今日も泥のように眠った。起きた時には夕方だった。
明日にはこの街を発つ予定なのに、“呪い”がまたアタシの身体を蝕んでいるのかもしれない。
身体に“冬”が訪れているような自覚がある。コルデーから来ていた“風の便り”にも目覚めることが出来なかった。
目を覚ましたアタシは、今日はとにかく食料を買い込み鞄に詰め込んで、明日の出立に備えた。今晩の夕飯は料理屋で若鶏の胸肉ライスとサイダーを注文した。注文を待っている間に、アタシの元に手紙が届いた。アタシの付けている薬指の指輪を着地点とした転移魔法によって送られてくるこの手紙は、夫からの手紙である。今日は二枚だった。きっと息子からも手紙が送られてきたのだろう。夫や子よりも“楽園”を探すことを選んだ女を、息子はいまだに“母”と仰いでくれている。夫も、早く新しい妻を迎えればいいのに。ちゃんと息子を愛してくれる女を妻に迎えれば、息子もアタシのような女を母と仰ぐことも無いだろうに。
息子を生んでよく分かったが、女は子を産むだけでは“母親”になれない。日々膨れていく腹と、それを愛おしそうに撫でる夫の姿を見ても、アタシはその地に腰を下ろそうとい う気にはなれなかった。腹の子が無事に育つまで、ベッドで横になっていろと言われるのが本当に苦痛だった。悪阻のせいで動けもしなかったが、それでもどこかに行きたくて堪らなかった。
アタシは息子からの手紙を読んだ。覚えたての文字で書いたらしいその手紙は、今年の誕生日にはきっと会えると信じているという旨のことが書かれていた。
誕生日、そういえば三ヶ月後に息子は誕生日を迎える。いつもは転移魔法でプレゼントを贈るのだが、今年はアタシ本人が来ることを所望しているらしい。
夫からの手紙を読もうとしたところで、料理が運ばれてきた。アタシは一先ず料理を食べながら、夫の手紙を読む。
国の運営は上手くいっているということ、こちらの体調に不備は無いということ、息子が会いたがっているということ。それらが手紙に書かれていた。さてなんと返事を出そう。
三ヶ月後に夫の国に行けるかと聞かれれば、今から進路を変えれば可能だろうとしか言えない。それか転移の魔法で誕生日にだけ国を訪れるか。自分の我儘を貫き通している手前、叶えられる願いは叶えてやりたいと思うのはおかしい事ではないだろう。
料理を食べ終え、アタシは宿屋に戻り手紙を書こうとした。しかし何を書いていいかわからず、誕生日には行くということだけは書いて送った。
さて、進路を東に変更しよう。明日は朝早く図書館に行き“楽園”に関しての書物が無いかを調べよう。明日起きられなかったなら、もう“冬”が来たということだ。その時は手早く街を出て街の外に巣籠の拠点を構えなければならない。
明日はきっと忙しい。
それじゃあ、今日はこのへんで。
天に光を。地上には実りを。アナタに祝福を。
この折り鶴が届いた顔も知らないアナタ、おやすみなさい。夢魔に夢を侵されぬよう、祈っておくね。