(そうか。モルガン!)
モルガンは伝承によってはモルドレッド卿の母とされることもある有名な魔女だ。
ゲームなどで聞きかじった程度の知識だが、それくらいメジャーな話だ。
(もし、このモルガンがその伝承を強くイメージして存在しているとしたら? ならば我が子であるモルドレッド卿になにかを施すのではないのかな!?)
そう考えた保季は、宙に向かって矢を放った。狙うのは……霧彦ではなく、モルガン。
「おっと? どこ狙って撃ってる……って、ちっ! そういうこと~!?」
保季の狙いに気づいた霧彦は慌てて声を発する。
「モルガン! なんとかして下さいよ~!? アンタいないと困るんで?」
『承知しています、モルドレッド。
「……えっ?」
思わず霧彦が間抜けな声をあげる。なぜなら――保季が放った矢を半透明な女性姿となったモルガンが、右手をかざして、止めていたのだ。霧彦の頭上近くで。
「ちょぉ!? 人の頭上でなにしてくれてるんですか!?」
『はい、あなたを守るためです』
「いや! 頭上でドンパチされるとうぜぇんですけどぉ!?」
『それは失礼しました、気を付けましょう』
一人と魔女のやり取りは、遠方にいる保季には聞こえなかった。ただ、渾身の矢が防がれたことに思わず目を見開いて驚く。
「あの矢を……防ぐ? やはり、伝承と結びついているのかな?」
(だとしたら……これはかなりマズイぞ……)
モルガンはアーサー王伝説の中でも重大な役割を担う魔女だ。それに比べて、保季の魔女、マゾエに関しての伝承を彼は聞いたことがなかった。
それほどマイナーな存在なのだ。もし、伝承由来の力が魔女に備わっているのだとしたら、モルガンがついている霧彦はこの中で、もっとも優位な存在と言っても過言ではないだろう。
(そんな相手に……勝てるのか? ボクは……ボクには! 生きて帰らなければならない理由があるのに!)
胸中で悲痛な叫びをあげながら、なおも弓を握る。その手は緊張と不安と恐怖で震えているが、それを必死で誤魔化した。
――死がすぐそこまで迫っているとしても。それでも、最期まであがくと決めたのだから。
「はぁぁぁ!!」
先程とは比べ物にならないほどの熱量、いや、
……すべては、婚約者の元へ帰るため、それだけの想いを込めて。