目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
九十五話「決戦」


 終わり。と言う物を信じていない訳じゃない。


 俺からしたら、それは常に身近なものだ。

 余命がある俺にはそれが当たり前だった。

 でも、それ以外で。

 とにかく激しく、終わりを感じた瞬間が。その時あった。


「やあ、ケニー・ジャック」


 黒髪で赤い瞳をした男が、俺を見下すように、その場に立っていた。


「――俺の名前はケニー・ジャックだ。次こそ、お前を許さない」

「――前より威勢がいいじゃないかぁ、行くぞ」


 それは運命だったかもしれない。


―――――――――



「……」

「………」


 俺はヴェネットにテントの外でそう告げると、ヴェネットは少し顔を赤らめた。

 何だかついさっきから、こいつの人間的な表情とかをよく見るな。

 機械みたいな変な奴って思ってたから。

 いいな。こうゆうの。


 人は人らしくしている時が、一番輝いている。


「とにかく」


 すると、顔を擦りながらヴェネットは立ち上がった。


「今はアーロン様を探すのと、この結界を破る事を考えましょう。

 それを目的にして、わたくしたちは今ここで同盟を結んだと」

「まあそうゆう事にしてやるよ。よろしくな」


 同盟ね。

 まあ前みたいに、殺しあう関係じゃなくなっただけ言っちゃえばマシか。

 それに彼女は情報を持っている。

 魔解放軍の内部の情報を、彼女は持っているのだ。

 利用価値もあるし、仲間にするメリットも多い。

 戦闘面でも優秀なのは知っているしな。


 さて、現状を打破する為に行動へ移そう。


 まず俺らが始めたのは周囲の探索だ。

 ここはどうやら、現実世界の噴水広場と酷似した別空間らしい。

 現実との違いは、サーカスのテントや屋台らしい。

 一緒に回ったりしていたが。少しだけヴェネットが体調悪そうにしてたりしてた。

 結界内は空間が常におかしい感じがするからな。酔うとかあるのかもしれない。


「歩けるか?」

「だ、大丈夫ですわ。少し、昔を思い出しただけで」


 昔を思い出したか。

 あるよな。そうゆう事。

 俺も良くあって考えこんじまうよ。

 そうゆう事なら、あまり触れない方がいいだろうな。

 俺は探索をつづけた。




 結界内の噴水広場で、探索して分かったことをまとめようと思う。


『・ある程度行くと、現実世界に無かった建物などで道が塞がれている』

 つまり、噴水広場から出る事は出来ない。と言う事だ。


『・広場内のテントの数は3つあり。どれも入口には鍵が掛かっていた』

 大きなテントが3つあり。全て入口は南京錠で閉められていた。

 鍵穴があったから鍵で開けるんだろう。

 また後述するが。多分今回はこのテントが攻略のカギになっているらしい。


『・結界内の、幻術で作ったと思われる物はいずれも触ったり持ち出すことが可能』

 例えば、適当に置いてあったピエロの人形は持ち上げると重いし、

 それを持って他の場所へ置くことも出来る。そして最後の項目へつながる訳だ。


『・ヴェネット以外の人を見つける事は出来なかった』

 どこを探しても、サリーやアーロンは居なかった。

 ……心配だ。


『・探索中、2つの鍵を発見した』

 一つはベンチの真ん中に放置されており。鍵には001と記されていた。

 二つ目はヴェネットが発見した。

 なんと先ほど実験の為に持ってきたピエロの人形の……。

 ケツの穴に入ってたらしい。

 なんて下品なんだ。

 そんな場所に鍵を隠すな。

 ちなみに、鍵番号は004だ。


「状況を考えるに、この鍵でテントを開けるとかなのか?」

「状況で言うならそうじゃないかしら」


 多分、最後に見つけた鍵番号が004だったから。

 少なくとも002と003が存在するのだろう。

 だが、それを探す前に考察をしようと思う。


「ケニーはここに来る前のアナウンスは覚えているかしら?」

「あー。なんだっけな」


 確か。


『第一ステージクリアおめでとうございます』

『次は、第二ステージ。

 嘘か真か、何を信じるか裏切るか、

 正解はすぐそこにあるかもしれないし、それは不正解かもしれない』

『存分に狂い迷い。狂乱一色の世界へ堕ちて行きなされ』


「だったよな。意味あるのか?」

「意味はある筈よ。意味が無かったら、そんなアナウンスいちいちしないわ」


 ……言われてみれば確かにそうだな。

 ティクターの性格とかあまり知らないが。

 わざわざアナウンスがあったと言う事はそれがヒントとかだったりするのだろうか。


「嘘か真か、何を信じるか裏切るか」

「正解はすぐそこにあるかもしれないし、それは不正解かもしれない」


 つっても、この言葉の意味を考えてみるも何かパッとアイディアが出てくるわけでもない。

 このアナウンスがヒントだとしても、何になるのだろうか。


 例えば、もっともらしい正解があったとしても、それは不正解かもしれない。

 と言う解釈にしてみよう。

 今で言うなら、もっともらしい正解は鍵でテントを回る事だ。

 だが、もしかしたらそれが不正解かもしれない。

 正解の道は他にあるのかもしれない。とか何だろうか?

 結構いい線いってるんじゃないか? まあ、分からないけど。


 と言うか、テントの数は3つなのに鍵が004まであるのもおかしな点だな。

 もしかしたら。鍵の番号が嘘、フェイクで。それを信じるか疑うかとか。


「……考え出すと、頭痛くなるな」

「そうですわね。でも、わたくし何となく分かった気がします」


 真剣な顔をして考えていたヴェネットはそう言った。


「お? 聞かせてくれ」

「これ、考えすぎちゃダメなんじゃないんですの?」

「……と言うと?」

「きっとケニーは今、色んな可能性を考えていたと思います。

 が、それが全部嘘で、最初から踊らされていたなら」


 ん? どうゆう事だ。


「だから。考えれば考えるほど、

 目の前にある物だけで正解を考えるほど、この攻略は難航する」

「……なるほど」


 つまり、ヴェネットが言いたいのは。考えれば考える度に分からなくタイプだと言う事か。

 結局の所、鍵もテントで開かないかもしれないし。

 開くために鍵を探したり。その度に005とか010とか上の数字が出てくる可能性もある。

 何ならこんなけ、ギミックありげの感じを見せているが実際は正解なんてないのかもしれない。

 これは最初から罠だったんだ。


 つまり、全てはミスリードで。もっと正解は簡単と言う訳だ。


「お前、良くそう思い至ったな」

「いえいえ。昔居た所が、ティクターと同じくらい意地悪だっただけですわ」


 あれ、でも。

 言っちまえばこの決断もミスリードの可能性もあるな。

 ………。

 ダメか。考えすぎるのは。


「じゃあ、何も考えずに出ようとしてみるか」

「そうしましょう。出来るだけ頭を空っぽにしていきますわよ」


 お、おう。意外と難易度高いけどな。


 と言う事で、俺は頭を空っぽにしてみることにした。


「………」


 頭を空っぽと言われてもそれは難しい事だ。

 えっと、どうすればいいのだろうか。

 瞑想とかそうゆう感じなのだろうか?

 瞑想、やったことねぇ。

 と、とりあえず何も考えずに移動してみるか。


「………」


 これ、どうなるんだ?

 おかしいな。これってただ思考を放棄しているだけなんじゃね?

 いや、ダメだダメ。

 ちゃんと頭を真っ白にして、無になって――――。




































「あ」

「……嘘ですよね?」


 目を開くと、そこは知らない空間。

 ……いいや、テントの中だろうか。

 赤と白の布が壁になっており。天井は高く、相手からは10メートル程離れていた。

 相手、そう。10メートル先にその男は座っていた。


「マグレで突破できるとは、なかなかの強運ですね。ケニー・ジャック」


 と、奥の椅子に座っている。

 黒い男は言った。

 ……少し困った顔をしながら言っていたと思う。


 あれ? 俺、何した?

 た、確か。何も考えずに壁に突っ込んで……。

 え? それが正解……?


『だ、第二ステージクリアおめでとうございます』

「……それ、お前が言うの結構屈辱なんじゃねぇか?」

『……ええ、今から始まるのは最後の晩餐。狂乱一色に踊り、狂い。そして負けてくださいませ』

「………」


 なんか、ごめんな。

 その。うん。

 言葉なくすよこれ。

 いやでもこれが多分正解だったんだろうな。

 これは、ヴェネットが居なきゃ騙されてただろうし。

 まさか俺のマグレで正解の道を見つけるとは思ってなかったけど。


「さて、やるか」


 目に力を入れ、その敵を視認する。

 相手は一人の男、その男は巨大なサーカス場の、俺の目線先にある玉座に座っている。

 そしてここ、――まるで闘技場の様になっている。

 俺は闘技場の中心、一階部分で吹き抜けになっている場所に立っていて。

 その男は三階の特等席っぽい場所で俺を見下ろしている。


 そいつは顔が黒く、塗りつぶされているような風貌だった。

 黒く、疼き、回り、渦巻き。

 その闇を見つめれば見つめるほど。俺は引き込まれていく気がした。

 ――『カオナシ』あれがティクターの本当の顔なのだろうか?


『さあ! 今宵は異色の豪華キャストが勢ぞろい! 

 暴れて狂って流して叫んで! 存分に、楽しみましょう!!』


 そのアナウンスと共に。

 一気にテントの照明が点灯した。

 照らされた事で現れたのは巨大な異形なモンスターが、

 黒いオーラを纏いながら液体音を鳴らしていた。


「なんだ……これ」

「色んな生物のミックスですよ。

 負の感情を収束させ、粘土の様に、零れないように作った作品です」


 玉座に座りながら、ティクターはそう解説してくれた。

 お、おう。解説どうも。

 ミックス? 混ぜたとかそうゆう意味かよ。

 確かに見た目はそんな感じだな。キメラ的な。

 そんな事が可能なのかよ……。


「ティクター。お前、そんなサイコ野郎だったのかよ」

「あなたもあの店員さんとそうゆう関係でしょ?」

「あれは演技だ!!」


 あれは時間を稼ぐための演技だったんだ……黒歴史を深堀するな。


 ぐるぐると、形容出来ない生物。

 人間の腕が一本、犬の腕が一本、昆虫っぽい足が一本、魔物っぽい頭が二個。

 うっわ。きめえな。

 こいつが最初の敵か。


「どこまで戦えるかな……」


 ヴェネットはどこに行ったのだろうか?

 まさか俺が壁に入った事、気づいてなかったりするのだろうか?

 こりゃ、とんだ誤算だ。

 戦闘面で言えば俺よりヴェネットの方が上だ。

 どうにかして、ヴェネットを呼びたい所だが。


「スタート!!!」


 その合図と共に、俺の目の前のクリーチャーは不気味な笑い声を出しながら。


「アハ、ヘヘガガガアハハhへへへへh!!!」

「――【魔法】フラッシュ!!」


 俺は魔法フラッシュを使用し、直進してくるクリーチャーを避けた。

 ちなみに、フラッシュは魔石を1個だけで使える超コスパ最強の魔法だ。

 攻撃にも使えるし、防御にも使える。


 俺が魔法を使い右へ避けると。クリーチャーは止まり切れず壁に衝突した。


「お前の作品。すこしポンコツ過ぎねぇか?」

「それは欠陥品ですよ。最高傑作は他に居るんですから」


 あっそ。

 そりゃすげえな。

 とにかく。フラッシュでどこまで時間を稼ぎながらティクターの首元へ飛び込めるかがカギだ。


 それに。さっき少しだけ見えたんだが。

 あの玉座の横に、俺が見たことある人物が座っていた。

 それは路地裏の子供の一人。クマのぬいぐるみを持っていた女の子がいた。

 あの子以外はただの罠で、あの子だけ本物の人間だった。と言うオチだろうか。

 いかにも魔解放軍がやりそうな。いやらしい技だな。


 さっさとティクターを倒して、あの子供も助けてやるよ。


「アヘ、ガガヘヘアッハハハハhハ!!!」

「……猪突猛進しか出来ねぇのかよ」


 次は左に避けてみた。

 クリーチャーはどうやら勢い付けて走りすぎて止まったり曲がったりするのが苦手な部類何だろうな。

 これは、避けているだけで俺は生きて居られるが。

 その弱点をティクターが知らない訳がない。

 つまり。これは元々時間稼ぎが目的か?


「ケニーさんケニーさん」


 その声は、ティクターの声だった。

 何だか面白そうに、笑いながらの言葉だった。


「……なんだよ」

「もう少し、足元、見た方がいいんじゃないですかね?」


 あ?

 なんだこれ。

 黒いクリーチャーが不気味に笑っている足元。

 いいや、正確に言えばクリーチャーが走ってきた道に。

 黒い液体。いいや、影の様な物が生まれていた。

 その影からは小さく笑い声が聞こえていて、赤ちゃんの腕が何本もうじゃうじゃ生えて来ていた。


 ……それにこれ、マズイんじゃねぇか?

 俺は右に避けた後、左に避けた。

 俺がいる一階の闘技場は円形で、

 上から見たらケーキで四分の一等分する感じで線を引いていた。

 そして俺はその線の内側に立っている。


 つまり俺は、黒い線に完全に閉じ込められていたのだ。

 もう少し逃げる場所を考えるべきだったか。


 もしあの黒い線を踏んだら。どうなる?

 嫌な予感しかしないが。

 これがあのクリーチャーの戦い方って訳か。

 気持ち悪いな。


「場所に限って能力の真価を発揮するこの個体は使えないと思っていたがぁ……思ったより使えますね」

「こんな不気味な物。どうやって作ったのか知りたいなぁティクター?」


 錬金魔法の類だろうか?

 いや、あれはそんな複雑な事は出来ない。出来るのは単純な事だけな筈だ。

 じゃあそうゆう方法が何かしらあるのだろうか?


「やり方さえ知っていれば必要なのは素体だけです。素体集めだけはドミニクに手伝ってもらいました」

「……何を素体にしたかなんて聞きたくないが。ここで足止めされるのは俺じゃねぇ」


 素体。素体ね。

 伸びている人間の腕と、クリーチャーが作った影から伸びてる赤ちゃんの手。


「………」


 マぁジで胸糞わりぃなァ?


「アh! ヘハハハハハhアアア!!!」

「うおおおおおおお!!」


 俺は短剣を構えた。

 足に力を入れて、まだ使えるフラッシュを使って。

 いいや、この際使ってしまおう。

 フラッシュは注ぐ魔力量によって動くスピードや飛ぶ高さが変わる。

 そう。“飛ぶ高さ”が変わるのだ。


「――――」


 雷が下から上に伸びると共に、激しい轟音が響き渡った。

 その瞬間、俺は空高くに飛び上がり。クリーチャーの視覚から外れた。

 と共に、俺の下で。


「ヴェネット!」

「遅くなった、ですわ――!!」


 紫のセクシー美人がナイフを投げる音がした。

 俺がその名を叫ぶと、女は笑顔でそう答えた。

 全く、世話の焼ける仲間だよ。


 ヴェネットならあのクリーチャーの相手が出来る筈だ。

 だから俺は。


「よお、ティクター」

「なに……!?」


 大将の首を狙う。


「お前の落ち度は二つある!!」

「くっ――。守れェ!!」


 ティクターのその言葉に、玉座影から湧いてて出来た小さなクリーチャー。

 それは空中を漂っている俺に近づいてきたが。


「おらあ!」


 短剣で思いっきり、そのクリーチャーを一刀両断する。

 小さいからか、意外と簡単に切れた。

 つうか、本物の魔物よりよっぽどやわらけぇじゃねぇか。


「落ち度その1! 結界に制約がある事!!」


 もしティクターが全ての事を想像し作ることが出来たなら。

 言ってしまえば、出口を失くしてしまえばよかった。

 絶対出れない結界を作ってしまえば、俺らはどうする事も出来ず、ここで死ぬしかなかった。

 だが、多分だが、結界魔法に共通して言える事は二つある。


『まず、物理的な出口失くす時は“結界を展開した術者”が結界内に入っていなきゃいけない』


 そうすれば、術者を倒すだけで結界が解除され、結界を解除することが出来る。

 そして二つ目。


『術者が結界外にいる場合。必ず結界内に出口を作らなきゃいけない』


 難しい事を言っているかもしれないが。

 めっちゃ簡単に言うなら、


『必ず結界を破る方法を用意する事。それが結界生成の制約』


 と言う訳だ。

 一見、結界は展開してもあまりメリットが無いように聞こえるが。

 本来なら結界を作る利点は多くある。

 まず術者の能力強化と、今回の様に術者独自の魔法を結界に付与できる事だ。

 自分に有利なフィールドを作ることが出きる。

 強力過ぎる魔法、の筈なんだが。


「落ち度その2! 俺らを舐めてかかって、遊んでた事だ!!」

「っ! 黙れ黙れ、だまあああれええ!!」


 元々、最初から姿を現して徹底抗戦すればよかったものの。

 変にゲームちっくにしたせいで。ティクターは敗北した。

 つまり。俺らが数枚上手だったと言う事だ。

 馬鹿だなぁ。


「ケニイイィィィ、ジャアアアックゥゥゥ!!!!」

「地獄で俺を待ってろ。続きは半年後だサイコ野郎」


 その瞬間、手ごたえがあった。

 何かを切った、そんな気持ち悪い感覚が。

 初めて感じる感覚だったが。それは確実に不愉快で。

 だから、俺は初めて理解した。




 俺は、ティクターの首を切り落とした。



――――。



「大丈夫ですの? ケニー」

「あ………えっちなおねえさんだぁ」


 強めに殴られた。

 寝ぼけてたんだ。それくらいの無礼は許してくれよヴェネット。


「いってて」


 気が付くと、そこは霧が濃い知らない場所だった。

 周りを見回すと、俺と、ヴェネットと、アーロンとサリーが倒れていた。

 無事だったのかととりあえず胸を撫でおろした。

 それともう一人。ティクターの傍に座っていた女の子が端っこですすり泣いていた。

 まあ、あれだけショッキングな物を見せられたんだ。

 俺がガキだったら泣く。


「アーロン? 大丈夫か」

「……っ、ご主人様?」


 気を失っていただけだった。

 外傷は特になし。

 可愛い白髪の頭に、一本だけ伸びてるくせっ毛。

 我らがアーロンがそこに居た。


「大丈夫か? 気分はどうだ?」

「気分は少し悪いです……けど、ヒールすればこれくらい」


 やっぱりヒールは万能だよな。

 とりあえず掛けとけばいいって感じだし。

 まあ、とにかく。


「そうか……良かったよ」


 無事を喜ぼう。

 あの結界の中で、無事に居てくれた事を喜んでおくべきだ。


「へへ……何ですか? 急に」


 嬉しそうな顔が久しぶりだった気がする。

 俺はサヤカの頭を撫でてやった。

 嬉しそうにウヘヘと笑ったので、今後も問題なく、継続していこうと思う。

 思えば、こうしてアーロンの頭を撫でてやるのも久しぶりな気がするな。


 本心で言うならこのまま抱きつきたいけど、ま、嫌がられるだろうな。


「とにかく、ここはどこなんだ?」


 霧がだいぶ晴れてきたな。

 ここは……開けている。

 周りに特に建物などは無く、空が良く見える程開けていた。

 俺らが倒れている場所は、ここの中心部の近くだろうか。

 そして中心部にあるのは……像。


「え?」


 像、像……アリシア像?


「――――」


 ドクッ、ドクッ、ドクッ。

 そんな心臓の高鳴りが俺の耳まで聞こえてきた。

 もしこの場所が本当に、中央エリア『アリシア像』ならば――。


 俺の目に写った4メートル程ある光る石は純魔石って事……?


「『ヴェネット・ハッグ。俺はお前を、仲間として信じるよ』だっけぇ?」


 知っている声が聞こえた。

 それと共に、とてつもなく嫌な音がその場に響いた。

 俺が戦慄しながら振り返ると。


 ヴェネットは、女の子に近づいていた。

 あの路地裏で泣いていた子供の、本物だと思っていた女の子の近くに居た。

 ヴェネットは屈みながら、俺から見て女の子が見えないような位置で座っていた。

 その横ではサリーが目を擦っていた。

 そして、そして。


「やあ、ケニー・ジャック」


 女の子はヴェネットの胸に、ヴェネットの投げナイフを深く突き刺していた。


 状況が理解できなかった。

 すると、女の子は女の子らしからぬ低い声で俺の名前を読んだ。

 その声は聞く度に不快感を覚え、ずっと、知っている声色だった。


「ッオエ」


 ヴェネットは大きな血の塊を口から吐き出す。


「お前は情報収集として使わせてもらったが。

 最後は、俺の登場を盛り上げる演出として使ってやるよ」


 そんな冷たい言葉がヴェネットに降りかかる。

 俺からは顔が見えなかったが、少し震えた声でヴェネットは。


「………ドミニク様」


 それはどんな感情だったか、想像するしかなかった。


「さようなら。お疲れ様」


 勢いよくナイフが抜かれ、ヴェネットは勢いよく地面に倒れた。

 その瞬間、女の子の頭が割れ。

 あの時の様に。

 小さな顔をベリベリと剥がし、黒髪が現れ。

 赤い目が、少女の内側から現れた。

 少女の皮を腰に付けていたポーチにしまい。

 気が付くと、そこには。


 黒髪で赤い瞳をした男が、俺を見下すように、その場に立っていた。


 名は、ドミニク。

 ドミニク・プレデター。


 男と男は、二度目の邂逅を果たした。

 邂逅。

 二度目の、運命的な、偶然では片づけられない程。

 因果を感じるほど。

 その出会いには、意味があった。



「俺の名前はケニー・ジャックだ。次こそ、お前を許さない」


「前より威勢がいいじゃないかぁ、行くぞ」




 ■:中央都市アリシア・中心エリア『アリシア像』




 ケニー・ジャックとドミニク・プレデターは、二度目の邂逅を果たした。




 余命まで【残り●▲■日】



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?