何かが頭の奥に突き刺さる気配がして、サロメは思わず目を開けた。
ベッドに横たわっているということは、眠っていたのだろうか。あの、怒濤のように襲って来た罵倒は、夢だったのだろうか。
どこか意識が朦朧としていた。
「やっと、気がついたみたいね。全く、気付け薬が、なかなか効かないから、伯爵に大目玉くらったわよ!」
幾つもの気付け薬を試したのだと、ヘロデアが、鬱陶しそうに肩をすくめている。
意識が、朦朧としているのは、そのせいなのだろう。
「ここは……?」
あきらかに、自分の部屋とは異なる場所だった。
「マダムの部屋よ。今日から、あなたが、この館のマダムだから。伯爵のお言い付け」
ぞんざいな口振りの、ヘロデアにサロメは、違和感を覚えつつも、部屋をぐるりと見渡した。
「あー、死体は、片隅けた。汚れた絨毯も入れ換えた。その間、あなたは、伯爵に見守られながら、おねんね。お気楽なものね」
「伯爵は……」
「あいつを、
館に集まっていた客も、伯爵の一声で、帰って行ったと、ヘロデアは言う。
(伯爵は、穏便に済ませるつもりね。それを、この
先ほどから、鼻につく、ヘロデアの態度は、伯爵に見限られたからだろうか。
思うに、何かしら甘い囁きを真に受けたヘロデアは、伯爵に身を任せた。いや、自身の野心を任せてしまったのだろう。
(そうか。多分、そうだわ!犯人は……。ヘロデアに違いない。)
サロメの女の勘が、そう言っていた。
仲間を殺したのも、マダムを殺したのも、すべて、ヘロデアの仕業だと──。
自らの意思なのか、伯爵に命じられての事なのか、そこまでは、わからない。
けれど、サロメにとっては、それで十分だった。ヨカナーンが、犯人でないと確信できたから。
マダムは、気分が悪いと、いつもの薬を用意するよう、ヘロデアに言い付けた。先に、マダムの部屋へ向かったヘロデアには、水差しの水に、ワインに、マダムが口にするであろう、飲み物全てに、毒を盛ることができた。
頃合いを見計らって、マダムの部屋へ行き、叫び声を挙げる。
腰を抜かした振りをして、床に座り込んだのは、
マダムは、毒によって息絶えた。凶器と呼べる物は、何一つ、使われていない。だから、
床の敷物の下に、凶器を隠し、見せつけたのは、あたかも、と、皆を煽る為だろう。
そして……。
ヨカナーンが、あんな手入れが悪い刃を持つことなど、あり得ない──。
村にいる時、ヨカナーンは、木切れを使い、小刀でよく笛を作っていた。
彼は常に、小刀の手入れをしていた。怠ると、笛が作れないと言って……。
だから、ヨカナーンが、手入れの悪い曇った刃を持つことなど、ありえないのだ。
ヘロデアが皆に、見せつけた刃物の手入れは、ぞんざい過ぎた。まるで、使いなれていない