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【Roster No.4@ウランバナ島北西部】

 おかしい。


「あのさ」


 と、今は亡き仲間たちに話しかけるような調子で、バイクに話しかけた。答えはない。


 なんだかは、オーディションの頃からあった。その嫌な予感をうまいこと言語化できていない。だから、仲間たちには伝えられずにいて、そのまま本番の今日が訪れてしまった。どういう形でもいい。つっかえてもいいし、噛んじゃってもいい。ボディランゲージでもいいから『ウランバナ島のデスゲーム』に対する違和感を、共有すべきだった。後悔は先に立たず。読んで字の如く、後から悔やまれる。


「やっぱり、おかしい」


 わたしたちのチームと、あちらのチームが降り立った場所が近かった。これがもう不幸の始まりだった。この大会で使用できる武器は家屋の中にばら撒かれているから、いち早く家屋に飛び込んでなんらかの武器を手に入れなけばならない。輸送機内には私物は持ち込めなかった。空港に到着するまで持ち歩いていた手荷物から、スマホに至るまで運営に回収されている。


 代わりに渡されたのがチーム内で連絡の取り合えるトランシーバーと、現在地や地図やルールの確認できる携帯情報端末。これらが当日、開会式の前に配布されることは事前に通達済みだった。わたしはポケットの大きい服を着てきたから、それらを服のポケットにすっぽりと収めることができた。そうでない人は手に握っているしかなくて、周りの人――たぶん、同じチームの人たちだ。他のチームの人たちと仲良くする必要ないから――に相談していたり、人によっては運営スタッフに「カバンだけでも返してもらえないか」とお願いしに行っていた。そういう人たちを運営スタッフは「ルールですので、お返しすることはできません」と断っている様子が観測できた。しょうがなく、手に握ったままの参加となっていたっぽい。


 パラシュートの時はどうしたのか。ポケットに入れている人にせよ、空中で落下させた人がいるかもしれない。わたしたちは、そんなアホなことはしなかったんだけども……。


「ほら、見てよコレ」


 バイクに携帯情報端末の画面を見せる。何か反応が返ってくるわけではない。


 あちらのチームの中に、クマの着ぐるみの頭の部分をかぶった人がいた。輸送機ではいちばん後ろの席に陣取っていたチーム。チーム番号順に座っていたから、Roster No.25のチームだ。


 このチームは開会式が始まる前から悪い意味で目立っていた。運営スタッフに連れ出されそうになっていたり、ケンカしたりしていたから。とりわけあのクマの着ぐるみ、の頭部だ。首から下は迷彩服。他のチームもくすくすと指をさしてネタにしていたが、例に漏れず、わたしたちも「あれ前見えるのかな?」とあざ笑っていた。オーディションや身体能力測定のときにはあんな人いなかった……いたら忘れるはずない。


 頭だけクマはパラシュートで着地すると、その頭の部分を取り外して地面に置く。わたしたちは足を止めてしまった。早く武器を持って戦おう、と事前に話していたにもかかわらず。


 四十代ぐらいのおじさんの素顔が露わになる。もしここがどっかのテーマパークだったら、石でも投げていた。


 クマの頭ん中、内側の部分に取り付けてあったらしい筒状の何かを取り出すと、ピンを抜き、あっけにとられているこちらに向かってぽーんと投げてくる。わたしたちの輪の真ん中にぽとりと落ちて、辺り一帯に煙を撒き散らした。


(そんなのあり???)


 お互いの場所も見えなくなり、声を出そうとしたら煙を吸い込んでしまってゴホゴホと咳き込む。スモークグレネードを持ち込むのはルール違反ではなかろうか。卑怯。ずるい。……確かに手荷物ではない。手荷物ではない……?


 輸送機に乗り込む前にボディーチェックはあった。着ぐるみの中身までは見なかったのか。煙からやっとのことで抜け出したわたしたちを狙うあっちのチームの軍服な女の子。


「死ねッ!」


 女の子の手にはアサルトライフル。こちらはまだ丸腰。銃の取り扱いは、事前に練習してきたけど、フルオートで発射される銃弾の避け方は教わっていない。


 <<ナイトハルト は HK416 で ゴトー を キルしました>>

 <<ナイトハルト は HK416 で ロック を キルしました>>


 一方的な虐殺が始まって、わたしはその場から逃げることを選択した。目と鼻の先にあったバイクに飛び乗って、無我夢中で発進させる。背後から「逃げんな!」と叫ばれた。停まって撃たれてあげるような人はいない。


「まだ禁止エリアはないはずなのに、プレイゾーンの外で死亡しました、ってメッセージが出てきた」


 参加者が減ると、画面上にメッセージが表示される。メッセージが五秒間出てきて、そののち消え、残り人数の表記がマイナス1されるような仕組みだ。このメッセージは蓄積されて、見逃してもあとから確認できるようになっていた。


 Phase1は終わり、Phase2が始まって、このPhase2の終わりには中心部がプレイゾーンではなくなり、立ち入りできなくなる。立ち入ったら“失格”になるから、このウランバナ島にいるやる気満々な参加者がわざわざ入ることもない。つまり、いま、現在の段階では、その『プレイゾーンの外』という場所は存在しないはずだ。


「ルールブックも見たんだよ。そしたら、見覚えのないルールが増えてた」


 携帯情報端末には、ここに来るまでに穴があくほど読んだルールブックを再確認できる機能がある。だいたいの参加者は日本語が読めるので、熟読して来ているだろうからわざわざここまできて改めて読むような人もいない、だろう。わたしは読んだ。


「25番チームを攻撃してはならない、だって」


 そんなのあり???


【生存 82(+1)】【チーム 23】



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