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折鶴日記
梦視侘聖愛
文芸・その他雑文・エッセイ
2024年09月21日
公開日
5,124文字
連載中
“楽園”を探し旅をする少女・聖愛。

そんな彼女がとある老婆から貰った不思議な日記に記した備忘録。

折り鶴にして息を吹き込むと世界に飛んでいく不思議な日記。飛んでいく先は冥府だろうか。

いずれ“楽園”に至るまで、彼女の旅は終わらない。

2024.9.21

 この“日記帳”と名のつくものを、先頭のページから最後のページまで文字で埋めることが出来た人間は果たしてどのくらいいるのだろう。少なくともアタシは、最初にこの冊子を見た時にとてもそれは難しいことだと感じた。三日坊主な自覚はあるし、なにより生活が不安定だからルーティンを組むことが出来ないからだ。


 アタシが日記帳を手に入れた経緯を簡単に話そう。といってもなんてことない、行商人が魔物に襲われているのを発見したから助けてやったら、お礼として貰ったのだ。「お嬢さんぐらいの年頃の方に今流行っている品物です」と。


 アタシは“お嬢さん”と呼ばれたことに少し憤りを感じたりもした。だってアタシもう21歳なのに。“お嬢さん”なんてまるで子供みたいな呼び方。まぁいいや。


 この日記は少し特殊で、書いたページで折り鶴を折ってそれを空に放つのだという。それが誰かの元に届き、誰かが読んで、また折り鶴にして空に放ちまた誰かの目に触れる。そんな“ロマンティック”があるから、人気な品なのだという。


 さてここまでを読んだ見ず知らずのアナタ、はじめまして。


 まずは自己紹介をすべきかな? アタシは梦視侘聖愛。『ゆめみた・まりあ』って読む。


 こういう時、何を書くのかな。自己紹介をするのは本当に苦手なの、アタシ。


 アタシは今、旅をしている。春を駆け夏を歌い秋に踊り冬に微睡むそんな旅、なんてね。実際はただひたすらに旅をしているだけ。町娘が思い描くようなロマンスも何も無い。


 基本昼間はアタシの馬で整備されていない森を駆け抜けて、夜になったらテントを張り眠り、その繰り返し。街があれば立ち寄って、そんな旅。『地味な旅』と言われたこともあるよ。だが旅とは得てしてそういうものだと思ってる。


 アタシは“楽園”を探してる。“楽園”に、帰らなくちゃいけない。でも“楽園”がどんな場所なのか、どこにあるのかも知らない。


 それでも眠る度に歌が聞こえる。“帰ろう”ってアタシに呼びかける歌が。だからアタシは旅を続ける。いずれ“楽園”にいたるまで、きっとこの旅は終わらない。


 とりあえず毎日何かを書くことを目標にしようと思う。でも移動してばかりの旅で、一日馬に乗っている日もあるから書くことはそんなにあるのかな。無かったら何かを考えるよ。


 そろそろ日付が変わる。この時計の針一本で“明日”がやって来て“今日”が“昨日”に変わる。そう考えると、この時計の針は本当にすごいと思う。


 それじゃあ、今日はこのへんで。


 天に光を。地上には実りを。アナタに祝福を。


 この折り鶴が届いた顔も知らないアナタ、おやすみなさい。夢魔に夢を侵されぬよう、祈っておくね。

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