――よしつぐくん、どこいったの。
右を見ても左を見ても、あるのは細い枝ばかりだ。見上げれば、林冠が遠くに見える。隙間から陽光は差し込むが、幼い足元を照らす明かりは朧ろで覚束ない。もうすぐ、夜が来てしまう。
足を撫でる枝を払い、べそをかきながら来た道を戻る。とにかく下へ向かえばいいと思ったのに、道は途中から上り坂になっていた。
もっと、したにいかなくちゃ。
焦る足が湿った枯れ葉の上で滑り、軽い体が斜面で弾む。反射的に体を縮めて目を瞑り、転がりながら胸で母を呼んだ。
どれくらい経ったのか、目を覚ますと真っ暗で、自分の手さえ見えなくなっていた。体は痛いし、怖いし、耳を澄ましても虫の声しか聞こえない。
堪えきれず、泣きじゃくりながら繰り返し母を呼ぶ。おかあさん、おかあさん、と震える自分の声に余計悲しくなって泣いていると、不意に「おかぁ……さん」と近くで聞こえた。
びくりとして泣くのを止め、洟を啜る。真っ暗で何も見えないのに、近くに何かがいるのが分かった。
――おかぁ……さん、おかぁさん。おかぁさ……ん。
一つだった声はすぐに二つ三つと増えていき、私を取り囲んで回り始めた。少しずつ近づく枯れ葉や枝を踏む音に、震える膝を抱えて小さくなる。
やがて何かは触れるほど近くまで迫る。嗄れた声の「おかぁさん」が聞こえて、生温かい何かが背中に。