ジェローニ・エレフと言う女の話をしようと思う。
場所はノージ・アッフィー国。
とある砂漠の街にて、ジェローニは酒場で項垂れていた。
身長は小さく、お金も使い果たし、焼き酒をしながら女はカウンター席で伏せていた。
「おねーさんねーさん」
「……なに」
そんな時、名もない男がジェローニに話しかけた。
男は女遊びが好きな魔族だった。
汚い皮の防具を装備をし、
ひょろひょろとしながらジェローニの横に席に雑に座った。
意気揚々と息を吐きながら、ひょろがりの男はバーテンダーにミルクを注文し。
「なんかあったん? 話きこか?」
「あんたみたいなひょろがりに話す事なんてないわ」
男の無神経な言葉に、ジェローニは語意を強めにしながら言い放った。
だがひょろがりの男はそんなの無視し。
「つれねぇなぁ。いいじゃねぇか一杯くらい」
ぐびっ。と男はミルクを飲んだ。
ジェローニは出されたミルクを、一口だけ飲んだ。
「ナンパするなら。私以外にも女はいるでしょ?」
「それはまあそうなんだが、お前みたいな珍しい人族、何だか話しかけたくってな」
「……馬鹿にしてるの?」
「え、イヤイヤ! もちろんいい意味で言ってるぜ?」
ひょろがりの男は慌ててそう訂正する。
「あっそ、じゃあ話せてよかったじゃない。消えて」
「つれねぇしつめてぇし。その綺麗なご尊顔が可哀想だぜ」
「生憎、美しく生まれない選択肢があったなら、私はそれを選んでたわ。
でもこの世界は、不平等だから」
「それに関しては俺も賛成だぜ? 俺もどうせなら、人族に生まれたかったからさ」
男は魔族の証拠である尻尾を撫でながらそう言った。
でもなぜか、ジェローニは食い気味に言った。
「人族は美しいだけで内側は醜いわ。美しい花ほど毒があるようにね」
「そういうもんなのかい? 魔族の俺には、分かんねぇ事だな」
「人族はどうせならその内側に見合った醜い見た目をするべきなのよ」
「中々過激な事を言うんだな。そんなに人間が嫌いか?」
「……ええ、まあね」
男は少しだけ手ごたえを感じた。
どこまで行っても男はナンパが大好きな、女遊びが大好きな魔族だ。
だからこそ、今の会話で男の中では「これはイケる」と成功の烙印が押された。
「どうしてそんな人間を嫌ってんのか、聞いてもいいかい」
「別に話す程の事じゃない」
「いいーからいいから。ほれ、俺に話したら楽になるか――」
「馬鹿にしないでッ!!」
男は油断をし詰め寄るが、それをジェローニは一蹴した。
座っていた椅子を倒しながら立ち上がり。
ジェローニはひょろがりの男に対し明らかな怒気を含みながら。
「私の事を何も知らないでそんな事を言わないでよ。
知らない癖に、
知らない癖にそんな聞き飽きた優しくって毒がある言葉、私に言わないでよ!!」
「あ、え………」
言葉を言いながら、ジェローニは杖を引き抜いていた。
ジェローニは泣いていた。
悲痛の叫びを口に出しながら、ジェローニは頭に血が上っていた。
「――――」
店は静まり返った。
ジェローニの叫びのせいでもあるし。
ひょろがりの言葉の失いようでもあるし。
それに――。
「……なんだありゃ」
赤い景色が視界の端っこから見えて。
店に居た誰かがそう呟いた。
窓の外を覗いてみると。
――街が、大炎上していたのだ。
「……死の魔人が来た」
店の中の誰かが、そう畏怖した。
――――。
「――本当にこの街に居るんだよな。そのガキは」
「ひ、いい!!」
そう言いながら、その男は。
目の前で腰を抜かしていた人間を叩き潰した。
黒い何かが背中から生えていた。
ゆらゆらと揺れながら、建物を壊しながら、火を付けながら、人をちぎりながら。
「死の魔人【
死の魔人は悲しそうにそう呟き、デコに生えた二本のツノを触りながら。
黒い何かをさらに伸ばした。