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第十四話『本当のこと』

 ぼくは先輩から全てを訊いた。兄のこと、オミクロン・カルトのこと、大ア・マナ会のこと、そして自分自身のこと。


 以前先輩が言っていた『非霊媒体質』、その正体はぼくに憑りついた悪神が原因であった。あらゆる悪霊の頂点に立つ悪逆非道の神、それ故に他の霊的現象を寄せつけない。糸原 光希の一件、あの時も本当はお札を忘れていなかった。だがぼくの悪神が原因で上手く起動しなかったのだ。結果的にはその悪神に救われたとも言えるが。


 先輩の家にお邪魔するという一大イベントだったにも関わらず、家の内装だとか部屋の中だとかはさっぱり覚えていない。ファンタジーとも思えるような彼女の話をこんがらがった頭で整理しつつ、耳を傾けるのにいっぱいいっぱいだったからだ。


「結局、天照は自害を選んだ。その後は?」


 ぼくらは家を出て、近くの公園で夜風に当たっていた。先輩とシーソーに座り、適当に動かしながら話を続ける。


「第三の世界から来た化け物も程なく渦の中に吸い込まれて、校舎や人は元通りになった。でも、オミクロン・カルトのメンバーや天照は消え、あの事件のことを誰も覚えていない。枝峰も、三久保先生も、そしてあなたも、まるで彼らが初めから存在しなかったみたいにすっかり忘れてしまっていた。歴史そのものが歪められたの」

「でも、先輩だけは覚えてる」


 ぎい、とシーソーから耳障りな金属音が響く。


「何でかな、私だけ何もかも覚えてた。あれからまだ一か月しか経ってない。最初は動揺したけど、すぐに天照の言葉を思い出した。あなたを頼む、って――だから私は今までと変わらず壬生坂 晴であり続けた。彼から受け継いだゴーストヘルパ―の名は、初めから私のものであったかのように振舞ってきた。でも正直、天照の器には程遠いと思う」


 先輩はシーソーを下り、夜空を見上げた。満天の星空だ、もしもこの話がなければ、なんて美しい景色だろうと感嘆し、先輩と過ごす時間を無邪気に楽しんでいたかもしれない。けれど、ぼくはもう知ってしまった、後戻りはできない。


 先輩、と呼びかける。彼女は空を見上げたまま、何、とか細い声で答えた。


「ぼくは、兄のことを何て呼んでましたか?」

「――っ」

「知っておきたいんです、兄に関する全てを。恐怖に駆られてまともに向き合わず、そして最後には記憶までさっぱり失ってハイ解決、なんてぼくは嫌です」


 ――嗚咽が聞こえる。酷なことを言ったかもしれない、でも、忘れるよりははるかにマシだと思う。それにいつまでも先輩一人で抱えていたら、いつか爆発しておかしくなってしまうかもしれない。からかい好きでイカれてるなんていよいよ救えない、からかい好きだけで充分だ。


 美しい夜空の下、ぼくらは哀しみを分かち合った。先輩しか覚えていない人達の話をした。それはとてもロマンチックとは言いづらくて、本当はもっと頼れる男感を出した方が良かったのかもしれないし、全て忘れた方が先輩のためだときっぱり言い放った方が良かったのかもしれない。


 でも、今はこれでいい気がした。



⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯『本当のこと』了

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