この娼館が、サロンと呼ばれる由縁になった大広間には、あからさまには名前を出せない国の重鎮に、新興貴族に、と、様々な地位に立つ男達が集まっていた。
互いに、初対面の振りをして、グラスを傾けあっているのだが、側では、それぞれ、淑女に挺した娼婦が控えている。
グラスの中で泡立つ
そして、古代の祭壇にみられるような紋章の意匠が刻み込まれた両開きの大扉が開かれて、この館の
いつも通り、マダムは、これ以上ないほど山高に盛られたカツラに青粉を振りかけ、色気の象徴とばかりにパッチ化粧を施している。
「ご機嫌よう、愛しい人」
「麗しの、我がマダム」
「我々の
集まる男達に、お決まりのおべっかを振る舞われ、マダムは笑顔を絶やさない。隣では、こちらも、誰、とは名を呼べない、ただの、伯爵が、パトロン然として、その存在感を発っしていた。
「皆様、
その一声で、皆は、グラスを掲げ乾杯する。
一気に広間は、熱を帯び、マダムが発する次の言葉を待っていた。
「今宵の月は、どうでしょ?まるで、幾重にもヴェールを
ゴォーンと、銅鑼が鳴る。
今宵の余興の始まりを知らせるそれは、特別なものが、待っているのだと男達を震わせた。
──そう、かの舞姫が現れる。
幾重にも、ヴェールを重ね、雲の合間から差し込む、月明かりのような、線の細さとは裏腹に、小鳩が飛び立つかのような大胆で、初々しい、舞い姿──。
「さあ、さあ、まずは、希代の踊り子、サロメの姿をご覧あれ!」