二日目、早朝。
いつの間にか寝入っていた
健やかな寝息を立てている純汰を横目にしながら、景梧は静かに息を吐く。
(はぁ……本当に肝が据わってるガキだぜ。ちっ……)
ここに煙草があれば口寂しさも紛らわせられたのだが、生憎ないため仕方なく腰にぶら下げているポーチに手を伸ばし、中に入っている水筒から水を口に含んだ。
このポーチは、甲冑とともに支給されたものでサバイバルバッグのような役割を持っているのだと、モノロエから最初に説明されていた。
(そういや、このガキと出会ってからモノロエとろくに話してねぇが……なにか意図が?)
話しかけてみようか悩んで……景梧はやめた。またしても
「うぅ……うっ! はっ!」
純汰が声をあげて目を覚ます。それに視線をやりながら、景梧は静かにまた水を一口含む。
しばらく目を瞬かせた後、純汰は景梧に視線をやり、ゆっくり口を開いた。
「あ……おはようございます。お兄さんは寝られましたか?」
「あぁ、おかげ様でいびきを聞かされながら
その言葉を聞いた純汰は、しばらくボーっとした後欠伸をする。
「ふぁ……それなら良かった? です?」
呑気な彼から視線を逸らすと、景梧は立ち上がる。
「どうされました?」
「……そろそろ行くぞ。ここに長いは無用だ」
「えっ……あ、はい……」
まだ寝ぼけ眼な純汰を連れて景梧はゆっくりと慎重に扉を開け、廊下に出た。
静かで荘厳な廊下を二人は歩く。会話は特になく、ただひたすら警戒しながら前進する。だが――。
「……妙だな?」
景梧がなにかを睨みつけるかのように、静かに呟いた。その声に純汰が反応する。
「どうされました?」
「考え無しのお花畑君、あのな? こんだけ歩いてドンパチの一つも……ましてや、脱落者の報せも来てねぇだろうが? 本当に幸せな脳みそしてんな。羨ましいかぎりだぜ」
嫌味を言いながらも、警戒を更に濃くする。
(おかしすぎる。昨日が初日だったとはいえ、あんなに派手に暴れていた|百瀬川《ももせがわ》にあの日光野郎が動かないなんてことがあるか? いや、ねぇだろ? 日光野郎についてはよく知らんから読めないが……少なくとも百瀬川は多少なりとも知っている。――大人しい玉じゃねぇ)
何かがある。いや、何かがおかしい――だが、その違和感が何から来るものなのかがわからなくて……景梧は内心苛立っていた。
(これじゃ、アイツの死の真相とやらに辿り着く以前の問題だ……。なにか手を打たねぇとな……)
思惑を巡らせる景梧を横から見つめながら、純汰は何か言いたげに口をもごもごさせる。さすがに放置できないと踏んだ景梧が訊く。
「どうした? 便所か?」
「ちょ! 違いますよ! ……その、お兄さんは本当に、死ぬのが怖いのかなって……思って……」
純汰の言葉の意味がわからなくて、景梧がなんとも言えない顔をする。それに気づいた純汰が焦ったように、首を横に振りながら話を続けた。
「その! お兄さん、いつも余裕そうだから! つい……」
「ほう? なるほどな……てめぇは考え無しな上に繊細さもねぇと来たか。あのな? 逆だよ逆。怖いからこそ、死に物狂いで考えて、警戒もして、対策を練るんだろうが。それとも、てめぇは生き残ることを諦めたか? ……今なら俺がなるべく痛くないように殺してやるぞ?」
その言葉に青ざめると、純汰は顔を俯かせながら呟いた。
「すみませんでした……。僕、その、死にたくは……ないです! 気を付け……ます」
その後は会話を再びすることなく、二人は進んで行く。何かを求めるように――。