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九十九話「人魔騎士団 VS 魔解放軍」~後編



「さて、後半戦のスタートだ」



 その瞬間、二人の男に続く数人の戦士が合流し。


 人魔騎士団、黒猫の復讐者リベンジャー、近衛騎士団。

 VS

 魔解放軍。

 と言う構図が生まれた。


「形勢逆転だ。魔解放軍!!」

「やあああああ!!」

「――――っ」


 近衛騎士団の騎士メンバーの強襲により。

 アーロンとアリィを抑えていた男女を気絶させることに成功。


 この奇襲から逃れるために、アデラリッサ、ダドリュー、グレゴリーは一度俺らから距離を取った。

 そして再度魔解放軍と睨み合いが始まる。


「………ちっ」


 と言っても、あちらはあちらで少しだけ話しをしている。

 作戦とかがあるのかもしれない。

 なら、今のうちに。


「サリーさん! 早く治癒を」


 そう走り寄ってきたのはアーロンだった。


「いっ……」

「弾丸が浅い所にあって良かったです」

「早く……取れ」

「――――っ」

「ア゛あっ……!」


 アーロンにより弾丸は摘出された。

 でも流石に、浅い場所にあったからと言って指でほじくられるのは痛かったが……。

 すぐさまアーロンは治癒魔法を掛けてくれて、痛みは徐々に引いていった。


「あの子は大丈夫か?」

「メロディーは今、路地裏で休ませています。一人で出てこないように言っているので」

「了解だ」


 あの女の子を安全な場所へ運べたらしい。

 それなら良かった。

 あの女、死堂を倒すことが出来たのだろうか。

 健闘を祈りたいが。

 まずはこっちから、かたずけなきゃな。


「――――」


 この状況を望んでいた。

 と言っても、願っていた方向と少しズレていたが。

 でも、これも悪くない。

 こんな最高な逆転劇に盛り上がらない観客は、絶対居ないからだ。


 ノーラン・サンライダー。

 まさか、ここでちゃんと話すことになるとは。


「……ノーラン。どうしてお前は、ヘルクの言葉を?」

「何言ってるんだいサリーくん。俺は一度たりとも、あの子を忘れた事はないさ」

「………ノーラン」


 そうだ。

 最初から関りがなかったわけじゃない。

 俺との接点が少なかっただけで。

 ノーランは同じ隊長であるヘルクや俺の事を、ちゃんと覚えていたのか。

 ……騎士団から勝手に出て行ってしまって申し訳ないな。


『君に仇を取らせてあげるよ。必ず。ね』


 でも。

 あの人の言う通りなら。

 この戦いの後に、――俺は死神と戦う事が出来る。

 あの人なら今きっと王都で情報を集めている。

 死神まで、あと一歩だ。


「ノーラン! いくぞ」

「了解だ」


 アーロンの治癒が終わり。俺は再度グレートアックスを握った。

 重く黒く輝く武器。最高級の切れ味を誇るこの魔道具で。


 魔解放軍を、ぶった切る!!



――――。



 アーロン視点。



 ダドリューの攻撃を予測できなかった、失態だ。


 あの場では正直仕方がない部分もあるかもしれないけど、でも、僕が出来る事はあった。

 だから、今は。サリーさんの怪我の分を。


「よお、ガキ」


 灰色の空気を纏いながら、僕に微笑みかけてくる男がいた。

 銃をカチャカチャと弄り終え。

 一度横に付いた棒を勢いよく引っ張りリロードをし。

 男、ダドリューと僕は睨みあった。


「借りを返しますよ。おじいさん」


 僕はダドリューに杖を向けた。

 するとダドリューは、僕の行動を見て微笑んだ。



 現在の戦況は。

 一番の壁であるグレゴリーはサリーさんとアリィ、

 そしてカサンドラと言う魔族が引きつれた人達で応戦している。

 奴隷に対しては近衛騎士団が殺さず無力化させ、アデラリッサへの道を作っている。

 アデラリッサは奴隷を壁に何かしらの攻撃準備をしているようだった。

 その攻撃を解明し、あっちに加勢するのも手だけど。

 僕は自分の仕事をしようと思う。


「全く、拳の次は、銃か」

「ノーランさん……?」


 頼もしい声が聞こえて、その次にダドリューが呟くように名前を口走った。

 僕の横に立つのは筋骨隆々で体から蒸気を纏った男

 ――王都・近衛騎士団、第三部隊:隊長 ノーラン・サンライダーだ。

 近衛騎士団、懐かしいな。

 あの時は迷惑かけちゃったけど、その時の借りも返さなきゃ。


「ダドリュー・サモンズ。お前はイエーツ大帝国、サザル王国にて指名手配されている殺し屋だな」

「おおっと。今回は最初から名前がバレてるじゃないかぁ」


 ノーランさんはまるで最初から知っていたように、そうダドリューの名前を言い当てた。


「君の手口は噂になっているよ。で、どうしてその有名な君が魔解放軍に居るんだ?」

「ただの雇われさぁ。つっても、後半からは興味があったからだがね」

「興味?」

「魔解放軍。俺はその行く先を見届けたい。そう思ったのさ」

「そうか、なら残念だな」

「……何だと?」

「お前の見たい未来は見れない。隊長舐めんな!」


「――世界のマナよ、凍てつく世界の世界樹に、その目を潰さん力を与えよ!!」


 地面が冷たくなり。魔力が杖の先に集まる。

 ノーランさんの会話のお陰で良い感じに気を逸らすことが出来た。

 だから次は、僕のターンだ。


「――――」


 だがその瞬間、


 ダドリューは僕に銃を構えた。

 長い長い銃身が僕の頭を狙い。その行動にノーランさんも剣を両手で掴み走り出す。


「おそい」


 だがノーランさんが

 銃の引き金が引かれると同じ瞬間に、


「――【連鎖魔法】氷結の樹!!」

「――【凶弾】」


 氷の木がダドリューの下から勢いよく生え、だが木が届く前に【魔法弾】は放たれた。

 青い弾道を描きながら弾は走り。

 弾が放たれた瞬間、ノーランさんは地面を蹴り上げ一気に距離を詰め。


「はああああああああ!!!」


 大きく振りかぶり。ダドリューの頭上へ入ったその瞬間。


「……ふっ」


 その微笑が聞こえて来て、全身で嫌な予感を感じ取った。


「ノーランさん伏せて!!」


 刹那、ノーランの背中の少し上に、弾丸が通過した。


「なに!?」

「最初から狙いはお前さぁ」


 僕を狙った銃撃かと思われた。が。

 やっぱり、魔法弾は厄介だ。


 魔法弾。

 緻密な魔力操作と慣れが必要な魔道具であり。

 弾の能力は完全に使用者の力量で変わる。

 それ故に使用者の魔力操作が甘ければ使いこなすのが難しく、

 逆に魔力操作が上手ければ上手い程、文字通りの【凶弾】に変貌する。


「やっぱり、銃の無効化をしなきゃ……」


 まず、銃の内部を破壊する作戦はアリィと話し、検討した。

 でも難しかった。

 理由は二つ。

 一つは銃は複雑な構造をしており。魔法干渉をする場合魔力の周りも悪く、うまく行えないからだ。

 二つはそんな小規模な魔法を行使できない事。

 仮に魔法を銃内部で発動できるとなっても。銃の機能を無効化する丁度いい魔法がない。

 以上の理由から僕は外部からの干渉を試みてる。けど。


 結果は見ての通り。


「……近づけない」


 ダドリューはノーランの背中を通り過ぎた弾丸を、自分の体を守るように旋回させながら。


「俺の【凶弾】から逃げれると思うなよぉ?」


 銃弾を放った後もある程度自由にできちゃうんだ……。

 それはとても厄介だ。

 銃を無力化させれば、と言う単純な作戦が上手くいかなくなってしまった。


 このままダドリューに弾丸を打たせ続ければ、

 ダドリューは一度放った弾丸を操作し自由に空中で使用できる。


 厄介すぎる……。


 どうやって勝つべきなんだろう。

 どうすればダドリューを無力化出来るのだろう。

 考えろ。考えなきゃいけない――。


「立派に考え事かいぃ?」

「っ――!?」


 爆音がした。

 ダドリューの凶弾が放たれ、その瞬間、


「え」

「ぼうっとする時間はないぞ少年。逃げるなら今だ」


 ノーランさんに持ち上げられ、僕は銃弾を避けていた。

 ……いいや、この感覚は。


「……ノーランさん?」

「大丈夫。かすり傷さ」


 血が、流れた。

 見た事がないくらい優しい笑顔でノーランさんはそう言った。


「かばったか。どいつもこいつも、正義ってのは人を狂わす」


 ダドリューのつまらなそうな言葉が聞こえた。

 でもそんなのより。


 僕の目の前にいる男の人が、小刻みに揺れていたことが、目に焼き付いた。


「え、ぁ。あ?」

「君はもしかしたら。強いのかもしれない。

 君はもしかしたら。勇敢で、優しく、正義を信じる者なのかもしれない」

「………」

「でもね。正しいのはいつも正義じゃないんだ」

「なにを……」

「正しいを突き詰めて人生を狂わせちゃ、ダメだったんだ。あの人は」

「――――え?」


 誰の事を言っているのか分からなかった。

 聞いていて分かったのは、僕の事じゃないと言う事だけ。

 だけど何故か、ノーランさんのその言葉で、胸が痛くなった。


 少しの沈黙の後、ノーランさんは立ち上がった。


「………」

「……」

「ごめんね。君の髪の毛が、俺の知り合いにそっくりだったんだ」

「知り合い?」

「ああ」


 ノーランさんは僕に背中を向けた。

 ずっと顔しか見えてなかったけど。

 ノーランさんの背中は、すっごくボロボロだった。

 体には包帯を巻きまくり。血が滲んでいて。痛々しくって。

 その時、本当にその時、それに気が付いた。


「さあ。なすべき事をしよう」


 ――なんてかっこいい背中なんだろう。


 とても輝いて見えた。とても頼もしく思えた。

 ボロボロで血が滲んでいるのに、その背中が、凄い物に見えた。

 全て任せてしまっても良いような、そんな背中だった。

 でも。

 ご主人様と約束したんだ。


「……戦わなきゃ」


 僕はこれで良いのだろうか?


「………」


 言い訳が、ないだろ。


「僕の名前は!! アーロン・ジャック! 人魔騎士団の構成員で」


 始まりは唐突だった。

 鬱憤とした毎日が突然終わった。

 その男の人の声で、全てが変わった。

 髪の毛を引っ張られた時、僕は夢中で観客に居た人に視線を向けた。

 助けてほしいと無意識に思っていたのかもしれない。

 その時の僕は思えば、何も考えていなかった。『無』そのものだった。

 でも、心の底、封印したその感情が。

 その時、少しだけ顔を出したんだ。

 そして思った。


 ――『たすけて』と。


「ケニー・ジャックの子供で、トニー・レイモンの親友で、カール・ジャックさんと友達で」


 過去も全て受け入れた。

 今なら。本当の意味で、前を向いていける気がする。

 過去に囚われる僕から、解放される。

 そう。

 これは僕の原点。オリジンだ。


「人を守るヒーロー。それが僕! アーロン・ジャックだ!!」


 静けさが走った。

 僕の心からの叫びが、その沈黙を生み出した。

 シンッとした空間が響き。

 その場にいた足が止まった瞬間。


 ノーランさんから、一滴の汗が地面に落ちたとき。


「――【魔法】」

「――【剣技】」

「――【凶弾】」


 三人のセリフが重なった。


「――ブリーズ!!」

「――絶空剣」


 ダドリューの弾丸が銃身から打ち出される前、僕らは叫んだ。


 僕はブリーズで空気砲を右手の平から出すようにし。

 思いっきり腕を右側に突き出し。

 風を発射。その勢いで体を左側へ移動させる。

 風の威力は魔力の調整でどれだけも大きく出来る。

 それはさっき、風を誘うペンダントで知ったことだ。

 もしそれが出来るなら。


 僕は今まで、風の力を自由に動かす練習をしてきた。


 最初に使えた魔法だったんだ。

 だから大好きだった。

 だから、僕の中でこの魔法が特別だった。

 だから、ずっと、練習していた。


 初級魔法【魔法】ブリーズは、僕にとっての、第二のターニングポイントだ。


 風の使い方なら僕の方が上。

 だからこそ僕はこの風を使い。自由に――。


 左に逃げた後、僕は真下に腕を突き出し。

 下に向け風を放った。


 飛行、までは行かない。

 でも強い風で自分の軽い体を浮かせるくらいなら出来る。


 そうだ、名前を決めなきゃ。


「――【上級連鎖魔法】空を駆ける跳躍グラビテーション


 僕は3メートル程浮き、風で服が揺れながら弾丸を避けた。

 その一瞬、少しだけダドリューの視点が僕の方へ向き。


「な、に!?」


 驚いたようにしていた。

 それはそうだ。飛ぶ魔法なんて聞いたことがない。

 でも、もちろん、その一瞬をノーランさんは見逃さなかった。


「はあああ――ッ!!!」

「っ、小癪な!」


 ダドリューは再度銃を構えなおす。

 ノーランさんの方へ向ける瞬間、僕は気が付いたことがあった。

 だから僕はそれを実行した。


「――絶空剣!!」

「――っ!!!」


 ダドリューはノーランさんの剣撃をギリギリで避けた。

 その刹那、ダドリューはトリガーに指をかけ。

 大きな音を鳴らしながら。


「――ッ!」


 引き金が引かれた。

 空気を歪める弾丸が発射され、音が割れ耳に入った。

 銃弾が銃身から飛び出て、青色のオーラを纏いながらノーランさんへ迫る。

 ――弾丸が見えなくなった。


「……なに?」


 ノーランさんは地面に着地し、何が起こったのかと瞠目する。

 左右と周りを見て、そして最後に正面を見る。

 そこには敵であるダドリューがお腹を押さえながらうずくまっていた。

 そこでノーランさんは、やっと気が付いた。


「君がやったのか?」


 と、空中から落ちて来て着地に失敗した僕に問う。


「……ノーランさんが攻撃した一瞬。魔法弾の魔力が途切れた様に見えたんです」

「………」

「賭けでした。でも、成功した。

 その途切れた瞬間を狙って、魔法弾の制御権奪ったんです。

 だから、着地に失敗してしまいました」


 そう冗談めかしく言ってみたけど、ノーランさんの顔色はあまり変わらなかった。

 青い顔をしながら。震えながら。


「……まさか」


 だから僕は、自分から言った。


「こうするしか、なかったんですよ」


 ダドリューの魔法弾はある意味『諸刃の剣』だった。

 魔力で操作する魔法弾は魔力操作の上達度に依存する。

 その操作が上手い方が、魔法弾を初っ端からある程度動かせるのだ。

 そうだ。そうだった。

 僕はずっと、風魔法で魔力の調整をしていた。

 何故なら風魔法は魔力の調整によって威力が変わるから。

 だから僕は。

 そっか、そうだったんだ。

 あっはは。


「僕は、勝ったんだ……」


 ダドリューに弾丸を一撃食らわせ、致命傷を負わせたアーロンは。

 少し嬉しそうに、

 いいや、

 本当に嬉しそうに笑った。












 これが、『白の魔法使い』


 【魔導卿】アーロン・ジャックの初陣だった。



――――。



 サリー視点。


「フンガ――!」

「避けてサリー!」

「くっ」


 アリィの必死な声が聞こえる。

 だから俺は即座に反応し、グレートアックスで地面を叩き衝撃波で後ろに下がった。


 グレゴリーとアデラリッサは手ごわかった。

 グレゴリーは体格は勿論。

 その技や戦い方は対多人数戦を得意としている様だった。

 それと同じようにアデラリッサは奴隷達を使い。

 何やら時間を稼いでいる様に見えた。

 一番の壁がグレゴリーなのは変わらないが、今とにかく対処すべきことはあの女だろう。


 さっきグレゴリーが滑らした。獣使いのアデラリッサと言う言葉が気になる。

 もしその言葉が、【召喚獣使い】と言う事を指しているのであれば、

状況は最悪だ。


 召喚獣はまだグラネイシャには浸透していない魔法だが。

 聞くところによると、出てくる『神獣召喚獣』はランダムであり。

 一番弱い神獣でも村を破壊するほど手ごわいらしい。何せ図体がでかく硬いからだ。

 獣と言われるように人間と戦うとなれば神獣の方が上。

 それに魔法を行使する神獣もいると聞く。

 とにかく、奴隷の壁を突破したいが。


「あぶね」

「ヨケタカ!」


 俺は今動けない。グレゴリーを抑え込めるのは俺か、ノーランくらいだった。

 ノーランは今ダドリューの対処に向かっている。

 だからしばらくはグレゴリーを俺だけで食い止めなきゃいけない訳だが。


「カサンドラ! 状況は!」


 緑の巨体と距離を取り。

 俺は大きな声でそう聞く。


「奴隷の数が一向に減らない。

 数の力と言う物を嫌と言う程押し付けられている気分だ」

「アデラリッサまでどのくらいだ?」

「まだまだだ。弱い人間を怪我させず無力化が難しい!」


 やはりそうなのか。

 手加減が難しいのだろうか。

 まあ俺も同じことで壁にぶつかりそうだし。

 どうするべきか……。


「フンガ!!」

「っ!」


 グレートアックスを使いグレゴリーの棍棒を受け止める。

 どこからともなく取り出した棍棒を振り回しながら、俺とアリィを苦戦させていた。

 アリィも疲れ始めている。

 魔法がグレゴリーに対し、一番の有効打になる可能性を持っている事は確かだ。

 だが、この緑の巨人は固かった。

 魔法が効かない訳じゃない。でも、炎で炙っても怯まず、氷で凍らせても氷を破壊する。


「まるで破壊王ブレイクキングだな。なんの魔法も効かないとか、無敵なんじゃないのか?」

「フンッ。良ク言ワレルサ――ッ!!」


 グレゴリーの棍棒が空気を切り。

 砂埃が勢いよく舞い上がった。

 服を砂で汚しながら、死線を全身で感じていた。


「――【巨拳ビッグ・シンドローム】!!」


 その瞬間、グレゴリーは俺が地面に足を付ける瞬間に拳を振り下ろした。

 ズッ。と地面が揺れ。緑の波動が走り。

 俺は自分の武器、グレートアックスを地面に刺しその上に足を乗せ耐えた。


 この攻撃はグレゴリーの技だ。

 この攻撃が来るときは大きくジャンプをしなければ、足先からその振動をもろに喰らう事になる。

 喰らうとどうなるか。

 それは全身に強い振動が響き、

 しばらく痺れて動けなくなってしまうのだ。


 魔法とはまた違うが。

 拳の衝撃と共に魔力を流すことによってさらにパワーを増幅させている。

 力技はやはり、ゴブリンの専売特許と言う訳か。


 だが、俺の武器グレートアックスはその攻撃の干渉を受けない。

 何故なら。魔道具系の武器は基本的に魔石を混ぜつつ作られている。

 この武器は今、俺に魔力共鳴している。


 だからこそ、違う人間の魔力に共鳴しない。

 魔石には特性がある。

 それは触れている人間の魔力を増やすのと同時に、

 魔石には人の感情や物理的パワーに共鳴し。その場で進化する。


 それが【魔道具】の真骨頂。

 要するに。


「……ハハッ、玩具ガ光リ出シタナ」

「ふん。俺はまだまだ、倒れる気は無いぞ」


 黒曜石が輝きだし、魔道具グレートアックスは紫の炎を纏い始めたのだ。

 これが第一段階。【魔剣】フレイム・グレートアックスだ。

 魔剣とは、進化した魔道具の事をそう呼ぶ。

 俺の感情変化と熱の入り具合で変化する武器。



「はあああああ!!」


 一連撃。

 グレートアックスを大きく振りかぶり、上から下へと振り下ろす。

 だがその一撃をグレゴリーは棍棒で防ぎ、

 その衝撃でグレゴリーは少し後ろに飛ばされる。

 そこにすかさず、


「ていやあああ!」


 二連撃目。

 棍棒で防がれた後、上から下へ振り落とした力をそのまま利用し、俺は一回転する。

 そしてもう一度、上から下への振り下ろし攻撃。

 紫の炎が縦の円形を描き。紫の斬撃がグレゴリーを襲う。

 だがグレゴリーは怯まず。


「マダマダ――ッ!!」


 棍棒を大きく空中で振り。

 空気を揺らしながら小さな強風を作り出す。

 斬撃はその棍棒攻撃に打ち消された。


「光ッタ所デ、ソノ程度カァ!!」


 グレゴリーの大きな咆哮に耳が痛かった。

 流石にそこまで防がれるともう攻撃が出来ない。

 俺は腰を地面に付け、荒い息を整えようと深呼吸をした。


 茶髪が見えて、水色の服が俺の横から顔を出した。


「大丈夫ですかサリーさん!」


 俺の横からアリィが顔を出した。

 そしてすぐに杖を構えて。


「ごめんなさい。これしか、出来なくって」

「……ふん。魔法が効かない相手なんだ。仕方がない」

「――【魔法】ヒール」


 少しづつ体の疲れが取れる感覚がする。

 ふんわりとした安堵感が全身を包んで、でも、まだ安心できるわけがなかった。


「サリーさん。小耳で聞いてください」

「……」

「もしかしたらの戦略があるので、聞いてもらいたいのですが」



――――。



 グレゴリーは待っていた。

 巨体な体で座りながら、棍棒を地面に置きながら。


「待ってくれたのか?」

「当タリ前ダ。俺ハ自分ノ行イニ責任ヲ持ツ事ガ出来ルカラナ」

「どういう事だ?」

「マァ、オ前ナラ分カッテクレルト思ッタンダガナ」

「……?」


「さて」


 グレゴリーは起き上がった。

 その巨大な棍棒を持ち上げながら。


 雪が降っていた。

 白く滑りやすい台地に、一部分だけ雪が全て無くなっている場所があった。

 何故ならそれは、単純にグレゴリーの巨拳ビッグ・シンドロームのせいでもあるし。

 サリーのグレートアックスが進化したからでもある。

 そう、二人の周りだけ雪がない。

 その雪がないエリアが、二人の間合いなのだ。


「――――」

「――――」


 ――抜刀。

 棍棒を振りかざし、グレートアックスが紫の炎で線を描きながら進む。

 走り出し、棍棒とアックスを構えた二人が一斉に地面を蹴り上げた。

 二人の射線は交差し。空中でグレートアックスをサリーは振りかぶった。

 同時に、グレゴリーも棍棒を構え――。


 その一瞬、サリーのグレートアックスの方が一足早く振り下ろされ。

 グレゴリーは止む無く棍棒を頭上に構え、サリーの振り下ろし攻撃を棍棒で受けた。

 衝撃波が走った。グレゴリーは地面に叩きつけられ、背中を地面に強打する。


「はあああああぁぁぁ!!」


 サリー・ドードは二連撃目を自重で落ちるスピードを利用した、

 重い一撃にしようと血気迫った顔で振り下ろした。


 もちろんそれを理解したグレゴリーは棍棒で防御態勢を取る。

 地面が背にある状況を変えることは出来なかった。

 なんせ体がでかいから、起き上がるのにも時間が掛かるのだ。

 だからこそその場で攻撃を耐える選択をした。


 だがそれが間違いだった。


「――世界のマナよ、荒れ狂う大地を、もう一度揺らし給え」


 茶色の光がアリィの杖を覆った。

 魔法には属性がある。


 火 水 風 土 光 闇の五つだ。


 その中で土魔法は種類が少なく、農業などに使用される魔法。

 だがアリィはそれを地面に放ち。そして――。


 ――自分が出来る最大限の魔力を注いだ。


「――【魔法】地響き!!」


 刹那、地面が大きく揺れ。

 その振動が背中を地面に密着させているグレゴリーに届き。


「ッ!?」


 その振動によりグレゴリーは体の重心を失った。

 グラッと揺れたと同時に、グレゴリーの全身の力は抜け。

 その瞬間――。


「はああああああああああアアアアアアアアア――ッ!!」


 紫の斬撃と共に巨大な刀身が棍棒に叩きつけられる。

 叩きつけられた瞬間、ゴワッと土がせり上がり。周りの雪が吹っ飛び。


「――ナ!?」


 棍棒が真っ二つに切られた――。


「サリイイイー!!」

「――油断したな。グレゴリー」


 巨大な男の体が揺れ、巨大な拳が上に伸びた。

 それは緑のオーラを纏い。勢いを増し放たれた。

 【巨拳ビッグ・シンドローム】をサリーに放ち、

 グレゴリーは上空から落ちてきたサリーにカウンターをしようとするが。


 ――そこで気が付いた。手遅れだったと。


「ナ、ナ!?」

「これでぇ、おしまいだあああぁぁぁあああ!!」


 【魔剣】フレイム・グレートアックス。三連撃目。

 紫の炎が大きくうねり。空気が揺れ、圧がのしかかり。

 ――大きな爆音が、その場に響いた。


「――【剣技】堕天突――ッッ!!!」


「――【巨拳ビッグ・シンドローム】!!!!」



 轟音と共に砂と雪は津波の様に吹き飛び。

 地面は揺れ、空気が割れ、技が同時にぶつかり合った。



――――。



「……ア?」

「あんま動くな」


 俺は緑の巨体に、ヒールを掛けながら言った。

 まだ戦いは終わっていない。

 横へ視線を動かせば、そこでは奴隷と近衛騎士団と黒猫の戦いが続いている。

 でも俺は、その外れで。


「ナンノツモリダ」

「ふん。見れば分かるだろう」

「………」

「……」

「ハッ、オ前モ存外ナリ切レナイナ」


 男の腕は切れていた。

 当たり前だ、刃物と拳で刃物が負けるわけがない。

 痛々しい傷を俺は魔法で治していく。

 治癒くらいなら俺でもできる。

 だからアリィには他の加勢に行ってもらった。


「仲間の命が大事なら、なんで魔解放軍に来たんだよ。グレゴリー」

「……別ニ、タダノ付キ添イダヨ」

「付き添いね」


 グレゴリーに戦う意思はなかった。

 戦意は既に抜け落ちていた。

 そこにあったのは、ただの落ち着いた優しい顔のゴブリンだった。


「そんなにダドリューの事が大事なのか」

「当タリ前ダ。俺ノ、唯一ノ友達ダカラナ」

「そこまで似た者同士だと、何だか気持ち悪いな」

「……オ前モ、ソウナノカ?」

「俺の場合は守れなかったさ。だから今、俺は一人だ。お前にはせめて俺と同じにならないでほしい」

「………」

「友の命を守れ、お前は人を殺すのに向いていない。だからナターシャに負けたんだろ?」


 思えば、グレゴリーは本気で人を殺すつもりなら最初から俺を殺せたはずだ。

 巨体な体にその怪力。手加減をしないと、簡単に人を殺せるレベルの筈だ。

 そんなグレゴリーは俺を殺さなかった。

 薄々感づいては居た。

 やはり、そうだったんだ。


「アデラリッサを止めてくる。お前は、そこで友の帰りを待ってやれ」


 俺はあらかた治癒を終え、魔道具グレートアックスを持ち上げながら言った。


「無事ナノカ?」

「当たり前だ。アーロンは人を殺さない。人を生かす子だ」

「……ソウカ」


『-高位の存在にして冥界の獣よ。信じ堕ちた人間の導きにより現世に降臨し給え-』


 そんな詠唱が響き、地面全体に淡い光が灯り始めた。

 地鳴りが鳴り。黒くなり。結界が展開されるように、空が青白くなり。


「アデラリッサハ、手ゴワイゾ」


 背後で、グレゴリーはそう呟いた。


「見れば分かる。でも、誰かがやらなきゃいけないんだ」

「……オ前ハ、強イナ、サリー・ドード」


「凱旋だあああぁぁぁ――ッ!!」


 太い声でそんな大声が響いた。

 男は大剣を大きく振り、瞳を輝かせながら。

 黒猫の復讐者、カサンドラ・ウーマは突撃をした。

 その先、霧が立ち込めたその場所で、影から始まり現れた巨大な怪獣は。


「グッ、ガアアアアアアアアアアアアア!!」


 耳が痛くなるような悍ましい爆音が鳴り響き、同時に霧が勢いよく晴れ。

 そこから現れたのは。


「黒龍か……」


 漆黒の羽を広げ、長い口からは炎が覗き。

 全長17メートル程の怪物『黒龍』はその場に顕現した。

 恐ろしい威圧感が広がり。みんなは一瞬だけ委縮した。

 だが、


「サリー、最後ニ一ツダケ」

「なんだ」

「オ前ノ相棒ハドンナ奴ダッタンダ?」

「そうだな。言うならば……」


 俺の相棒。ヘルクはどんな人間だったのだろうか。

 思い出そうと思えば色々出てくる。

 あいつは多彩で、絵も描けて文字も書けて剣を振れて陽気で。


『俺記憶が無くってさ。だから自分が何者だとか分からない。

 でも、目覚めた時から、ずっとお前の事を探していた気がするんだ』


 記憶が無くっても、お前はお前だったよ。


「ずっと、俺の事を笑顔にしてくれる存在だったよ」

「……………ソウカ、同ジダナ」



「――……トウ。サリー」



 最後に呟いたそんな言葉を、サリーは聞き取れたのか分からなかった。

 だが、少なくとも、サリーは今笑っていた。



――――。



 大きな爆音が鳴り響き、巨大な影が霧の中で巨体を動かしながら火を噴いていた。

 一度火を噴けば空気は揺れ。一歩進めば街を破壊する。

 そんな“破壊神”相手に、戦っている人間が居た。


「うおおおおおおお!!」

「止まれえええ!!」


 カサンドラ・ウーマとサリー・ドードは口を大きく開け叫ぶ。


 互いに巨大な武器、

 【魔道具】グレートアックスと

 【魔道具】五月大剣サツキタイケンを振り。

 その巨大な神獣に対抗していた。


「鱗が硬すぎる……」

「こっちにも手を貸してくれ!」

「負傷者だ! 運べ!!」


 総勢21人が戦闘へと参加していた。


 神獣【黒龍】はアデラリッサが呼び出した召喚獣だ。

 当のアデラリッサ本人は術式の構築に力を掛け過ぎたのか、

 召喚後はそのまま気を失っていた。


「こんな巨大な敵、初めて戦うな」

「サリー殿はこのくらいの敵初めて見るのか?」

「お前みたいに冒険者をしていた訳じゃないからな」

「ノージの方行けば、意外とこのくらいいるぞ」


 雑談、と言う訳じゃない。

 だが誰かと話していなければ、少しビビってしまうと言うのが本音だ。


 黒龍は討伐難易度『SSS級』。

 S級パーティーが5つ程揃わなきゃ。

 勝てないと言われている。


 そんな相手に、俺ら21人は首の皮一枚の状態で戦っていた。


 アデラリッサも最後の力を振り絞り、とんでもないバケモノを召喚したな。

 召喚はランダムな筈なんだが、俺らも大概悪運が強いって訳か。


「――【剣技】堕天突!!!」

「――【剣技】雅楽!!」


 紫の炎が広がり、同時に黒色の斬撃が大剣から繰り出される。


「ガアア!!」


 効いている様だった。

 黒龍は大きく揺れ、足元を崩しながらもう一度叫んだ。

 ここぞとばかりに他のメンバーが追撃を仕掛ける。


「しっぽに気を付けろ! アメリアとハイネのチームは炎攻撃のタイミングを見極めてくれ!」

「了解です!」

「りょ、了解ですぅ!!!」


 走りながらそう背後にいる人間へ指示をする。


「指揮を任せてすまないなカサンドラ」

「気にするなサリー殿。俺はこれでも、S級冒険者だ」

「そりゃ、心強い、な――ッ!!」


 しっぽの大振りを回避し、巨大な体の下まで二人で走り込んだ。

 黒く硬そうな鱗が目の前にある中、俺たちは互いの装備を構え。


「――【魔剣】フレイム・グレートアックス!!」

「――【魔剣】終結大大剣!!」


 紫の波動が広がり。ゴゴゴと言う音と共にカサンドラの大剣の刀身は4メートル程伸びた。

 二人は飛び上がり。大剣は勢いよく下へ振り下ろされ。

 グレートアックスは回りながら黒龍の背中を切りつけ走る。


「ガアアアアアアア――ッ!!!」


 黒龍からは鱗を突破出来た証である赤い血が吹き出し、大きな悲鳴を上げる。

 それを横目に男たちは黒龍に攻撃を続けた。


 背中を切り刻み、鱗を突破出来た。

 俺のグレートアックスに関しては少し不安だが。

 少なくともカサンドラの【魔剣】は鱗を切るほどの威力を持っている事が分かった。


「今だッ! 傷口に叩き込め!!」

「――【魔法】!!」

「――【剣技】!!」


 その場にいる21人がそれぞれの役割を果たしながら黒龍へと攻撃をする。

 皆がそれぞれの得意分野を理解し、誰かの為に体を動かしている。

 だからこそ成しえる技。力。

 本来難しい筈の黒龍討伐の可能性を見出している最大の理由が、それだった。


「炎攻撃!!」

「来ます!! 避けてええ!!」


 黒龍が大きな口を開き、目が一瞬光り輝いた。

 女子二人の叫びにより一斉にみんなが黒龍から距離を取るが。


 ――黒龍の正面に滑り込んだ人影が二人あった。


「――【魔法】絶対零度!!」

「――【上級連鎖魔法】煉獄疾風フレイム・ウィンド!!!」


 氷で黒龍の足元を凍らせ、同時に自分たちの背中に氷の壁を展開させたソーニャ・ローレット。

 氷のアシストと共にその少年は杖を上に構え、刹那、炎の光線を放ったアリィ・ローレット。


「ガラララッラッラッ――ッ!!」

「押ぉし戻せえええええええぇぇぇぇ――ッ!!!!」


 瞬間、黒龍のブレスとアリィの魔法が正面から衝突。

 炎の光線とブレスはぶつかり合い。その衝撃波で近場の家は吹き飛んだ。

 だがその衝撃波を耐える様の氷でもある。

 氷に背中を付けながら、アリィはらしくない程口を大きく開けて――。


「はああああああぁぁぁァァァアアア゛ア゛――ッ!!」


 喉が壊れるほどの絶叫が響き、その瞬間、

 黒龍のブレスを破り、アリィの煉獄疾風フレイム・ウィンドは黒龍の下顎を貫通した。


「グガァ、アアア……」

「怯んでいる! 総攻撃だぁ!!」

「「うおおおおお――ッ!!」」


 魔法や剣技。全てが黒龍へ叩き込まれる。

 黒龍の表面には火花が散り。爆発が頻繁に起こっていた。

 黒龍の背中には騎士が飛び乗り、各自、鱗を剣を殴っていた。


 中央都市アシリアの南中央街道は半壊していた。

 巨大な黒い竜の唐突な出現により。現場は騒然としていた。が。

 それは恐怖ではなかった。勝利だ。


「――【剣技】絶空剣!!」

「ノーラン隊長!! ご無事でしたか!」


 黒龍の背中で攻撃している中、一人の男が背中へ飛び乗って来た。

 その男は半裸で、筋骨隆々で、疲れている筈なのに全然まだいけると言う顔をしながら。


「楽しそうな事してるじゃないか! 俺も混ぜろ!!」


 ノーラン・サンライダーも加勢し。

 その戦いはさらに激化した。


「炎きます!!」


 外れた顎で黒龍は火を噴こうとしていた。

 だがうまく調整出来ていないのか、炎が口から少しづつ零れてきた。

 大きく口を開き、黒龍は目を光らせた。

 その瞬間。


「――世界のマナよ、無垢な聖水を生み出し、絶対零度の力を与え給え」


 青い光を発しながら、巨大な水の雫が黒龍の目の前に生成される。

 それを横目に、男三人はそれぞれの武器を持ち上げ。

 振りかざし。


「――【剣技】堕天突ッッッ!!」

「――【剣技】終結大大剣・満月ッッッ!!」

「――【剣技】絶空魔剣・荒切りッッ!!」


 紫の衝撃波が黒龍の頭に落ち。

 刀身が長い大剣が脳天に突き刺さり。

 26連撃の最速技が黒龍の目を潰し。




「――世界のマナよ、業火な炎を立て、赫怒の発色を零度に注ぎ給え。

 ――その際生まれるエネルギーを大気に流し、空を、紅い物に変え給えッッ!!!!」




 白髪の少年が、笑顔で叫んだ。


『――必殺を必殺としない――』


 やっと、この技が有効打の敵が現れたと、微笑んで。


「――【上級連鎖魔法】エクスプロージョン!!!!」


 刹那、巨大な重低音と共に融合したそれは。

 一直線に、線を描くように黒龍の頭に向かって発射された。


 ブレスが出る隙も無く、

 黒龍はアーロンのエクスプロージョンによって、

 討伐された。





 この戦いは、“黒龍と龍王達の戦い”と未来に呼ばれた。










 その時、中心エリア『アリシア像』は。



 黒い海に沈んでいた。



――――。




 ケニー視点。






 余命まで【残り●▲■日】




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