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2024.9.22

 日記が2日目になった。同時にアタシは今日、【オーミャの街】に着くことが出来た。三日ほど、ここに滞在する予定だ。


 【オーミャの街】は人で賑わっている。アタシのように外から訪れる客が多く居る街のため、大きな荷車を引いている男や遠距離を走る品種の馬に乗って往来を歩いている男も見た。相変わらずの人の営みに、変わってなくて安心した。


 アタシがこの街を訪れたのは、友人に会うためだった。その友人というのが、最近出来た女であり、彼女もアタシと同じ魔法使いである。風の魔法を使う彼女は、今日も少し待ち合わせ時間に遅れている。魔法使いは得てして、時間に無頓着な輩が多い。かく言うアタシも、その括りの中に入っているわけだが。


 「お待たせ〜」と彼女がアタシの目の前に現れた時には、既に約束の時刻から二時間も遅れていた。久しぶりの会遇だというのにこれ如何に。こう思うアタシは心が狭いのだろうか。


 彼女の隣には見知らぬ男性が居た。聴けば恋人だという。彼女にいつの間にか恋人が出来ていたことに驚いたが、それ以上にこの場に連れて来たことに驚いた。


 「聖愛に紹介したかった」と彼女は言った。彼女の名前を書いていなかった。彼女は風の魔女“コルデー”。この【オーミャの街】で一番の魔法使い。


 そんなコルデーは、街を歩くだけでとにかく目立つ。アタシ達は早々にコルデーの自宅に向かった。


 アタシとコルデーの出会いは【約束の丘】という場所だった。アタシはそこで呪いの解除方法を探していて、同じく呪いの解除方法を探していたコルデーとは寝食を共にする仲になった。結局、コルデーは呪いを解くことが出来たがアタシの呪いは掛かったままというオチで落ち着いた。アタシ達は今でも、呪いの解除方法を探している。


 「あれから呪いはどう?」と、紅茶を煎れながらコルデーは訊いた。


 「まだ解除方法が分からない」と、アタシは温かい紅茶を飲んで答えた。


 コルデーとアタシは同じ呪いにかかっていた。日々の中で“冬”と呼ばれる期間が訪れる呪い。“冬”の間、呪いに掛かった者は枯れ木のようになり非常に無防備になる。旅をしているアタシとしては、早く解除しておきたい、煩わしい以外の何物でもない呪いだ。


 「旦那さんとは最近どうなの?」とコルデーは続けて尋ねる。


 「普通だよ」とアタシは答えた。本当は普通の夫婦なんて分からないけれど、そう答えるのが無難で間違えが無いということを長い旅の中で知っていたのだ。


 そういえば、アタシが既婚者であることを書いていなかった。アタシは既婚者である。子供も居る。16の時に産んだから、もう今年で5歳になる。男の子だ。


 夫はある王国の国王であり、息子は第一王位継承者として傅役達に大事に大事に育てられている。アタシと夫が結婚するまでには、それはもう反対された。結婚をしたところで、アタシは旅を辞めないし、その地に根を張ることは出来ない。なにより呪いだって解けていない。それでも夫はアタシを選んだ。


 王妃であるアタシが旅をしていることを、夫は何も言わない。ただ通りがかった時に帰ってくればいいと、それだけ言ってアタシの自由を許す。そうでなければ結婚などしていない。アタシは自分の性分を変えられないのだから。


 「恋をするって幸せだよね」とコルデーは隣で紅茶を飲む恋人を見て話す。


 「そうなんだね」とアタシは答えた。恋をする幸せなど分からなかった。


 それからは他愛も無い話をした。コルデーの恋人とはあまり会話を交わさなかったが、優しそうな男だと思った。コルデーに言わせてみれば「優しすぎる」らしいが。


 夕日が傾く頃に、アタシは三日分の宿泊費を支払った宿屋に引き払うことにした。


 「明日はどうする?」とコルデーは尋ねた。


 「明日考える」とアタシは返した。そして宿屋でこの文章を書いている。


 魔法使いは時間に無頓着と書いたが、アタシもやはり例に漏れないかもしれない。コルデーの返答を考えみれば、アタシは“明日”という時間に相当無頓着である。しかし明日のことは明日にならないと分からないから何も言えない。もしかしたら疲れて一日寝ているかもしれないし、逆に活動的に街の中を散策しているかもしれない。


 とりあえず、図書館には行かなければならない。“楽園”についての書物があれば万々歳。きっと無いが。まぁ明日に期待しよう。


 昨日の日記は誰かの元に届いたのだろうか。その人は折り鶴を開いて中を読んだのだろうか。それとも誰にも読まれることなくゴミ箱に捨てられているのだろうか。そうだったら少し虚しい。だが日記とはそういうものかと、アタシは結論付けた。


 それじゃあ、今日はこのへんで。


 天に光を。地上には実りを。アナタに祝福を。


 この折り鶴が届いた顔も知らないアナタ、おやすみなさい。夢魔に夢を侵されぬよう、祈っておくね。



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