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【Roster No.1@ウランバナ島南西部】

 お嬢様は見つからない。

 墜とされるようにして先に戦地に降り立ったはず……。


 携帯情報端末は何も役に立たなかった。使えない。地図上に表示されるはずの、自分のチームメンバーの位置が出てこない。それでいて、死亡した参加者のリストの、最初に、お嬢様の名前がある。


 が、わたしたちは信じない。

 お嬢様の姿を発見するまでは。


「あれは、いったい……?」


 言葉を失う。

 お嬢様とは似ても似付かぬ、とても大きな――輸送トラックぐらいの大きさのタヌキがのっしのっしと歩いている。

 なんと面妖な。

 進行方向には、若い男女がいる。彼らはタヌキに銃口を向けて、倒さんとしていた。わたしたちも加勢したほうがいいだろうか。エーとビーに目配せする。


「様子を見よう」


 そうなった。

 わたしたちは陰から、彼らが一斉砲撃を仕掛けるのを見学する。タヌキは銃弾を受けると、銃創じゅうそうから新しい目を生やした。


「ピャああああああ」


 異常な鳴き声に耳を塞ぐ。彼らは怯まずに撃ち続けるが、弾切れを起こしたようで徐々に銃弾の勢いが弱まってきた。やがてタヌキは身を震わせて、彼らに向かって突進していく。


 なぜか、彼らは動かない。

 仲間が頭から飲み込まれようとも、その場から逃げ出さない。


「なぜだ……?」


 てんでわからない。この島に人間よりも大きな、怪物としてのタヌキがいること自体が不可思議で仕方ないが、わたしたちの目の前で起こっている現実は、現実として受け入れるほかない。また一人、また一人とタヌキが飲み込んでいく。


「わたしたちが戦うのは人間だ。あんな怪物ではない」


 いよいよ最後の一人が喰われようとしている。わたしたちは見ていることしかできない。参加者でありながら、視聴者の一部となったような心持ちで見ている。


「参加者が減ってくれるなら、万々歳じゃないか」

「そう、ですが」


 そこに一人の男が現れた。タヌキの凶行に気付いていないわけがないだろうに。


「命知らずが増えた……?」


 その男は、右手にを持っていた。男は最後の一人を助けに、……来たのではないらしい。特に助ける様子はなく、むしろその一人を盾にするようにして立っている。


「くきゃきゃきゃきゃ!」


 タヌキは大笑いした。そして、アゴが外れそうなほど大口を開けて、最後の一人をまた頭から飲み込もうと飛びつく。


 と同時に、後ろに隠れていた男が飛び退いて、右手に持っていたサイドミラーをタヌキに向けた。


「!?」


 。最後の一人を足まで飲み込んで、地面に鼻先を突き立てた形になった。


「え、ええ?」

「なんだ……?」


 困惑するわたしたちの前で、男はサイドミラーをタヌキにぶん投げる。タヌキの反応はない。叫び声も鳴き声もなく、逆さまになったタヌキのが完成した。ようだった。



【生存 47(+1)】【チーム 17】



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