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第4話

二台の定音鼓ティンパニは、争うように高音を叩きだし、颶風ぐふうのように激しく鳴り渡るシンバルの金属音は、サロメの気分を高揚させるに十分だった。


「七つのヴェールの踊り」は、クライマックスを迎えている。


サロメが、一気に体を反らし、足を蹴りあげると、ヴェールは瞬時に花開いた。


勢い、サロメの足は、太ももまで露になり、そして、身に付けている、ビーズに、コインに、腕輪が、シャラシャラと音を立てる。


揉立もみたてるように鳴り響く演奏と相まって、それは、男達の欲望を駆り立てる。サロメを見る双眸には、色情が浮かんでいた。


そんな、自身に寄せられる視線などお構い無しで、サロメは、更に、身をくゆらせ、ヴェールをたなびかせた。


この中に、犯人は、いる。

仲間を手にかけた者が、いる。


舞いながらも、サロメは、集まっている男達の顔を目に焼き付けようとしていた。


と、ひときわ輝く、エメラルド色の瞳を見つけた。


(ああ、ヨカナーン、来てたのね。)


パトロンの共として、やって来たのだろうか、その男──、貴族に従事る、竪琴キタラ奏者は、小さく口を動かした。


あ と で


男は、サロメにそう伝えて来た。


彼にも、積もる話があるのだろう。


そして、サロメも、館で起こっている事について、知っている事はないか問いたかった。


ゴーンと、銅鑼が鳴る。


これを合図に、最後の仕上げに取りかかる。


定音鼓ティンパニと、シンバルが奏でるリズムは、段段と速度を増して、サロメの動きも、激しくなっていく。


大きく踏み出し、飛び上がる。動きに沿って、ヴェールがなびく。


シャラシャラと、装飾品が、音を立て、サロメの動きを際立てる。


両手は宙を掻き、足先が、小鳩の様に飛び跳ねる。


重ねたヴェールは、夜気と共に広がって、一瞬、サロメの姿を隠してしまう。


そして、再び銅鑼の音──。


床に広がるヴェールと共に、ひれ伏すサロメの姿がある。


舞は、終わった。


一瞬の間の後、広間には、割れんばかりの拍手が沸き起こった。

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