目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
清き祈り
魚崎 依知子
ホラー怪談
2024年09月21日
公開日
122,388文字
完結
県庁職員の祈(いのり)は、結婚二年目。
投資家の夫、吉継(よしつぐ)は同じ町で産まれた幼なじみで、目下悩みの種でもある。
幼い頃からの夢を諦めてポスドクの職を辞め「自分探し」に没頭した結果、整骨院を経営する寺本(てらもと)の教えに心酔するようになってしまったのだ。
寺本が作り上げたBRPと呼ばれるメソッドは、脳に刷り込まれている成功を阻む思考回路を成功に繋がるものに書き換えてくれる、らしいのだが――

第1話

 色を変えたヨーグルトを掻き分け、沈めていた鹿肉を取り出す。最初がロース、次がバラ、最後がモモ。既に加工場で一度血抜きをされているが、家でも一晩ヨーグルトに漬け込む。この一手間で、獣肉独特の臭みがすっきりと抜けるのだ。

 残ったヨーグルトをキッチンペーパーで拭い、白っぽくなった表面に鼻を近づける。嗅ぎ取れた爽やかな酸味に頷いて、まな板へ移した。

 ロースはステーキ用のブロックに、バラとモモは薄切りにする。研がれたばかりの牛刀を差し込むと、ロースは少しの抵抗を残しつつ分かたれて赤い色を見せた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?