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第9話 突然の出会い

 大きな螺旋階段にたどり着いた景梧けいご純汰じゅんたは、その前で立ち止まっていた。


「あの? お兄さん、行かないんですか?」


 小首を傾げる純汰に対し、景梧が心底めんどくさそうな声色で答える。


「こんなバカでかくてなげぇ階段なんざ、いいまとじゃねぇか。逃げ場がすくねぇのは不利にもほどがある」


「あっ……た、確かにそうですね。でもほかに、上に行けそうなとこなん……!?」


 景梧がいきなり純汰を蹴り飛ばした。不意打ち故に上手く動けずダイレクトに地面に転がった。


「いっ! な、なに……を……!!」


 痛みをこらえながらなんとか声を絞り出した純汰の目の前で、景梧が見知らぬ青年の剣を剣で受け止めていた。

 それが俗に言う奇襲なのだと気づいた純汰の方へとは目もくれず、景梧は上から仕掛けてきた青年に対し、声をかける。


「上から奇襲して来るなんて、随分とイイ趣味してんな?」


「それはどーも! そっちこそ、顔面偏差値高いのに目つきが悪い上に死んだ魚みたいで減点~! それじゃあ女の子には受けづらいかなぁ?」


「生憎、女に困ってねぇもんで。つーか、そんなん気にするとか発情期か? あんましすぎるとハゲるぜ?」


 互いに挑発し合う二人の間に、純汰は割って入れない。景梧に蹴られたのもそうだが、二人の鬼気迫る圧に屈している自分に気づいたからだ。

 奇襲してきたウルフカットの銀髪の青年は、軽やかな身のこなしで一度後退する。景梧も手にしている両手剣を再度握り直した。


「それは困るなぁ。一応、これでもナンバーワンホストなんで、ね!」


 青年が両手剣を構えながら景梧に向かって突進する。それをギリギリでかわすと、景梧が声をあげる。


「モノロエ!」


『はい』


「煙幕!」


『承知しました、ケイ卿』


 その声と同時に、煙幕が辺りを包む。あまりの量に視界が灰色に染まる。その中で、純汰は誰かに勢いよく引っ張られ引きずられていく。


 気付けば、中庭のようなところに逃げてきていた。引っ張っていた人物、景梧に向かってなにか言おうとした純汰だったが、彼の目つきの鋭さに思わず生唾を飲み込む。

 しばらくして、ようやく景梧が口を開いた。


「おい、あの奇襲野郎の様子をどう思った?」


「あ、え?」


 言葉の意味がわからず、困惑していると景梧が独り言のように呟きだした。


「気配なく、いきなりどうやって現れた? なんのからくりが? いや、そもそもアイツは円卓の? ちっ、やっぱり情報だな」


 そう告げると、座り込んでいる純汰に向かって今気づいたかのように声をかける。


「おいガキ、座ってないでとっとと立て。行くぞ」


「い、行くって……どこにです?」


 悪人面としか言いようのない表情で、景梧が告げた。


「亡きトリスタン卿のとこだよ」

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