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第6話

広間では、弦楽器の調べがひそやかに流れていた。


長椅子に座りくつろぐ男女は、歓談し、そして、耳打ちすると、一組、また、一組と消えて行く……。


「ああ、なんだか、今夜は、気分が悪いわ。へロデア、いつもの薬を用意してちょうだい」


へロデアは、小さくお辞儀をすると、姿を消した。


「おや、マダム、どうした?我がしもべヨカナーンに、部屋まで送らせようか?」


「ああ、伯爵。ご心配なく。でも……たまには、それも、良いかもしれませんね」


「ああ、たまにはな」


マダムへ意味深な笑みを送ると、伯爵は、広間の片隅で竪琴キタラをつま弾いていたヨカナーンに声をかける。


命じられるままに、ヨカナーンは、マダムと共に部屋へ向かった。


「さて、一人になってしまった私は、どうしよう?サロメ?」


サロメは胸の内でため息をつく。今宵の相手は、伯爵なのだと──。


しかし、マダムのパトロンでもある男。下手な動きをすれば、マダムの逆輪に触れるだろう。


でも、マダムは……。


ヨカナーンと抱き合うマダムの姿、そして、その先を考えてしまい、サロメの心はなぜか、乱れた。


「マダムのご様子が、心配ですわ」


「ああ、近頃、妙な事が起きているだろう? 心労がたたっているのかもしれないね」


──この男、伯爵は、違う。


マダムに、事を、任せきる姿勢からは、館の女を手にかける素振りは伺えなかった。どうゆう理由であれ、女が減るということは、伯爵自身も、打撃を受ける事になる。


そう、マダムから、受け取っているであろう分け前が減るのだから。


殺された女達は、売れっ子ばかりだった。


それが、三人も、いなくなったのだ。皆、高官達のお気に入りだった。どの様な言い訳を用意しようと、いない者は、仕方ないと客足は遠のく。自然、売上へ響き、伯爵への戻りも、減ってしまう。


──伯爵が、月……なのか。


マダムをヨカナーンに相手させ、サロメを指名するということは、伯爵は、今夜は館に泊まるつもりなのだ。


いつも、マダムと、雑談し、部屋で遊びに興じた後は、すぐに帰っていた。


その時を狙うかのように、惨事は起きている。


(……だから、ヨカナーンは、言ったのね。)


伯爵に正体がバレてしまっては、何人たりとも、この裏社会では、生きていけない……。


生暖かい口づけが、サロメの手の甲に落ちる。


気がつけば、広間には、伯爵と、サロメの二人きりになっていた。


「別に、君の部屋で無くてもかまわないが?むしろ、ここの方が、私の好みだ。サロメよ、私の為に、あの舞いのような、官能を見せてくれるかい?」


「仰せのままに」


逆らうことは、出来ない。これが、サロメの役割だから──。


伯爵の固く薄い唇が、サロメの魅惑的な柔らかな唇に重なった時、ヘロデアの叫び声が館に響き渡った。

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