっとぉぉぉ!?」
レオンが体勢を崩す。レオンは慌てふためく。ロープの上から落ちてしまいそうになる。
「きゃーーー!」
子供たちから悲鳴があがる。しかしレオンは両足を巧みに動かし、くるんと一回転してロープの上へと戻る。
子供たちがほっと安堵する。レオンがロープの上で仰々しくお辞儀をしてみせる。
「驚かしてごめんッスね!」
それに合わせて子供たちからまばらに拍手が起きる。
(まだまだ盛り上げ足りないッスね。んじゃもうちょっと派手にいかせてもらうッス!)
レオンはまだまだ子供たちに元気が湧いてきていないことをロープの上から察する。子供たちは大人たちに比べて恐怖に対しての反応が薄い。
それは何故かと問われると、恐怖に対する表現力が乏しいからだ。反応が薄いからといって、『反応に鈍い』ということは決してない。
敏感に恐怖に反応できるがそれを『うまく言葉にできない』だけだ。
子供たちはだからこそ、こういう災害にあった時に、大人たちからはそんなにケアをしなくても大丈夫だと見られがちになる。
(幼いころの自分を思い出すッスね……)
レオンは幼いころ、生まれ故郷で水害に襲われた。濁流が故郷へと流れ込み、その姿を一晩で変えた。今のサイガ村のようにだ。あの時は落ち込む大人の前で気丈に振舞った。
あの時の光景が今でも昨日のことのように思い出されてしまう。レオンはそれをふと思い出し、それを無理やり笑顔を作ることで心の片隅に追いやってきた。
そういう経験もあり、今回の蒼き竜がもたらした災害をモロに受けたサイガ村の子供たちの前で大道芸を披露していた。少しでも子供たちのこころをケアするためだ。
「うわあ! すごーーーい!」
「どうやったらそんなことが出来るのおじちゃん!」
子供たちの顔には笑顔が咲いていた。
レオンはロープの上で
「よっほっほ! ほら、ほいほい!」
手で取り零した
足を組み替えて、左足のくるぶし付近でその
「おじちゃん、かっこいい!」
「すごい、すごーーーい!
子供たちからは歓声と拍手が起きていた。作り笑顔ではなく、こころの底からレオンの技の数々に惚れこんで、楽しい! という感情を身体から溢れださせている。
誰も彼もが笑顔になっていた。復興作業を
段々と観客が増えてきた。レオンは気分が乗ってきた。次は火がついた棒をロープの上で自由自在に舞わせてみせようと思うようになった。
(へへへ。盛り上がってきたッスね。ちょっと待ってろッス。こんどは綱の上でファイヤーダンスしてみせるッスよ! って、あれは……)
レオンはその準備をしている時であった。目の端にマリー隊長に話しかけられているクロードがいる。
クロードがぽりぽりと頭を掻いている。そんなクロードの腕を引っ張って、彼をどこかへと連れて行っていく。その中にコッシローもいた。
(ん? なんか変なやつが混ざっているッス)
こっそりと逢瀬を楽しむのであれば、ああ言えばこう言うで返してくるコッシローみたいなのは邪魔で仕方ないはずだ。
しかしながら、彼女らの雰囲気から察するに何か大事なことを話し合うのであろう。
(まあ、あとで聞き出せばいいっす)
レオンはそう思うや否や、自分に注目している子供たちに向かって、次の演目を堂々と告げる。
「お次はファイヤーダンス! うまくいったら、どうぞ盛大な拍手を!」
子供たちはまたもや戸惑う表情となる。その戸惑いを歓声に変えてこその大道芸だ。レオンは火がついた松明を手に1本づつもって、恐る恐るロープを渡っていく。
◆ ◆ ◆
レオンが大道芸を披露している場所からどんどん遠くへと連れられて行くクロードであった。
村の喧噪の中心から離れていく。村人たちがあげる歓声も小さくなっていく。
それでもマリーは立ち止まることはなかった。
「話って……。いますぐにじゃないとダメなのか?」
クロードはマリーに腕を引っ張られながら、そう問う。
村の復興となれば力仕事が当然のように必要となる。そして、力仕事といえばクロードだ。
大事な戦力を現場から引き抜いたマリーにクロードは疑問を呈す。
「今のうちに話しておかないと、ずるずる後になるって思ってね。ほらこんな情勢だから」
「その通りでッチュウ。大事な話をしようとするほど、どこからともなく邪魔が入るッチュウ。ほら、このように」
「な、なんや!? わい、お邪魔やったんか!?」
クロードたちはたまたまであるが、道すがらヨンと出会う。ほらさっそくお邪魔虫がやってきたといわんばかりの表情となっているマリーとコッシローだ。
ヨンが慌てふためいている。クロードは右手でぼりぼりと自分の後頭部を掻く。
「なんか話したいことがあるってことでさ」
「ふーん。コッシローくんが一緒ということは何か裏がありそうやな!」
「まあ、そんなところだと思う。マリー。ヨンさんも一緒じゃダメなのか?」
マリーの顔にはどうしよう……という感情が読み取れた。この様子から言って、マリーは自分にまず1番に伝えておきたいというのが理解できた。
そんなマリーを気遣って、ヨンに丁重に断りを入れる。
「ヨン。すまないけど、とても大事な話みたいだ」
「そっか。わいがいると話が脱線してまうってことやな!」
「そういうことっチュウ。ヨンや皆にはあとでちゃんと言うからここは大人しく身を引いてくれッチュウ」
「あいよ! んじゃ、わいは怪我人の治療に戻るわ。クロードくん。わいもおるさかい、ひとりでまた抱え込まないようにな! ほなさいなら!」
ヨンはそれ以上、何も言わずにその場から去っていく。いつものヨンならもっと食い下がるはずなのだが、やはりここはコッシローの存在が大きかったと言えよう。
ヨンは今は追及することはないと言いたげな背中であった。
朴念仁のクロードもようやく、マリーがとても大切なことを自分に告げようとしていることを肌で理解する。
◆ ◆ ◆
ヨンと別れた後、3人はサイガ村で1番に見晴らしが良い場所へとやってきていた。
その場所からはサイガ村の外に広がっている花畑が一望できた。
クロードはこの場所に連れてこられたことで、この花畑が関係あるのだろうと察した。それゆえにクロードから先に言葉を発した。
「んで。わざわざここを選んだってことは、マリーとあそこに広がっている花畑が関係してるってことだな?」
クロードの問いかけにマリーはこくりと頷く。彼女の顔には迷いと不安が浮かんでいた。こちらの腕を引っ張った時はマリーの顔には決意が現れていた。
だが、ここにやってきた今は違う顔を見せている。
「大丈夫だ。俺がなんとかする」
クロードはマリーのこころの負担を軽くするべく、優しい声で言った。
「ちがう……。あたしが言いたいのはそうじゃない……」
余計にマリーの顔には不安の色が濃くなってしまった。クロードは「俺なにか間違ったか?」という顔つきになる。
「クロードのドアホ!」
戸惑い顔になっていたクロードはいきなり左頬に蹴りを入れられてしまう。
コッシローは先ほどまでマリーに抱きかかえられていた。その場から跳躍し、身体をひねる。さらに回転力をも利用して、間抜け面のクロードの左頬に回し蹴りを喰らわせてきた。
クロードは面喰らいながら、尻もちをつく。何故、俺がコッシローに蹴られなければならないのかと呆けた顔になってしまう。
「お前のそういうところがマリーちゃんを追い詰めてるのでッチュウ!」
「なん……で。なんだよ! 俺が悪いのかよ!」
「そうでッチュウ。お前に今からマリーちゃんの今の状態を話す。そして、お前は全てを背負う。それをマリーちゃんが望んでいると思いこむ。違うッチュウ?」
クロードは白い大ネズミに全てを言い当てられた。ジンジンと左頬が痛む。クロードはコッシローにやられっぱなし、言われぱなしになった。
そして行動で逆らうどころか、口で反論すら出来ない。それほどまでにコッシローの指摘は的を得ていた。