「助けてくれ!」
ムツキはオレらの前に躍り出てきたキノコ頭のスニーカーを咄嗟に撃ち抜いた。いい判断だ。少なくともこの場においては。
「ぎゃっ!」
その場に仰向けになり撃たれた右足を両手で掴んで地面をゴロンゴロンと転がるキノコ頭。いい反応だ。見ているぶんには。
「……何なんですか?」
ムツキは冷ややかな声で問いかけた。Cz75の銃口をキノコ頭に向けている。見たところ、キノコ頭は武装していない。殺し合いの参加者というよりは、うっかり巻き込まれてしまって知能戦のデスゲームに組み込まれた一般人Aのような。このウランバナ島に否応なしに無理矢理連れてこられたような参加者はいないはずだ。事前にオーディションや身体能力測定を行い、問題なしと運営側に許可された参加者しかいないのが『ウランバナ島のデスゲーム』だから。
「怪しいなぁー」
キサラギが訝しんで、オレも頷く。オレらに見えないところに武器を隠し持っているんじゃなかろうか。
「手を頭の後ろで組め」
銃を隠し持たれていたとしても、その銃を即座に取り出して撃ってくる危険性を減らす。キノコ頭は素直に従った。反撃の意志はなさそうだ。ああ、オレらは防弾チョッキを着てきているから心臓を狙われても問題ないっちゃ問題ないけど、頭を撃たれたら死ぬ。
「敵に向かって『助けてくれ』とは、どういうことだ?」
「仲間が、タヌキのバケモノに喰われたんだ」
「タヌキのバケモノぉ?」
すっとんきょうな声を出したのはキサラギだ。嘘や冗談の
「信じてないって顔してるな! ほんとだぞ! あっちにいるんだ!」
キノコ頭の必死の訴えに対して、ムツキが「どうする?」とオレにお伺いを立ててくる。タヌキのバケモノ。輸送機に乗り込む前の、開会式にはタヌキのバケモノはいなかった。クマの被り物をした迷彩服の男はいたが、あれをタヌキと見間違うのは無理がある。
「戦う必要なくない?」
ムツキの「どうする?」を、キサラギは「タヌキのバケモノをどうするのか」という問いかけに解釈したらしい。戦う必要があるかというと、ないと思う。もしタヌキのバケモノが参加者だっていうのなら、オレらの優勝のためにはいずれ戦わなければならない敵なのだけど。
「敵討ちに協力してほしいんだ。仲間の無念を晴らせたら、そのあとで自分は脱落する」
キノコ頭はオレらに復讐の片棒を担がせたいらしい。タヌキのバケモノ。この島の土着の生き物――って線はないな。ウランバナ島は今回のデスゲームのために建設されたものだから。そうでないのだとすれば、運営が用意したおじゃまモンスター……ってのも違うか。他の地域で開催されたデスゲームで、そんな話は聞いたことない。あとは、運営ではなく他の参加者が呼び出したパターン。これが一番あり得る。そんな力を持っているんならわざわざデスゲームに参加してくんな。
「それ、あたしたちにメリットある?」
「! ……そ、それは……」
キサラギから図星を指されて言い淀むキノコ頭。
「ないよね?」
「でも、あのバケモノを放置したまんまはまずいですよ!」
オレは十円玉を取り出す。こういうときはコイントスで決めよう。ムツキとキサラギは、どっちかといえばタヌキのバケモノを無視する方向性で考えていそうな気配がする。オレもシカトできるものならシカトしたいが、遅かれ早かれ遭遇するのであれば今のうちに倒しておくのもありだ。なので、運を天に任せる。
「おい、キノコ頭」
「ロンドです」
「表か裏か選べ。当たってたら協力してやってもいい」
「サツキ!」
やはり協力する気がゼロだったムツキが頬をもごもごさせている。また結果の如何にかかわらず人間を撃ちそうだ。
「おもて!」
オレは右手を除ける。当たっていた。表が空を向いている。
「そのタヌキのバケモノはどこにいる?」
「あっち! あっちです!」
キノコ頭改めロンドは撃たれた足を引きずりながら先導する。オレが後ろに続き、ムツキとキサラギの女子二人組は顔にありありと「納得いかない」と書いてあるが、ついてきた。
「あれです!」
しばらく歩き、木陰に身を隠して、ロンドの指さす先を見る。まさしく『タヌキのバケモノ』としか表現しようのないモンスターがいた。あるいは特大サイズの
「マジじゃん」
「……タヌキの、バケモノ」
実物を目の当たりにしての女子二人組の一言。
「どうすれば倒せる?」
「わかりませんけど、相手も生き物なので、ある程度のダメージを与えれば死ぬんじゃないですか?」
「そんなゲームのモンスターみたいな。ロンドの仲間は、応戦しなかったのか?」
「したんですが、倒しきれなくて、そのまま食べられました」
だとすれば与ダメージの問題ではなく、他に攻略法があるのではなかろうか。……何も思いつかないけど。タヌキの苦手なものって何だ?
「気付かれた!」
キサラギがベレッタを構えて、ムツキは「撃つ」と言いながらタヌキのバケモノに発砲する。
「わかった!」
オレもMAC-10を撃ち込む。9mmの銃弾が次から次へとタヌキのバケモノの胴体に突き刺さった。
「びゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
タヌキのバケモノが悲鳴をあげた。おそらく悲鳴だ。傷口から緑色の血を流しながら、こちらにずんずんと向かってくる。
「やられろ!」
「っ! 目が!?」
緑色の血を流す傷口から、新しい
「り、リロードできないっ」
「あれぇ!?」
タヌキの新たな
「おいっ! ロンド!」
オレらよりも前を歩いていたロンドは、オレらが銃を撃ち始めてからはオレらの後方に身を引いている。武器を持っていないロンドが前に立っていても邪魔でしかないから、自ら下がったものと
「みんな喰われてしまえ」
地獄へ落ちろ!