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-南④- 百三十話 「英剣使いケニー」




 ■:魔法大国グラネイシャ・王都王城、南城壁サウスランパート




「随分待たせたな、魔法大国グラネイシャ。待っていろよ、アルフレッド」

「ええ、やってやりましょう」


 見参。そこに立っていたのは、見間違うこともない人間。

 髭を蓄え、髪を後ろで結んだ男性。変哲のない白いシャツに黒いズボン、そして。

 彼が握っているその剣は――黄金に輝く刀身をしていた。


 そんな男性の横に並ぶ少年は。

 白い髪を男性と同じように後ろで結び、白い服と藍色のショートパンツを履いて、そして。

 その存在へと杖を向けた。


 ケニー・ジャックと、アーロン・ジャックであった。



 ケニー・ジャック視点。



 さあて、まだ全体を把握している訳じゃないが、とにかく。

 俺らは俺らの仕事を成し遂げて、

 さっさと王城へ向かってやらなきゃいけない。


 そのためには、この状況を切り抜ける必要が、ある。


「――――」


 既にエクスカリバーは展開済み、魔石のストックもある。

 アーロンも魔力を温存してここまでやってきた。

 だが、それでもこの異形種から漂う感覚は、他の野郎よりかは少し違う。


 それは雰囲気というか、こいつが纏っている禍々しさで伝わってくる。


「お前、俺らを知ってるようだな?」


 言うと、目の前の人型異形種は少しの沈黙の後に。


『ああ、お前がケニー・ジャックか』

「はっ! どうやら俺も、有名人なようだな」

『……いい風に啖呵を切るが、お前は今、俺を恐れているだろう?』

「げっ」


 バレてる。

 いや、普通に考えてこえーだろおがよ。


「だからなんだってんだ」

『いいや、なんでもない。聞いていたよりかは、かっこよくない人間だなと幻滅しただけだ』

「んだと!?」

『まあいい』


 と、言った刹那。

 異形種の影がブレて、その場から居なくなったと思ったら。


『殺す』


 ――俺は、背後をみた。

 その瞬間俺は、驚くほど無意識に、反応した。

 背後をみると黒一色だった。

 それは、間近に迫った異形種の拳だった。


 あと一息もつくと、俺の上半身は吹っ飛ぶ。

 俺はそう思った。俺はそう理解できた。


 右足を踏み込み、拳の軌道から逸れ、エクスカリバーを今一度強く握った。

 異形種は俺の動きに溜まらず声を漏らすが、それに構いなしに、俺は剣を下から上へ振りあげた。

 剣技と告げて。


「――炎龍レッド・ドラゴン


 真っ赤な炎が金色の刀身に迸った。

 空気を呑み、空気を喰らい、そしてボボボと揺れたその剣は。

 ケニーの血の煮えを誘発し―― 一撃を放った。


 魔石2個使用。


 残念ながら、異形種は俺のカウンターを避けた。

 地面を蹴って空に飛び上がったのだ。この間、およそ3秒。

 だが、俺のこの『脊髄反射』にも慣れて来たメンツならば。


「――――世界のマナよ、大気の熱量を奪い、その姿を、変え給え」


 いつの間にか背後の異形種を杖で捉えていたアーロンは。

 魔力を瞬時に杖先に集め、収束させ、そして色を選んだ。

 そうして溢れ出た眩い光を杖から打ち出し、告げた。


「――【連鎖魔法】氷の剣」


 大空に生成された青いつらら、それが異形種の頭上へ出現した。

 そうしてアーロンは思いっきり地団太を踏んで、光る杖を勢いよく真下へ振り下げ。


 空でフレアが何十個も揺れ、輝き、切り裂くような音が近づいてきた。


 異業種はそれに反応し、そして一言。


『はっ』


 と鼻笑いを投げ捨て、右手の拳を空に突き出した。

 すると――大空にかかった青い線のまた上空に、白い波紋が広がると思えば、

 そこからあふれ出た『紫ノ剣ムラサキノツルギ』がそのつららを崩壊させ。


 『紫ノ剣ムラサキノツルギ』が異業種の体に当たるかと思いきや、それは彼の体を『通り抜けた』。


「――――っ!」


 降ってくる。

 見知らぬ技が、アーロンの魔法をかき消した。

 つまり、明らかに相手の方が魔法のレベルが上だ。

 でもよお!


 俺は持ち手を掴みなおし、両手でぐっと握るようにエクスカリバーを構えると。

 向かってくる『紫ノ剣ムラサキノツルギ』に対し、下半身に思いっきり力を入れ。


「アーロン!」

「はい!」


 呼びかけると、すぐ反応したアーロンは、俺の影に身をかがめた。

 そしてそれを振動で理解した俺は、またガッチリと強く握って。


「――【英剣】エクスカリバー!!」


 黄金の刀身が光、迸り、はるか先おも照らす閃光を纏わせて。

 キラン、キランキラン、と三段階鳴った音色と共に、俺は剣を振り下げると。


 刹那、金色の波動がはっきりと広がり、

 その斬撃はしっかりと『紫ノ剣ムラサキノツルギ』を打ち消して見せた。


 【英剣】エクスカリバーには能力がある。

 その一つが【絶対防護アブソリュート・イグノー】という技で、魔法を打ち消す能力を有している。

 この剣はどんな魔法も関係なく打ち消すことが可能だ。

 例え、あのドミニク・プレデターの【神技】ザ・プロテクトすら消せる効力だ。

 あんな異形種程度の魔法、屁でもねえ!


『えくすかりばー、だと』


 全てを打ち消し、そして残った異形種は驚愕したような声を漏らした。

 だがそんな暇を与えないように――。


「――【剣技】白薔薇」


 そんな強い言葉が横から乱入し、

 瞬間、異形種向かって一直線に剣を描いた女性。

 セレナ・グウェーデンがその剣を異形種に叩きつけ、右から左へと優雅に舞って。


 地面に着地した彼女は、ドレスをふわりと浮かばせながら、苦悶の表情を浮かべて。


「手ごたえが、ないですわね……!」


 そう言うと共に、異形種は地面へとやっと舞い戻った。

 ――だが矢継ぎ早に。

 黄色い閃光が異形種に命中した。


「……!? エヴァン?」

「攻撃を止めてはなりません、嬢様!」


 白髪に強面、そして黒いジャケットに赤いネクタイをした大柄の男性がそうセレナに告げた。

 俺はその光景をみて、やっと、次の行動へと移した。


「考え事してる場合か異形種!」


 よろめいて停止した異形種に、

 俺は強気に言葉を吐き出した。


「お前が疑問符浮かべたこのエクスカリバーについて、もう興味がなくなったのか!」

『――――』

「さあかかってこいよ、お前も殺してやる」


 眼差し。

 感じる、殺意。

 俺がそいつに殺してやると言った瞬間、頭部の黒い膜の中に輝いた瞳がある気がした。

 そしてその瞳には――殺意が、揺れていた。


 地面が抉れた。

 そして異形種は、まるで頭に血が上ったかのように拳を前方に繰り出した。

 だが俺はそれを『脊髄反射』にて対応し、逆に異形種の懐へ転がる事で避けた。が。


「は」


 転がって起き上がった眼前には『影の破片シャドウブレイク』が待ち構えていた。


 ――異形種は、俺の逃げる場所を読んでいた。

 すぐさまエクスカリバーを顔面の前に構え、防御の姿勢を取ったが。

 俺を捉えてから速攻で、その『影の破片シャドウブレイク』は轟音を出し爆発した。


「くっ――」


 右頬、腹、脇腹、足。全てに鋭いトゲの様な物が突き刺さった。

 くそが。咄嗟すぎて対応できなかった。

 この異形種、変化球な技も扱えるのか!?

 全身が重い。元々よりも更に重く感じる。

 このトゲ、何かしやがったな?


「――【魔法】!」


 俺がそう狼狽えていると、

 すぐさま俺から見て右側に展開していたアーロンがそう唱えたが。


『もう見た』

「な、!?」


 異形種はそれを見越していたかのように、右手をアーロンへ向けると。

 その瞬間、『影の破片シャドウブレイク』がアーロンの周りに数個生成され、すぐさま破裂した。


「アーロン!?」


 俺はそう黒い霧に包まれたアーロンに向かい言葉をかけたが。

 次の瞬間、俺の『脊髄反射』により、俺はまたその足で前へとウサギ飛びをしていた。

 ぐらりと揺れる地面、着地してから振り返ると。


 異形種が俺に向けて足を振り下ろしていた。


『逃げ上手だな、ケニー? 殺すと言ったが、それはどうかな』

「は、はっ! おもしれえ」


 なんてキメ顔でいったが……。

 まっっっじで面白くねえ。

 怖い!!!!


「――――」


 でも多分、これが現状の最適だ。


 この異形種、聞いていた通り魔法を使ってきやがる。

 それにこいつが使う魔法は、どこか陰鬱で気持ち悪く、酷く初見殺しだ。

 魔法の性能がじゃねえ、こいつの動きも魔法の読みも完璧すぎてやりづらい。


 だから≪最悪魔法をうち消せる俺が、こいつの囮を買って出る≫。


 それ自体は何も間違ってねえ。

 怖いのが、俺の相手の実力を測る能力が、まだそこまで信用できるものじゃねえことだ。

 別に経験はあるが豊富な訳じゃない。だから、間違えることがある。

 それも『脊髄反射』は万能じゃない。

 一見すげえ便利な能力に見えるかもしれないが、その分――『消耗』が激しい。

 端的にいうと疲れるのだ。

 そして疲れると身体能力が落ち、そう簡単に『脊髄反射』を頼れなくなる。


 これは時間との勝負だ。

 その分、他の隊長さんがそれを察したのか追撃を始めてくれて助かった。

 意図を組んだのか知らねえが、俺とアーロンでこいつの気を引いて。

 そのほかの追撃であいつを仕留める。

 それしかねえ。

 じゃなきゃ勝てる気がしない。


 もちろんこれは一筋縄ではいかねえだろう。

 だって相手は、知能がある。俺の逃げる方向を二度目で見切った。

 だからこの戦いは。


 負け試合のなか、出来る最大限を行うしか、ない!


「――【剣技】葵!」

『うるさいな』


 隊長の剣技が宙を舞う。

 花の様に浮かんで落ちるセレナの攻撃は異形種に命中するが、異形種はそれに反応し空を見上げた。

 だがそれを阻害するように。


「――【剣技】エーデルワイスッ!」


 セレナはそう言い、剣をくるっと回すと。

 剣先から白い雫が異形種目掛け落ち、異形種に当たる直前になると――それは爆ぜた。

 真っ黒い黒煙が漂い、異形種は視界を覆われた。

 そこへすかさず、もう一人の隊長が閃光を纏って突撃し。


「――【剣技】深夜の時ッ!」


 黒煙に発せられた体当たり、しかし、その隊長エヴァンは黒煙を素通りした。

 異形種は既に移動していた。

 俺の頭上に。


「く、は!?」


 そして、俺の真下に、影を伸ばしていた。

 俺の周りに生まれた影はずずずと音を出し、そして巨大な牙が生え――。

 しかし、俺は咄嗟に地面にエクスカリバーを突き刺し、魔力を注ぐと。

 その大きな牙と口は霧散し、上空の異形種は舌打ちを飛ばした。


 そして、その異形種に向け、真っ赤な閃光が打ち出され、全身を飲み込んで見せた。


「――【上級連鎖魔法】エクスプロージョン」


 異形種の背後に構えていたアーロンは、自身の口やら腕やらにトゲを突き刺したまま。

 魔法を打ち出したのだ。

 その口元には血が流れていた。


 く、俺もダメージを喰らってもう動きにくい。

 それに、俺以上のトゲを貰ったアーロンも、もう殆ど動けないだろう。

 今、アーロンに異形種の意識を向けさせたらいけない。俺に意識を、釘付けに。


「そんなもんかよ、型落ち!」

『――』


 エクスプロージョンをモロに喰らい、少し吹き飛ばされていた異形種に、俺は言う。

 すると黒煙の中から異形種は、ドンッと足を力任せに振り下ろしてから。


『いかんなあ、誘いにのってしまうわ。その戦い方が、どうも気にくわん』

「……はっ」


 気に食わねえか。

 そうだな、気に食わねえだろうな。

 でも、なんだ。俺もここまで戦場で動けるのは、何だか変な感覚が。

 ――あ。


 ≪あいつは今から俺に突撃を仕掛けてくる≫


 俺はすぐさま体のトゲを右手で抜いた。

 激痛が走ったが、それでもそれを勢いで流し、痛覚を遮断してみせた。

 俺は黄金の剣、エクスカリバーの赴くまま、剣を構えて立ち上がり、やっとその異形種を睨みつけた。


 どうやらその姿は異形種からすると、最大の威嚇にみえたようで。

 奴は律儀に、腕を振りかぶり、『紫ノ剣ムラサキノツルギ』を自身の背後から出現し。

 異形種本人と『紫ノ剣ムラサキノツルギ』が同時に詰めてきた。

 そんな光景を見据えて俺は、

 ≪剣技、炎龍レッド・ドラゴンを魔力多めで構え、刀身を横向きに構え≫。

 叫んだ。


「はああああ!!」


 剣技、炎龍レッド・ドラゴン――!!


 魔石8個使用!!


 魔力過剰、炎舞!!


 通常よりも魔力を過剰にすることによってオーバーヒートした剣技は、

 普段より人一倍大きな炎を纏っていた。

 そしてそれを振り下ろすと、地面の土が黒く焦げ、赤い閃光が地面を抉りながら異形種に向け発射された。


 ――だがそれを喰らっても、炎の中から突き抜けて来た、異形種。


『その程度か、ケニー・ジャック!!』

「――――」


 ≪そのまま誘き寄せろ。そうすれば≫


「――――ッ」

『――――ッ』



「――――――――――、使徒発火」




 刹那、

 また違う閃光が、蛇の形をして異形種を捕食した。



『ぐあああ、はああああああああ!!』



 異形種は空に打ち上げられた、蛇に噛まれ、蛇に捕まれ。

 だが向かってくる『紫ノ剣ムラサキノツルギ』は俺の眼前まで届いたが。


「――【剣技】桔梗!」


 剣を優雅に振うセレナ・グウェーデンにより、全ては弾き返された。

 そして俺は、その男の参戦に、やっと気が付いた。


「……お前は?」


 ケニーの眼前に立ち上がったその背丈を、彼は知らなかった。


 ――銀髪に長身、端正な顔立ちに青空の様な細い瞳。

 そして上半身の服が綺麗さっぱり破れていた男を、ケニーは見た。

 男は、ケニーの問いかけに、笑みを浮かべた。

 それは先ほど抱いた「かっこいい」という感想とは全く相容れない。

 どこか気持ち悪いような笑みを浮かべた。


わたくしの名は、ヨークシャー・ケミル」


 言いながら、彼は異形種へ自分のサーベルを構え、

 唱えるように言葉をつづけた。



「あぁなたの心臓へ刻みましょう、このわたくし往生際の悪さ下品をね」



 その青い瞳には『執念』の二文字を浮かべて。



 ヨークシャー・ケミルの再戦。そして。

 【英剣】エクスカリバーと【魔剣】カルベージュの共闘が今、始まる。



 余命まで【残り●▲■日】

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