広間では、弦楽器の調べが
長椅子に座りくつろぐ男女は、歓談し、そして、耳打ちすると、一組、また、一組と消えて行く……。
「ああ、なんだか、今夜は、気分が悪いわ。へロデア、いつもの薬を用意してちょうだい」
へロデアは、小さくお辞儀をすると、姿を消した。
「おや、マダム、どうした?我が
「ああ、伯爵。ご心配なく。でも……たまには、それも、良いかもしれませんね」
「ああ、たまにはな」
マダムへ意味深な笑みを送ると、伯爵は、広間の片隅で
命じられるままに、ヨカナーンは、マダムと共に部屋へ向かった。
「さて、一人になってしまった私は、どうしよう?サロメ?」
サロメは胸の内でため息をつく。今宵の相手は、伯爵なのだと──。
しかし、マダムのパトロンでもある男。下手な動きをすれば、マダムの逆輪に触れるだろう。
でも、マダムは……。
ヨカナーンと抱き合うマダムの姿、そして、その先を考えてしまい、サロメの心はなぜか、乱れた。
「マダムのご様子が、心配ですわ」
「ああ、近頃、妙な事が起きているだろう? 心労がたたっているのかもしれないね」
──この男、伯爵は、違う。
マダムに、事を、任せきる姿勢からは、館の女を手にかける素振りは伺えなかった。どうゆう理由であれ、女が減るということは、伯爵自身も、打撃を受ける事になる。
そう、マダムから、受け取っているであろう分け前が減るのだから。
殺された女達は、売れっ子ばかりだった。
それが、三人も、いなくなったのだ。皆、高官達のお気に入りだった。どの様な言い訳を用意しようと、いない者は、仕方ないと客足は遠のく。自然、売上へ響き、伯爵への戻りも、減ってしまう。
──伯爵が、月……なのか。
マダムをヨカナーンに相手させ、サロメを指名するということは、伯爵は、今夜は館に泊まるつもりなのだ。
いつも、マダムと、雑談し、部屋で遊びに興じた後は、すぐに帰っていた。
その時を狙うかのように、惨事は起きている。
(……だから、ヨカナーンは、言ったのね。)
伯爵に正体がバレてしまっては、何人たりとも、この裏社会では、生きていけない……。
生暖かい口づけが、サロメの手の甲に落ちる。
気がつけば、広間には、伯爵と、サロメの二人きりになっていた。
「別に、君の部屋で無くてもかまわないが?むしろ、ここの方が、私の好みだ。サロメよ、私の為に、あの舞いのような、官能を見せてくれるかい?」
「仰せのままに」
逆らうことは、出来ない。これが、サロメの役割だから──。
伯爵の固く薄い唇が、サロメの魅惑的な柔らかな唇に重なった時、ヘロデアの叫び声が館に響き渡った。