最後の仕上げの紅を引くと、サロメは、鏡に写る自身へ言い聞かせた。
(──いいこと、これは、私にしかできないこと。しっかりするのよ。怖じ気づいては、だめ。)
召し使いのへロデアに言い付けて、今日の装いは、特別に趣向を凝らしていた。
濡れば色の髪には、幾十もの真珠で飾られた飾り櫛が輝きを放ち、結いあげた髪を引き立てている。
へロデアは、櫛に合わせ、二連の真珠の首飾りをサロメに勧めてきたが、今宵の舞いには、合わない。代わりに、細かな意匠が彫りこまれた銀の腕輪を用意するよう言い付けた。
何連も重なる腕輪は、サロメが動くたび、互いにぶつかりあってシャラシャラと音を立てる。
耳障りなそれは、しかし、流れる楽曲に相まって、きっと、サロメの舞いに花を添えることだろう。
「ヘロデア、ヴェールを出してちょうだい」
今日舞うのは、「七つのヴェールの踊り」と呼ばれるもの。
七枚の
七枚全てが上手く広がるように、体を反らせ、足で蹴りあげ、両腕で宙を掻きあげる。
舞い手にとっては、全身を
サロメが、この難題を抱える舞いを選んだのには訳がある。
仲間が殺されたのだ。
この、サロンと称した貴族相手の、高級娼館の自室内で、客の相手をした後に──。
もちろん、その時の客は、容疑を否定した。そして、言い分も正しかった。
女は、客が馬車に乗って帰るのを見送っていた。
わざわざ、殺めるために客が戻って来る事など考えられない。
たかが、
そうしたければ、部屋で、直接手を下し、そして、素知らぬ顔で帰れば良いのだから。
案の定、館を仕切る、
妙な噂が立って客足が離れてしまう事を心配したからだ。
それからも、何人か、同じ様に殺された──。
犯人は、出入りする客に違いない。
館の女達は、次は自分ではないかと、怯えていた。サロメも例外ではなかった。
余興と称して、舞いを観せている彼女は、誰よりも目だっていたからだ。
サロメは、命があるうちに、こっそり逃げ出そうとも考えた。
この世界から足を洗う為に蓄えた
でも……。
仲間を見捨てられない。
自分が舞ったら、客は必ず集まる。犯人を誘きだして、皆の仇を取る──。
サロメは、覚悟を決めるかの様、再び鏡に見入った。