この、学校を模した建物の屋上に敵がいる、ような気がしている。
「ガン待ちかよ……」
ナイトハルトはここに辿り着くまでに拾い集めたアイテムをごっそりと入れたバックパックを漁る。脇の方に入れていたはずの、携帯情報端末がどこにも見当たらない。バギーで追いかけ回したバイクは見失ってしまうし、二手に分かれて挟み撃ちにする予定であった姫りんごの現在位置も確認できない。どうにもこうにもうまくいかないものである。
「やるか」
もとよりチーム戦ではなく、単身で戦おうとしていたのだ。仲間の助けを求めるべきではない。――銃撃戦のさなか、トランシーバー越しに、その
<<シエラ は 爆撃 により 死亡しました>>
携帯情報端末では死亡ログが流れた。正式な発表では、爆撃によるものとされている。
バックパックの中から見つけたスタングレネードを片手に握ると、屋上の扉を少し開けて、扉の向こう側へと放り投げた。キィン、という音とともに閃光が走って、屋上までナイトハルトが上がってくるのを今か今かと待っていた17番チームの視界を奪う。
「死ねっ!」
M416をフルオートで撃ちつつKnightHaltが吠えた。5.56mmの銃弾はヘルメットを砕き、階段の上で待ち伏せていた2人の頭部を貫いていく。
<<ナイトハルト は HK416 によるヘッドショットで チョコ を キル しました>>
<<ナイトハルト は HK416 によるヘッドショットで バニラ を キル しました>>
見事な制圧のように見えるが、あと1人、ナイトハルトが今しがた頭を吹っ飛ばした2人とは向かい合うような位置に長髪の女性――17番チームの最後の生き残り、ミントは伏せていた。ナイトハルトの死角となる背後を取っている。ミントはまぶしい光によって失われた視界を取り戻すと、すぐさま上下二連散弾銃を構え、その一撃でナイトハルトを吹き飛ばさんとした。
(当たれっ!)
引き金に指をかけ、ダンッダァン! という攻撃的な音と12ゲージの弾丸が2発分撃ち放たれる。しかしその弾丸はナイトハルトへ命中せず、屋上の壁にめり込んだ。代わりにミントの首には遠方から飛んできた7.62mmの銃弾が突き刺さる。
(当たんないかあ! そっかあ!)
ナイトハルトがHK416をリロードしつつ、その身をさっと反転させた瞬間。パァーンという軽い音とともにモシンナガンから発射された銃弾が、ミントの心臓に着弾していた。
<<ルビー は モシンナガン で ミント を キル しました>>
キルログが携帯情報端末の画面上に表示される。
「つまんねーことしやがって」
いったいどこの誰が横やりを入れてきたのかと、その選手名をキルログを確認しようとするも携帯情報端末がないのだった。ちなみにナイトハルトは振り落とされないようにバギーにしがみついていたせいで気付いていないのだが、廃校までの道のりで携帯情報端末を落としてしまっている。諦めたナイトハルトは「ま、いいか」とミントの携帯情報端末と弾薬を回収しようと死体に近付いていく。
「あっ! こんなところに居たんですね!」
ナイトハルトはHK416を構えつつ後ろを振り返る。銃口の先にはショートカットで色白の少女――姫りんごが立っていた。今の今までどこへ行っていたのか、その背中にはバックパックとともにクロスボウが背負われている。
「なんだそのネタ武器」
チームメンバーの姫りんごだとわかると安心したのか、銃口を向けていたHK416は担いで、クロスボウを指差す。姫りんごは「クロスボウはネタ武器じゃないですよ! んもう!」とムキになって言い返す。スコープが取り付けられてはいるがはたして実戦で役に立つのだろうか。リロードに時間がかかる。撃ち合いには向かない。双眼鏡の代わりにしかならない可能性すらある。
「というかナイトハルトさんはキルログ見てないんですか」
自分の携帯情報端末をなくしてしまっただなんて素直に言ったら、バカにされるに違いない。ナイトハルトは「交戦中だったし見てねえよ」とごまかす。
「シエラさんが〝危険区域〟の爆撃で亡くなりました」
沈痛な面持ちで事実を伝える姫りんごに対し、ナイトハルトは「あのババアそんなので死んだのかよ、だっせえ。避けろよそれぐらいよ」と鼻で笑った。バニラが持っていたMini14を拾い上げてしげしげと眺める。シエラの死にはまったく興味のない様子に、姫りんごはやや早口で「ベアーさんも見ましたよね?」と確認する。
『ああ。……でも、シエラちゃんは
トランシーバー越しに答えるベアー。真柄レンはというと、一時的にでも会話が成立していたシエラの死に吐き気を催したらしく
「ナイトハルトさんは悲しくないんですか? わたしたちは仲間じゃないですか!」
姫りんごが訴えるも、ナイトハルトはどこ吹く風かと言わんばかりに無視して、興味の失せたMini14はその場に置く。その近くに落ちていたSAAを懐に忍ばせると、今度はHK416に取り付けていたスコープを覗き込んだ。見つめる先には車が白煙を上げながら走っている。
『仲間か。よくもまあ、……いや、一時的にとはいえ、我々は仲間なのかもしれない』
「なのかもしれない、じゃなくて仲間ですよ! わたしたちは
『そうだぞ内藤クン。聞いているかな?』
ズダダダダダダダダダという連なった銃声がふたりの会話をかき消すかのように鳴り響き、5.56mm弾が射出されていく。エンジン部分に次から次へと着弾して、車は走行不能となった。
【生存 51(+1)】【チーム 19】