「俺も協力しますよ。これでも、ここらへんには詳しい方ですからね!!」
格好つける。
今まで気恥ずかしくてやってこなかった所業。
カッコイイ奴らを見て「気取ってる」だとか言ってきた俺が。
努力していない癖に努力してる奴を見下してた俺が。
そんな俺が、今、たった一人の女性にカッコイイとこ見せたいと言う理由で。
そんな決め台詞みたいな言葉を叫んでいる。
ははっ、面白れぇ男だぜ全く。
こういう生き方でいいんだろ、ケニー。
これがお前みたいな、カッコイイ男だろ。ケニー。
……俺はお前に憧れているんだ。ケニー。
せめて足手まといにはならないさ。
「その協力には答えられない。足手まといになりたくないならさっさと逃げるんだ」
「……は?」
「あの魔物は君がどうにかできる存在じゃない。
あの生き物の構造が、人間を殺す様に特化している。改造されている。
そんな相手に素人との戦いに、巻き込むわけにはいかない!」
「だ、だからって!」
「それに!! そんな余裕があるなら僕を放っておいてイブを探してくれ! 彼女は弱くないが強くもないんだ」
俺の反論を食い気味でかき消す。
あくまで邪魔をするなと言うのか。
だが、そんなのはい分かりましたでいくと本気で思っているのか。
だってお前……ボロボロじゃねぇか。
「――――」
確かにカッコつけたいのもある。
いい年して何してるんだとか、思うけど。
それが半分で、あとの半分は違う。
その半分は、見捨てられないからだ。
例え神級魔法使いだったとしても、そのボロボロ具合を見るにあの怪物は一筋縄ではいかない。
あの怪物は明らかに強い。
それも最強だと言ってもいいくらいに。
一人で何とか出来るならここまでピーターは苦戦していない筈。
どのみち誰かの助けがいる筈。
長々と言い訳語ってるように見えるかもしれねぇが、これは本心だ。
このままこの青年をほおっておくと。
必ず俺は、トニーに泣かれる気がするから。
それと、もう俺は嫌なんだ。
何もしない人生は。
「お前に否定されても俺は手伝うぜ、だって俺は、クソ野郎だからな」
「………もう好きにしろ。守れなくても僕を責めるなよ」
状況的に押し問答を延々とする暇はない。
そう判断したピーターは、しぶしぶというか諦め気味にそう言葉を吐き捨てる。
「当り前さ、くそが」
俺は杖を構えた。
メルセラを守りながら戦えるだろうか。
まず、知性があると言っても。
あの魔物にどのくらいの知性があるか全く分からない。
悪知恵が働くか働かないかで大きく戦い方を変えるべきだ。
俺は実戦経験はないが、案外咄嗟の場面で動ける人間だと自負している。
まずは観察か。
「加勢するにあたってあの異形種の特徴を教えます」
「も、もう分かってるのか?」
「観察眼は鍛えている方ですので。
あいつの基本攻撃は『高速移動』です。
そしてその高速移動中、あいつは鋭利な爪で物を切り裂くことが出来る」
その説明と共に、先ほどの場面が脳内で呼び起こされる。
騎士3人の頭が飛んだあの攻撃、それが今の説明にあった高速移動か。
瞬間移動、すなわちテレポートかと考えてたが違うらしい。
……考えればそうか、奴が移動した瞬間、必ず奇妙な風がたっていた。
「あいつの高速移動のタイミングは、一度息を大きく吐いた後です。
見逃さないでください。次に飛ぶのが家ではなく、あなたの首になる」
「なるほどなぁ、とんだハードモードじゃねぇか」
その一度の呼吸を見極め、回避行動を取る。
それがあいつの基本攻撃の対処方法か。
よくこの短時間でそれを割り出したな。
そこまで分かれば、俺でも何とかなるんじゃないか?
……慢心は良くない。
ここはしたたかに行くべきだ。
商人の基本だろ。
「ガタガタ作戦会議カ、人間」
またあの声が響く。
視線を目前へ向けると、魔物が建物のがれきから完全に這い出て来ていた。
いよいよと言う訳か。
「狙い時は奴が建物にぶつかった時です。僕は誘導します。激突後の攻撃を必ず魔法でよろしくお願いします」
と、やけにはっきり魔物に聞こえるように言う。
「了解だ」
「モールス様?」
「メルセラ、隠れてろ。必ず帰るから」
「……分かりました。モールス様」
「………」
はっ、いつになったらモールス様をやめてくれるかな。
「くるぞ!」
「走れ!!」
「はいっ!」
――息を吐く、ゆっくり大きく。息を吐く。
魔物は足を地面に強く突き立て、同時に魔力を放出し始めた――。
その瞬間、俺はすぐさま。
「――【魔法】ウィンドアウト!」
風魔法を唱え、繁華街の道を勢いよく下る。
今は逃げ回るしかないらしい。
ピーターはいつの間にか横から消えていた。
既に回避行動に出ているのだろう。
俺は衝撃に備え、高速移動が来る前とにかく走り続けた。
刹那――轟音と共に俺が通り過ぎた納屋から白煙が噴き出す。
同時に吹き荒れる強い風に思わず体のバランスを崩しかける。
ひぇぇ、あんなんでタックルされたら多分俺肉片だなぁ。
体力はそこまでねぇからあんま走れねぇし。
俺ほんと、お荷物すぎだろ。
でも今だ。
「――【魔法】ウォーター・ボール!!!」
杖の先から水が生成され、出来るだけ巨大に作ったその魔法を納屋にぶち込んだ。
白煙ではなく濁流が流れ、しかしながら納屋の中からあの怪物が無傷で背中を見せる。
背骨が浮き出るくらい肉付きが無いのが逆にいかついな、その背中。
そんな体であの高速移動、まったくどうなってんだか!!
「おいピーター! 俺は囮か!!」
「そうだよ、悪いけど囮さ!」
「なっ!?」
不満げに彼の不在を嘆くと共に、頭上からそんな声が響き。
俺が空を見上げると、そこには――空中に立っているピーター・レイモンがいた。
「飛べんのかお前!!」
「――赤より黒く波より柔らかく、闇の音色に悪魔の歌声を」
空中にいるピーターが持っている杖先から、黒いエネルギーの集合体が音を飲み込む。
耳障りな音を発し飲み込みながら、そのエネルギー体はすぐさま肥大化し。
「――【禁忌】アンセム・バーン!!!」
巨大なエネルギー体が音を立て重力に晒され、目にも止まらぬ速さで地上に落下する。
あの怪物に直撃した瞬間、エネルギー体は空気を飲み込みながら小さなクレーターを作った。
だがしかし、その場所にあの怪物は既にいなく。
「モールスさん、周りを警戒して!」
「ちっ、どこ行きやがった!!」
「――クッ、ククク。俺ノ姿ガ見エナイト避ケヨウガナイダロウ?」
しまった!!
あの怪物はどうやら悪知恵が働くタイプらしい。
俺はすぐさま周りを見回した。
クレーター、繁華街、街灯、質屋。
だがどこにもあの怪物の姿は見当たらなかった。
「くそが!! おわっ!」
「動かないでください、バランスを崩しますので!」
「お、おう」
俺が怒りを叫んでいると、すぐさまピーターが俺の脇を両手で抱え空中へ持ち上げてくれた。
ピーターに持ち上げられ、両足をぶらぶらさせながら空中で浮く。
確かに空中に居れば奴の高速移動はとどかないのかもしれない。
だがしかし、もし届く場合、俺たちは。
格好の的だ。
確かに格好つけたかったが、こういう意味じゃないぞ。
「どうする?」
「分からない。せめて魔物の場所が分かれば」
「……つっても、どこにも痕跡がないぞ」
クレーターの周りには何の足跡もない。
本当、忽然と消えたと行った印象だ。
どんな手品を使ったか、高速移動時はあんな分かりやすい被害を出すというのに……。
いや、こういう場合は案外答えは簡単だ。
小さな穴を俺らが見落としている可能性は無いか。
商人の基本、『小さな穴ほどよく注意しろ』だ。
よく観察するんだ。奴が消えた場所に、何か残ってるものはないか――。
「ピーター!! 地中だ!!」
「ッ! ――【魔法】ウィンドアウト!!!」
俺の叫びと共に地中が盛り上がり、その中から巨大な怪物が大きな口を開いて飛び上がる。
しかし咄嗟なピーターの魔法行使により俺らは空中でお互いを弾き合い、
魔物の不可避の快進撃を宙でかわした。
「クレーターは地中に潜った跡だったか!」
灯台下暗しとはこのことか。
今度の着地はいい感じに受け身と取り俺は質屋の屋根からベランダに落ちた。
痛い。全身に激痛が走る。
だがここで止まってはいられなかった。
俺はすぐさま立ち上がると、
空に打ち上げられた魔物に対しピーターは杖を突き出し。
「この距離なら!」
そう杖の先に光を集めるピーター。
浮遊魔法なんてものは聞いたことがないが、ピーターはまるで空中の中で泳ぐように移動し。
空に打ち上がった魔物と目を合わせた。
――その瞬間、魔物が嫌な笑みを浮かべた気がした。
地上から見たからちゃんとは分からない。
でも、一瞬、あの魔物は狼みたいな口をニンヤリと歪ませた気がする。
それを見てしまった俺は、とてつもない程の嫌な予感を感じ取った。
魔物は空中で落下している。
その魔物に対しピーターは魔法を決めるつもりだ。
だが、あの嫌な笑みは何だ。何が笑える?
……と言うかおかしい、あの魔物には知性がある。
知性があるのに、どうしてわざわざ自分が動けない空中へ行ったんだ?
――この状況を望んでいた?
こちらから見ると魔物に一方的に攻撃を与えられる。所謂『好機』だ。
しかしわざわざ敵の有利な場所へ行く意味が分からない。
知性があるのだろう。
そこまで馬鹿じゃない筈だ。
何が目的だ?
何があの魔物にとって……いいや違うのか?
まさか。
――魔物は空中で息を吐く、ゆっくり大きく。息を吐く。
違う。間違えていたのか?
あいつの高速移動について理解が足りなかった。
……いいや、違う。
これは恐らくあの魔物の策略だ。
あの魔物、俺らの予想より知性が高いんだ。
足で高速移動しているんじゃない。
魔法で高速移動しているんだ。
魔法を使う魔物、それが異形種の真の力か!
「いかん! ピーター!! 逃げろ!!」
俺は叫んだが、既に数十メートル離れているピーターへ言葉は届かなかった。
いつから俺らは空が、あいつのテリトリーではないと錯覚していた。
いつから俺らはあの夜空に地上がないと考えていた。
全部全部、脚力で高速移動しているという先入観を持たせるための。
やられた。
見くびっていた。
俺では、ピーターを、助けられない!!
「クソがああああああああああ!!!」
七色の夜景の中、空に浮かんだ二つの黒点。
一つは巨大な黒点、一つは小さな人型の黒点。
そのうちの一つが、もう一つの黒点へ勢いよく突進した。
――――。
ピーター視点。
空中でぶらぶらと浮かんでいるのだけが感覚で分かった。
神級魔法の『スカイラン』もまだ切れていない。
どこにいる? 何が……。
――音? なんの音だろう。
それにこの硬い感覚、少し身に覚えがある。
あぁ、この音は……翼が羽ばたく音だ。
「イブ……?」
『はぁ、はぁ、まったく……世話の焼ける男だこと』
「助けてくれたのか?」
『危なかったわ。良かったわね、僕が小回りきく方で』
恐らく魔物との激突寸前に、僕だけ掴んですぐさま逃げたのだろう。
神級魔法『スカイラン』は空中に立ち歩くことが出来る魔法なのだが、
いかんせん使った場合の機動力は皆無だ。
空から静観できるというだけで使い勝手が悪い。
「あの魔物はいまどこだ?」
『僕の真後ろ飛んできてるよ、羽もない癖に随分気ままに飛んでるわ』
風魔法を極めれば空を飛べるというが、そのたぐいだろうか。
人間と魔物、魔力の使い勝手が違う筈だし。
奴は風魔法を使って空を飛んできていると。
「はぁ……完全にあの魔物の手の上で踊らされたよ」
今回たまたまイブがドラゴン形態で、あのモールスさんが居てくれたから何とかなっている。
正直僕だけじゃ地中に潜っているなんて気づかなかった。
恐らく彼は頭がキレる人間なのだろう。
足手まといだなんて言ってしまって今更後悔しているよ
「――――」
あの魔物の知性は初見殺しだ。
運と状況で乗り越えられたのは奇跡と言っていいだろう。
まだまだ警戒すべきことはある。
あの魔物がもし本当に、風魔法を使用できる存在なら。
……駄目だ、情報が足りなさすぎる。
敵の戦力が未知数だ。
こういう場合どうするか、僕は知らない。
僕は実戦経験なんてないんだ。
確かに魔法使いとしての才能が、あるのかもしれないけど。
こういう場面で僕は力を持つだけの木偶の坊。
相手が単純に火力だけで倒せるならまだしも、相手には知性が備わっている。
本当、一人で戦うべきじゃなかった。
仲間ってのはこんなに頼もしいんだな。
『作戦を考えるべきよ。このまま受け身だとこっちが相手の勢いに飲まれる』
「……作戦って言っても、僕には無理だよ」
『どうしてよ? あなたオラーナでは優等生だったんでしょ』
「そうかもしれないけど……僕にそんな力はない。ただ勝手に、周囲がそう言っているだけだ」
『悪いけど、私は周囲がそう言いたくなるの、少し分かるよ』
「……買い被りすぎだ」
期待されても困る。
それが本音だ。
確かに僕は凄い人なのかもしれない。
才能があるのかもしれない。
他人から見た僕は何でもできて、何でもこなして、何でもやり遂げてしまう全能人間に見せているのかもしれない。
でも、違う。
僕は人間なんだ、一人の人間だ。
全能じゃない。
天才じゃない。
能力ばかり持ち合わせて生まれてしまった、ただの一般人だ。
「………」
……でも、僕は確かに力を持っている。
持っている者の責務を果たさなければいけない。
そうだろ。
校長。
頑張ろう。
「……こればかりは人だよりになるけど、案はあるよ」
『ほう? 聞かせてちょうだい』
「そうだね。まず、彼の意見を聞きたい」
『彼?』
「モールスさんの意見だ。彼の知識と頭のキレだよりになるけど、彼の知恵と僕の魔法が組み合わされば、百人力だ」
『分かったわ。どこにいるか場所の予想は出来る?』
「……できないけど……でも、信じる事なら出来る」
『?』
信じる。
僕の唯一の取り柄、それは『他人を全力で信じる』事だ。
無根拠に信じるわけじゃないけど。
一度信じてもいいと感じた相手を、全力で信じる。
それに裏切れられてきたこともある。
それに足元すくわれたこともある。
でも、この取り柄だけは捨てずに生きて来た。
さあ賭けだ。
始めようか。
「――――」
まず、彼がどこにいるかをここで考察する。
彼は僕が空中で吹き飛ばした。
だが、あの高さなら恐らく少しの怪我ですんでいると思いたい。
今から予測するのは彼がいる場所、
だから、言ってしまえば彼が動ける状態である事前提に考える。
その彼の耐久性が賭けのポイントだ。
彼が今歩ける状態で加勢出来るのか。
僕はそこを信じる。
正直、あんまり根拠はない。
でも僕は信じてもいいと思っている。
何故なら――あの人は他人を守るために戦っているからだ。
知っている。あの女性を、守ろうとしているのだ。
そういう人が弱い訳がない。
まだ数十分程度しかモールスさんを知らないけど。
その他人の為に体を張れる部分は信じていい筈だ。
さあ、考察だ。
考えてみよう。
もし彼にまだ戦う気があり、僕らと合流するならどこがいいと考えるか。
僕が分かる場所に絞り出してくるだろう。
あの人は頭がいい。
「ドコマデ逃ゲル気カ」
『うるさいわね』
繫華街のどこかなのは確定している。
そして最初に戦っていた場所の近くには公園、質屋、花屋などがある筈だ。
それに頭がキレるあの人なら回収しやすい開けた場所へいくんじゃないか?
あの人ならどこで待機する?
考えるんだ。
時間はない。
イブはまず、ドラゴン形態を維持するのに膨大な魔力を使う。
それもさっきイブは一度別の魔物に落とされている。
つまり彼女も消耗している。
いつまでもこうはしていられない。
考えろ。
あの人ならどこへ行く。
僕らに分かりやすく、かつ回収しやすい開けた場所だ。
ある筈だろ――――。
「……イブ、さっきのクレーターの場所まで頼む。そこで人間体に戻ってくれ」
『了解。天才のピーター・レイモンさん』
少し疲れたような声色のイブは、体の方向を空中で変えた。
その瞬間、やっと僕の視界に魔物が映った。
「鬼の形相だね」
『どうやらあの魔物の逆鱗に触れたらしいわよ。まぁ、ことごとく自分の攻撃が防がれているもの。同情するわ』
空に浮いているからだろう。
七色に光る夜空が近いせいだろう。
魔物の顔が良く見える。
怒りの顔だ。
狼の様な鼻が見え、歯をニヤリと出し、グルルと喉を鳴らしている。
知性も持ち合わせていると言っても、どうやら冷静さはないらしい。
「そう言えばイブ、君を襲った異形種は?」
『近くにも近衛騎士団が来ていた。彼らに頼んだだけよ』
まあそうだね。
別に近衛騎士団側のあれは聞かされてないからどの部隊がいるか知らないけど。
あの団長さんは元気しているのだろうか。
『ピーター! 降りるわよ!』
「了解だ」
イブの体が急降下する。
体が少し浮いて、僕は目を凝らす。
降りる場所はさっきの【禁忌】アンセム・バーンの跡地だ。
もう抉れた地面が見える。
まだあの人の姿は見えない。
でも――信じるんだ。
――着陸した瞬間、半裸の美女が視界に写った。
イブがドラゴン形態から戻ったのだろう。
そしてすぐさま回避行動を取らないと……。
「来るよ! イブ」
「分かってるけど……!」
僕が空を見上げた瞬間、既に魔物は俺ら目掛け息を吐いていた。
――来る。数秒後にはここにもう一つのクレーターを作るだろう。
マズイ。マズイマズイマズイ。
「――【魔法】ウィンドアう」
「――【魔法】ウィンドアウト」
僕が杖を構え、魔法を唱えようとする前に、
早口な詠唱が聞こえて。
僕が自分の魔法でその場を離れている眼前に。
モールスさんがイブの肩を掴みながら、魔法でその場から離れた。
地鳴りと共に魔物が地面へ落下する。
砂煙が立ち込め、衝撃波が地面を揺らす。
今回は上空から落ちたからだろう、先ほどより多い砂煙がたった。
僕はその砂煙に隠れながら、二人の居る方へ走り出す。
「グッ、ガアアアア!!! フザケルナアアアアア!!!」
っ!
魔物は僕の気配に気が付いたのか、叫びながら砂煙を闇雲に走り出した。
でかいシルエットが見えるからどこへ行ったか丸わかりだ。
だから避けて行けばいい。
「イブ! モールスさん!」
「ピーターくん! 大丈夫か?!」
砂煙の中を掻き分けて走ると、
そこにはイブに上着を着せている金髪の男モールスさんが居た。
「ええ、ですが時間の余裕がありません」
「その通りだな、確実に消耗戦になっていやがる」
「何か案はありませんか? モールスさん」
「俺か?」
「そうです。確かあなた、ここらへんには詳しいんですよね!」
一番最初、彼の参戦を希望したとき。
彼は自信満々にそう言っていた。
「確かにそうだがぁ。具体的なあいつの弱点を見抜かなきゃ思いつかねぇぞ」
「恐らくあの魔物は風魔法を使える異形種です。奴は二つの風魔法を使い分ける。
一つは『高速移動』時に使用する魔法、二つ目は『浮遊』時の魔法です!!」
「浮遊の魔法は情報が足りな過ぎるし弱点が見当たらない」
「なら、『高速移動』の魔法は?」
「……なら、なくはないさ。ただどう奴を誘導するかがカギになる」
やはり彼は話が早い。
頭が回る。
一体何者だろうか? この人は。
騎士団の人間だって言われても納得してしまうくらい有能だ。
誰なんだ、何者なんだ。
「……はっ……これが天才に感じる劣等感か」
「あ? 何言ってんだ?」
「気にしないでください。その案で行きましょう、モールスさん」
僕は杖を構え、内なる魔力に力を籠める。
そんな僕の横に並んできて、同じく杖を構える、金髪の彼が言った。
「モールスで良いぞ、ピーター」
「……ははっ。行きましょう、モールス」
「さあ、ショータイムだ!!」
こんな格好いい人が隣に居て、僕はその瞬間だけ、百人力に思えたのだった。
余命まで【残り●▲■日】