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間話「喰われた男」

 ―#―#―#―



 私はかつて、父親だった。



 父親というけど、随分と気弱で父親らしくは無かったと思われる。

 私は魔法使いとしてイエーツで働いていたが、周りとの能力差に絶望して引退。

 その後、バーテンダーとして働いていた。

 バーには色んな冒険者がやってきた。


 青の騎士団や、A級冒険者。

 名がそれなりに売れているパーティーもやってきたことがある。

 そんな才能ばかりが集まる場所で、

 日々何かを捨てながら、働いていた。


 私はどうやら、才能という言葉に嫌われているらしい。

 だから、こうも嫌がらせをされる。


 別に私はこんな場所で働こうなんて思わなかったが。

 店主にうまいように言いくるめられ、こうして虚無に包まれながら、仕事をしていた。


 この生活は私に冷たかった。


 嫌でも聞こえてくる冒険者の武勇伝、青の騎士団の成果や逸話。

 それらの主人公になれなかった私が、

 何か、幼いころに見た大きな夢に背いていて、心底嫌になった。

 劣等感なのだろう。

 しかし、それがしんから醜い感情であることを知っていた。

 だから激しく苦しんで、そんな劣情を抑え込んで、仕事に励んだ。

 別に私は頭がいいわけではなかった。

 私は別に、凄い能力を持っている訳ではなかった。

 普通の人なら当たり前に考え付くことが出来なくて、

 普通の人の、並みの行動も出来ない愚かさだった。


 どうして生まれてきたのかを考えた事があった。

 でも答えは見つからなかった。


 そんな時だった。

 女に抱かれたのは。


 無情に、愛も欲もなかったのに、

 容姿が好みだったというだけで私はその女に弄ばれ、

 そうして生まれた双子を押し付けられた。

 女は冒険者の中では荒くれもので、才能はあったが、

 傍若無人な態度が身についていて、そのせいで敵が多かったようだが、

 そんな事を考えていたかは結局分からずじまいだった。

 ともかく、私はこうして双子の父親に、なってしまった。


 双子は可愛かった。

 最初は別に愛していなかったが、

 でも、純粋で綺麗な二人の瞳に次第に心が動かされた。

 途端に、働いて、この子達に裕福といかずとも、

 並みな人生を歩ませたいと夢をみた。


 その時から私は、落ち込まなくなった。


 辺境の村に家を買い、そこで暮らしながら、

 バーがある街へ毎日徒歩で移動する生活。

 それでも私たちは立派に生きていた。

 がむしゃらに働いて、双子を私だけで育てた。


 ただそれなりに疲労感もあって、

 子供二人を同時に育てる必要があったから、

 最初は本当に苦労した。

 いつも疲れ切っている私の顔が、子供にどう映っているのか、

 という妄想すらできないくらいには忙しかった。


 でも、この子達にはしっかりと人生を楽しんでもらいたかったから。

 愛情というものはしっかりと、注いだつもりだ。


 しかし、にわかに絶望してしまう出来事があった。

 それは早めの魔力開花が起こったことだ。


 子供たちは魔法が使えるようになった。



 魔力開花には時期があるが、それには個人差がある。

 うちの子供のようにとんでもなく早い人もいるのだ。

 私は最初こそ、それなりに魔法の扱いを教えてみせた。

 魔力開花が安定したその日から、魔法を教えたのだ。

 ただし、すぐに理解した。


 この子達には、才能があると。


 にわかに怒りが湧き出た。

 そりゃ、あの母親だ。冒険者としてそれなりに名前が売れている人の子供。

 才能を引き継いでいない訳がないのだ。

 でもその時、封印していた劣情が、劣等感があぶれて、子供たちの目に映してしまった。

 私が才能を嫌っている事を、表に出してしまったのだ。

 憎いという感情を見せてしまったのだ。

 その時の事はよく覚えている。今でも脳裏によく過る。


 勘違いしないで、その想起は、憎しみや劣等感からではない。

 その時の子供たちの顔が、酷くて、忘れられないからだ。


 子供たちにも知られてしまった。

 私の『凡人』さを。そして、子供たちの『特別』さを。

 どうしようもない程分かり合えない。

 溝の深さを。



 私は、理想の父親だっただろうか。

 私はあの子達に父親として見られていたのだろうか。

 もう分からない。死んでしまって、ただの曖昧な夢を見ている今では、もうまるっきり、分からない事だ。


 この夢の終わりを知らない。

 ただ、ずっと見ているこの夢に、たまに、あの子達が映る事がある。

 そのたびに、また、父親らしくないことを、思ってしまう

 それは自分の欲に溺れて醜態を晒した自分への、戒めの言葉でもあるし、軽蔑の台詞でもあるし。


 終わりを求める。

 願いでもあった。




『誰カ俺ヲ殺シテクレ』




 死堂に喰われ、そして魔物に喰われ、今だ見ているこの悪夢を。

 終わらせてほしい。



「はっ。増援が子供だとは聞いてないんだがな」



 刹那、見覚えのある子供が、夢に映った。



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