サロメは、出番を待っていた。
広間の隣にある、控え室で、入念に、
胸部には、ビーズとスパンコールで飾られた下着の様なトップスを身に付け、ドレープをたっぷり取ったヴェールを何枚も腰に巻き、コインが垂れる様に縫い止められた腰ベルトで押さえている。
肩から、全身を包み込むように、ヴェールを
すべては、舞った時の、ヴェールの広がりを考えてのこと。動きの自由を効かせる為だった。
本来、身に付ける衣装と呼ぶものは、この舞いの邪魔になりかねず、サロメは、あえて、ヴェールを重ねるだけという、手法を取っていた。
隣の広間から、マダムが客を煽るかの様に物語っている声が流れてきている。
「まあ、さすが、マダムですね。お客様を惹き付けるのが、本当におじょうず!」
ヘロデアが、高揚気味に、マダムを称えた。
(この子は、何も、感じていないのかしら?)
館の下働き、特に、女達の身支度を任せられているヘロデアこそ、誰よりも早く犠牲者を発見しているのに。
横目で、マダムに陶酔するヘロデアを見ながら、サロメは館で起こっている事を思う。
──女は決まって、ベッドの上で、喉元を切り裂かれる。
何一つ、抵抗した形跡がないというのだから、寝込んだ所を襲われているのだろう。
客を見送り、仕事を終えて、気の緩んだ女は何者かに……。
そして、朝の支度の為に、部屋を訪れたヘロデアに、非業の姿を発見される。
ヘロデアが、マダムに、口封じを兼ね、とりこまれているのは、間違いない。事実、館にいる者は、皆、何もなかった様に振る舞う事を強いられていた。
とはいえ、まだ幼さの残る彼女は、本当に、何ともないのだろうか。
訪れた部屋で、いきなり無惨な女の姿を発見し、更には、血みどろのシーツを片付け、何事もなかった部屋に、
作業するヘロデアは、心細さや、愚痴のひとつも、吐き出さない。
それだけ、マダムに買収され、丸めこまれているのだろう。
この場所に引き取られる
「サロメ様!銅鑼が鳴りましたよ!」
ドアの向こうで、男達がサロメを待っている。
ヴェールを軽くはためかせ、足さばきを確認したサロメは、広間へ続くドアへ向かった。