もう隠れてコソコソ生きていく必要はなくなった。南西部にいる、他の参加者ともども全滅しないといけなくなったわけだしね。終わりだよ終わり。どうせ終わるんだったら俺っちがヒトメサマをぶちのめすのが筋ってもんよ。そうでしょう。んまあ、そうでなくても殺しに行くってさっき言ってたわ。物覚えが悪くて困っちゃうわね。年取るってやだわ。ってホンモノの神様も言ってくれている。ホンモノの神様ってなんだよ。ヒトメサマも、信じる人たちにとってはホンモノの神様なんだろう。きっとそう。俺っちにとっては違うってだけ。そういうこと。
「悪趣味ぃ」
前方に見えますわ。もう「ここにいます!」と全身全霊でアピールしている教会が。あれがあいつの
そうそう。俺っちがまだ右か左のどちらがお茶碗を持つほうで、お箸を持つほうかもわからないころに、ママンと一緒にヒトメサマに会いに行ったことがあった。俺っちからしてみれば? 父親なわけだし? おそらくだけど、俺っちが「パパンに会いたい!」とごねたんだろうな。
いや、行くまでの経緯まで事細かに覚えちゃいないよ。人間の記憶なんてそういうもんでしょ。で、パパンには会えずに、受付の人に門前払いされて、俺っちがガン泣きしてたわけさ。そしたら、あんな感じのクソダサ教会の中から、上下黒っぽい服の
ママンと二人して、もう走って逃げた。追いかけてきてたら恐ろしいからってんで二人とも振り向かずに、そのまま家にリターンした。もう二度と行くまいと誓ったわけ。たまに、体調が悪い時とか、気圧が低い時とか、その女の人が夢に出てくる。トラウマってやつ。トラウマで合ってるっけ。
参加者が見ちゃいけないとは言われてなかったもんで、事前のオーディションやら体力測定やらの様子を各チームごとに編集した動画、開会式の前までに見たんよ。ヒトメサマと同じチームにその女の人がいないかな、と思って。いなかった。別のチームに、記憶と同じぐらいの胸のサイズの女の人がいて、その人は顔の半分を仮面で覆っていた。ひょっとしたらその人があの時の人かもしれない。運命の再会になるかもわからん。ドキドキしちゃうな。
「今度は逃げないようにせんと」
俺っちも? 成長しましたし?
向かいながら、P90を拾い上げた。こいつはグレイトな
「行きますかあ。行っちゃいましょう!」
一人でコールアンドレスポンスをキメて、教会に殴り込む。だって俺っちに味方なんていないんだもの。寂しいけどちかたないでちょ。いつの間にかチームメンバーもいなくなっちまってるしさ。頼りにしてなかったが、いざいなくなると「あいつあんだけ自信満々だったのに俺っちより早く死んでやんの」ププって思うわな。
初っ端から「なんだぁ?」と序盤でやられるモブみたいなセリフを吐いている信者諸君に銃弾をお見舞いする。効果は抜群だ。銃声を聞きつけてわらわらと出てきた参加者たちを次々と撃ち落としていく。最初っから殺す覚悟で出てきてくれないと、俺っちは止められないんで。そこんとこよろしくお頼み申す。
「敵襲だ!」
「逃げろぉおおおお!」
逃げるんかい。どこに逃げるってんだよ。逃げ道を知ってんなら教えてほしいわな。裏口でもあるんか。もしあるんだとしても、そっちから出て行ったところで、この島の安全な場所には行けないってご存知ない?
「あああああああああああああああ!」
おおっと。雄叫びを上げながら手斧を投げてくるやべーやつだ。ホラー映画に出てきそうなモブ。手斧、ぐるんぐるんと回って、俺っちの入ってきた扉に突き刺さる。俺っちは無傷でっす。やべーやつはさっさと無力化しておくに限るので、そいつに対しては狙いを定めて弾丸をシュートした。見事に赤い花を咲かせて倒れてくれる。フォトジェニックだねぇ。
ていうか、思ってたよりも教会の中に人いるな? やっぱ準備しすぎるってことはない。ありとあらゆる可能性を考慮して戦っていくのが、真のツワモノってわけ。
「ヌァああ」
「お前、呪ってや」
「ヒトメサマが、我らを救ってくださる……!」
「お助けくださ」
雑魚どもを一掃した。のかな。何人連れてきてたんだ。信者の方々。信者の方々だけでなく、この島に着いてからヒトメサマの軍門に下っちゃったような人もいるんかな。数えながら撃てばよかった。こういうのってあとから数えるのだるい。
「――あ、これ見ればいいのか」
静かになったところで携帯情報端末を開く。死亡した参加者の名前と死亡させた参加者の名前が出てくる表みたいなものを見た。左側に俺っちの名前、次に使用した武器、死んだ参加者のプレイヤーネーム、キルしました、と淡々と記されていて、こういうところはすんごく〝ゲーム〟なんだなと思ったわね。その人がどういう人間だったかなんてお構いなし。
「こんつぁ」
「うゔぁあ」
びっくりしすぎて携帯情報端末落としちった。壊れたかもしれない。魂の根底に刻み込まれたあのダミ声だ。びっくりするよそりゃあもう。壊れちゃってもいいか。もうじき終わるもん。
「ワタシ、あなた知ってるます。あなたとヒトメサマ、とってもよく似ているです。どうしてわからない」
似ているかなあ。……やばいやばい。ペースに飲み込まれそうになる。カタコトっぽい日本語で、さらに仮面なんかつけちゃっていて、日本人離れしたプロポーションだもんで、つい胸元に目がいってしまうけども、まごうことなき敵。敵でぇーす!
「ヒトメサマを信じますか? 信じませんか?」
ほらー! ほらほら。敬虔な信者さんだよ。こんなところでおしゃべりしている場合じゃあるでんて。
「俺っちは、ヒトメサマの息子であるます。信じるか、信じないかは、アナタ次第」
「ほほん?」
「アナタとは、二十年ぐらい前にお会いしたです。変わらずに
顔の半分を火傷している女性に美うと言うのが、気に障らなきゃいいけど、ついぽろっと言ってしまったものをあとから慌てて訂正するのもよくない。押し通す。――しかし、まあ、なんだ、二十年は経っているのに、あの時と全く年齢変わってないような。そんなわけないじぇりあ。美魔女ってやつ?
「ワタシ、綺麗です? ふふん。ヒトメサマに似ている、あなたに言われると、嬉しいの舞を踊るます。るんるん」
そんなに似てると言われるともにょる。俺っちはそのヒトメサマをこれから殺すんで。
「あなたに耳寄りなインフォメーション、あげるです。ヒトメサマ、この島を出る画策をしてるです」
白い仮面の彼女は、俺っちの携帯情報端末を拾い上げて、地図上の一点をタップした。こっから南側にまっすぐ進んだ、海辺にピンが立てられる。
「ここに船あるです。乗るといいですます」
「俺っちにそれを教えてどうすんの? ……乗れっての?」
こくり、と頷かれた。なんでなんで? まあ、逃げ出すのは、悪い選択肢ではないっていうか生きて帰れるからそれはそれでオーケー牧場なわけでして。この島に残っても死ぬだけだし。うむ。なんでこの人が信者でもない俺っちに教えたのかだけわからん。
「ワタシ、ヒトメサマに助け出されてから、何年? 今年は、何年です? 覚えていないです。ヒトメサマの素晴らしさ、世の中に知れ渡りましたです。ワタシは頑張ったました。あとは、ヒトメサマが頑張ればいいです。しからば」
彼女の足元からぼうっと火の手が上がって、その火が彼女の身体を包み込んだ。どういう
「わ、わぁ」
火の渦はそのうち消えて、彼女の姿もなくなった。タネも仕掛けもない。俺っち、腰を抜かしちゃった。抜かしてる場合じゃないからすぐ立ち上がる。幻でも見たんじゃあないかしら。さっきの女の人は実は狐だったりして。コンコーン。おタヌキ様の次は狐かあ。ヒトメサマにはまいっちゃうな。
【生存 18(+1)】【チーム 10】