「あぁ? フェニックスの居場所? 知るかよぉ、んなの」
枯れたような声が響くと同時に、そう口で気だるげに答える男が溜息を吐いた。
やけにおっさん臭い彼はどこか上の空な態度であり。話をきちんと聞いているのか怪しい様子だった。
だから、そんな男に対しサバイブ・ローガンはもう一度説明する。
「もしお前が逃げた『フェニックス・ルーデンベルク』と
『ドミニク・プレデター』の居場所を知っているなら、
お前の刑期を縮めることも考えると言っているんだ」
魔解放軍 - 九幹部。
【銃】狩り屋 ダドリュー・サモンズは両足を机に乗せながらその言葉に面倒臭さを覚える。
「どうしても知らないのか? 同じ幹部なのに」
そうサバイブも聞くが。
「だからぁ、俺は幹部の中でもただ雇われただけの放浪者だって、いっているだろ?」
ダドリューは両手を脱力させ、不満を呟くように言葉を吐き捨てた。
その態度はまさしく怠惰。
どこまでも面倒くさそうな彼の言動に、サバイブは呆れた。
しかしサバイブも話を聞いてもらわなければ困る。
何故ならこの話は、この男ダドリュー・サモンズに対してもいい話だと確信しているからだ。
「――――」
「はぁ……」
「お前、タバコとか吸うか?」
「……あ? 吸うけど、それがどうしたんだよ」
意外過ぎる質問だったのか、ダドリューは驚いたように目を丸くする。
サバイブは心の中で食いついたと握り拳を作った。
「なら俺のタバコ吸うか?」
そう追い打ちをかけると、ダドリューは自身の髭を触りながら考えるような仕草を始める。
「ーん」と喉を鳴らしていたダドリューだが。
ふと瞳に生気が宿った。
「怒られねぇのか、ここの人間に」
「一応許可は貰っているよ。お前なら分かるだろ?」
「情報を聞き出すためなら、何でもするって訳かぁ。
まあ刑期を縮めれる権限を持った男だから、それくらい朝飯前って訳かぁ?」
両手で大袈裟に煽りながらダドリューは大きな声で言う。
その様子を見て勝機を見出したサバイブは、黙りながら頭を一度コクンと頷かせた。
「――――」
その様子を見ていたダドリューは、一度大きなため息を吐きつけると。
すぐさま大きく口を開き大笑いした。
「ガハハハ!! まあいいだろ。話し相手が欲しいと思っていたんだ」
結構、愉快に笑った。
「――――」
刑務所の中でタバコを吸うのは少し気が引けるなぁ。
だってタバコは匂いが付くし、嫌いな人にとってその匂いは不快だろうし。
この世界には、タバコを吸っている人を避ける人もいるくらいだというし。
でも同時に、俺は思うんだ。
タバコとかお酒とか、そんなしょーもない娯楽に浸かってなきゃ。やっていけない人間もいるんだと。
事実、俺もその一人に入る訳だしな。
許可は取ってるし。まあいいだろう。
「ライターとタバコだ。ライターは使ったら返してくれ」
胸ポケットから取り出したライターとタバコを、目の前のトレーに雑に並べた。
こちら側にある。透明板についている机に備え付けられている操作盤を弄ると、
ダドリューと俺の間にある透明の板の一部が開閉した。
俺はそこにトレーを設置し。
また操作盤を動かし、ガチャ、と言う音と共に扉が閉まり。
同時に向こう側で開閉音が鳴る。
ダドリューはぐらぐらと立ち上がり。
ゆっくりと壁際にあるその穴に手を入れ、トレーを取り出した。
「……これはどこのタバコだ?」
乾いた空気の部屋の中で、換気口から自動的に空気の排出が行われる。
その音だけが耳残りになっている最中。
一言、タバコを握りながらダドリューは不思議そうにつぶやいた。
「それはイエーツ特産だよ。うちの国は色んな作物を育てるのに適しているからね」
タバコの原材料はタバケと言う植物らしい。
うちの広大な土地があれば、沢山取れるのだろう。
「………なるほど」
どこか怪訝そうな顔をしながらも、ダドリューはタバコを咥え火をつける。
ぼっ、と火が空気を喰らう音がして。
そこから壁越しにも匂いが伝わってきた。
「こりゃあいいな」
灰色の息を吐きながらダドリューは呟く。
「だろ? さっさと刑期終わらせて出てこれば、いくらでも吸えるんだけどな」
「つっても俺、他の余罪でまだこん中だろぉ?
数十年はここの白い壁と、楽しく雑談しなきゃいけねえんだ」
壁に向かい煙を吐きながらダドリューは自嘲気味に笑った。
事実、ダドリュー・サモンズとグレゴリー・ドラベルの二人組は。
このイエーツ大帝国にて指名手配されている。
基本的な罪状は人殺しや盗人。
だが事情聴取をした感じ、全部依頼され、お金を貰ってやっていたらしい。
とんだ商売だなとサバイブは心の中で飽きれる。
「まあそうでもないよダドリュー」
サバイブは薄く笑いながら壁の先に居る彼に視線を向ける。
それに応えるように、向こうで感傷にふけていたダドリューは振り返った。
「もし君が、こちら側にとって有益な情報を話してくれれば」
「………」
「刑期を一年にする。ってのはどうだい? もちろん。グレゴリー・ドラベルも含めてね」
その言葉を言った瞬間。
ダドリューは目を見開いた。
既に調査済みだった。ダドリュー・サモンズとグレゴリー・ドラベルは友達であり。
互いに自らの親を殺している。と。
そしてここからは俺の推察になるけど。
多分あの二人は友達なんてものじゃなく、もっと親しい“親友”だったんじゃないかと思う。
根拠は、報告書だ。
「……その話を信じていいのかぁ?」
「ああ、約束するよ。このサバイブ・ローガン……いや」
サバイブは席から立った。
こつこつと透明な板の前に立ち、胸から取り出した物を前に突き出すと共に――。
彼は初めて自己紹介を行った。
「――このサバイブ・イエーツ・ローガンが、お前と“確約”してやるよ」
サバイブ・イエーツ・ローガン。
『イエーツ大帝国』皇帝 サラザール・イエーツの弟にして。
青の騎士団、創設メンバーの彼は。そこで初めて名を名乗った。
「いいねぇ、乗ったよ」
――そこからダドリュー・サモンズが語った内容は、
すぐさまグラネイシャに向かっている一行へ届けられたのだった。